第二十話:共同探索『色彩森林』
「はぁー……。ねぇ、イルミネ。物は試しなんだけどさ、二人でPT組んで一緒に探索してみない? 二人でならソロよりもちょっと強めのとこいけると思うんだけど」
ふと思い立ち、シヅキはイルミネにひとつの提案を行う。シヅキは普段、目標の関係もあってソロプレイを好んで行っているが、別に他人と協調するのが嫌いという訳ではない。それに、仲の良い友人と同じオンラインゲームを遊んでいるというのに、今まで一度たりとも協力プレイを行っていないというのもよく考えればおかしな話だろう。
UGRではPTを組んでいる場合ID内の敵や罠の数が増加するらしいが、それでも一人より二人の方が単純に戦力としては上だし、たとえ二人ともソロ専業のビルドであっても、二人居るからこそできることもきっとあるはずだ。
「なに? 急に……。私もアンタもソロ専でしょ。ビルドの都合上、PT組んだところで各々が勝手に戦うだけにしかならないと思うけど」
「それでもいいよ~。いやさ、さっきの話で思ったんだけど、どうにもわたしってこのゲームの常道をあんまり知らないみたいだから。そのへん、是非普通代表のイルミネさんに御教授いただきたいな~って」
別にシヅキも自身が特別異様なプレイングをしているとまでは思っていないが、他人のプレイを見ることによって初めて自身の改善点に気付く可能性だってある。
……あるいは、好きなゲームを友人と一緒にプレイするのに一々理由付けをする必要もないだろうか。とはいえ、それを素直に口に出すのは流石のシヅキでも憚られる。端的に言って恥ずかしいのだ。
「あぁ、なるほど? まぁ……そういうことならいいわよ。わたしもアンタが普段どんなふうに攻略してるのか興味が湧いてきたし」
「やった! じゃあどこ行く? わたしとしてはこの『深淵魚類の神殿』とかがいいと──」
「バカ、それ脅威度85もあるじゃない! ここはもっと低めの──」
そして、二人の少女は和気藹々と探索先選定を始めた。
◇◇◇
「脅威度64、『千年樹木の大樹海』……東の森の先かぁ。結構遠いなぁ」
「文句言わないの。森まではファストトラベルで行けるんだし、精々10分かそこらの距離でしょ?」
「森はアイツが出るじゃん……。まぁ、牛肉はいくらあっても困らないだろうし行きがけに狩ってもいいけど。今から空想食材を取りに行こうってときに、いくら物が良いとはいえ普通の牛肉集めても……って感じ」
憤怒の巨牛は過去二度の戦いで十分にその性質を把握できている。最早シヅキ一人でも全く苦労はしないような相手であり、イルミネとPTを組んでいる現在なら更に容易に打倒できるだろう。
「私、憤怒の巨牛とは戦ったことないのよね。序盤のフィールドボスの癖にアクティブエネミーなんだっけ」
「大体常に突進してて攻撃機会少ない上にVIT100HP1000の壁役が即死する範囲攻撃持ってて行動速度が倍増する発狂モードもあるよ」
こうして羅列すると改めてとんでもない性質をしている。どう考えても序盤に出てきていいボスではない。
「うわめんどくさっ。……肉の在庫はまだあるし、森は迂回していきましょ」
「そだね~、そうしよっか」
……森の外縁部をぐるりと迂回し、二人並んで歩くこと暫く。森林を構成する樹木の様相が先ほどまでとはがらりと変わり、色とりどりの葉を付けた巨大な木が立ち並ぶようになる。
目的のインスタンスダンジョン『千年樹木の大樹海』がある、フィールド『東部・色彩森林』へと辿り着いた証だ。
「おー、綺麗……っていうにはけばけばしいな。黄色や赤色はともかく、青やピンクまであるのはちょっとカラフルすぎるよ」
「んー……。でも、見た目に反して空気はいいわね。当たり前だけど、ちゃんとした森のそれだわ」
「それで? 『千年樹木の大樹海』はどこにあるの?」
「そこは私も知らないのよね。情報では色彩森林にあるとまでしか聞いてなくって」
聞きこそしたが、実際そこまでイルミネが把握しているとはシヅキも思っていなかった。シヅキはイルミネの情報源を知らないが、それでもこの目立った目印もない森をマッピングして、詳細な座標を残し他者に開示する奇特な人物がいるとは思えない。
どこどこになになにがある、程度の情報でも、こうして探す範囲はいちフィールドにまで絞り込める。有難く恩恵を享受することにしよう。
「手あたり次第か~。まぁ、ちらほらと他のプレイヤーも見えるし。東の森ほどエネミーに絡まれることもないだろうから、そこまで苦労はしない……かなぁ」
「それこそ他のプレイヤーに聞けばいいんじゃないの?」
「うーん……そこまで急がなくてもいいでしょ。ゆったりと行こうよ」
見方を変えればこれも一種のデートといえる。予定が詰まっている訳でもなし、シヅキはイルミネと共に、ゆるりと探しにかかることにした。
「ふむ、エネミーの姿もちょいちょい見えるし、流石に戦闘準備しておこうか。〈血の剣〉うーん……」
「……前のPvPでも思ったんだけど、その倒れるのってどうしようもないの? かなり明確な欠点に見えるんだけど」
脱力し下草に倒れ込むシヅキを見て、イルミネがふと疑問を発した。この抗いようのない脱力は、〈血の剣〉の明確な弱点だ。これがあるせいで、敵と相対した状態では使えるタイミングが極めて限定的になってしまう。
「わたしも改善したいとは思ってるんだけど、身構えてれば対抗できるようなものでもないんだよね~。血の剣を強化する〈血刃変性〉で治るかと思ったら、なんか余計酷くなっちゃったし」
「〈血刃変性〉?」
「こういうやつ」
シヅキが手に持った剣を振るうと、蛇腹剣がその身を伸長させ、かなり離れた樹木の幹を切り裂いた。イルミネは目をまんまるにして驚いている。
「じゃ……蛇腹剣!? そんなことできるの!?」
「できちゃうんだなーこれが。こういうのもあるよ。〈血刃変性〉」
言って、シヅキは短剣二つを合体、サイズ上限の2mに近い巨大な斧槍を形作った。手近な木に全力で叩きつけると、その幹に大きな切創が刻まれる。
「うわうわうわ……羨ましい! というかズルいわよ! なんで短剣だけそんなこと出来るの!?」
イルミネは若干興奮した様子で声を張り上げる。その音でエネミーを寄せ付けるのではないだろうか。正直やめてほしい。
「ズルいって……。一応血の剣は短剣以外でも使えるよ。なんなら槍も対応してたはずだし。ただ、HP特化ビルドじゃないと全然有効活用できないってだけで」
「こんな変形ができるならそれだけでお釣りが来そう! ……私も取っちゃおうかしら」
「ちなみに、これ一回変形するのにMP200ね」
そうシヅキが告げると、先ほどまでは目をきらきらさせていたイルミネの動きがぴたりと止まる。
「は?200……? わたしの外器が一回300消費とかなんだけど。重すぎるでしょ!」
イルミネが叫び、その声に釣られて群青の毛皮を持った大きな狐らしきエネミーがやってきた。今はお呼びではないとシヅキが適当に血の刃を連射すると、なんと接近される前に倒しきれてしまった。
武器を大型化している場合、斬撃の軌跡がそのまま飛んでいく性質である〈血の刃〉もそれに応じて巨大になる傾向にある。どうやらそれは、攻撃の威力にもある程度影響を及ぼしているようだ。
「……。まあ、どう考えても〈生命転換〉前提の数値だよね。HP400消費ならそんなもんかなって感じ」
「今のHPはいくつなの?」
「今回は血刃変性の出費があったから、まだ伸ばせてなくて4380のままだねぇ。でも、今見えてるHP強化パッシブ2つを取れれば1万の大台が見えてくるかな」
HP+40%の〈HPブースト・Ⅳ〉とHPが倍になる〈内器:無尽蔵の生命力〉を習得できれば、シヅキのHPは10200に達する。それだけの数値ならば、たとえ心臓に穴が開いたとしても暫くは生きていられるほどシヅキの生存能力は上昇するだろう。
「HPだけならボス並みじゃない? 真っ二つにされてもしばらく普通に生きてそう。うーん、化け物ね……」
「酷い言い草だぁ」
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Tips
『攻撃の大きさと与えるダメージについて』
UGRにおいてダメージの計算に用いられる武器攻撃力。
それは言うなれば「切れ味」や「衝撃力」のようなものであり、たとえば武器攻撃力が10と低い値でも、相手の首を刎ねてしまえば確実に死ぬだけのダメージを与えられるが、武器攻撃力が1000あっても指先を切っただけでは大したダメージは与えられない。
そのため、実際のダメージ計算では武器攻撃力よりも「どの部位に」「どれだけの傷を与えたのか」の方が重要となる。
当然、斬撃の範囲は大きければ大きいほどより相手に与えるダメージは高くなるだろう。
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