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第十九話:ゲーミングクソボス

「〈HPブースト・Ⅳ〉〈内器(インナーヴェセル):無尽蔵の生命力〉、〈命脈斬〉、〈リインカーネーション〉、〈外器(オーバーヴェセル):赤き鮮烈なる死(レッドラッドデッド)〉……うーん、どれもこれも欲しいな……」


 シヅキは自らの習得可能スキル一覧を眺めていた。情報だけが解禁されている灰色文字のスキル群、それらひとつひとつに目を通していく。

 どうやら等級Ⅴのスキルは、取得個数に制限がある代わりに特に強力な効果を持っているらしい。スキル説明によると、パッシブスキルである内器(インナーヴェセル)は3個、アクティブスキルである外器(オーバーヴェセル)は1個までしかそれぞれ同時に習得できず、その制限を超えて習得しようとした場合、カテゴリに該当する習得済みのスキルをひとつ選んで消去することになるようだ。


 スキル一覧を眺め、シヅキはビルドの行く先を空想する。HP特化向けのスキルは見えているだけでもそれなりの数存在しており、ゲーム開始当初想像していたのとは違い確固としたひとつのビルドとして十分に成立しそうに思える。


「この外器(オーバーヴェセル)ものすごい性能してるな。……なんかこれ普通にHP特化が最強ビルドになるのでは? イルミネのアレを見るに他の外器も大概な性能してるみたいだし、意外とそうでもないのかな」


 試合の翌日に教えてもらった、イルミネの〈外器(オーバーヴェセル):風雷槍エル・トール〉は『武器攻撃力の計算がAGI*2.0と普通の武器の倍の値で、雷と風のふたつの属性を持ち、接触した相手に麻痺を与え行動を阻害し、なおかつ装備者のAGIを倍化させる』という凄まじい性能をしていた。イルミネがあの異様な高揚を見せていなければ、きっとシヅキはあっけなく敗北していただろう。


「は~、今後の展望も楽しみだぁ。イルミネの調べた美味しいものを集めつつ、がっつり経験値を稼いでいこう!」


 シヅキの目標はゲーム内で最も凄惨な最期を迎えること、そのためにUGRで最も強い敵と戦えるだけの力を得ることだが、だからといってそこまでの過程を楽しんではいけないという訳でもない。どうせやるなら楽しいほうが良いだろう。


「それで、えーっと、難易度的に手頃なのは……脅威度54の『虹色粘体の廃坑』かな。ここのボスが『極彩色の鉱石飴リッチリィ・ジュエリィ・ドロップ』って食材を……食材?食品では? でも名前からして美味しそうだな……」



    ◇◇◇


「クっ……クソボス!!」


 天井の低い廃坑内の広場に、シヅキの絶叫が響き渡る。視線の先には黄色の体色をもった巨大な粘体。ばちばちと電光を迸らせながら、不気味に顫動している。


「複数の属性攻撃手段持ってないと殴れる時間が全然ないとかこんなもん要修正案件でしょ! モードチェンジで耐性変わる敵自体はありがちだけど! 普通は弱点属性以外でも少しはダメージが通るもんだよ!!」


 『虹色粘体の廃坑』のボス、その名は『レインボースライム』。定期的に体色が変化し、その色に対応した属性の攻撃を乱打してくる強力なボスだ。

 しかし、シヅキが怒っている理由は強さではなくその特殊な耐性にあった。なんと色に対応した属性、その弱点となる属性以外のありとあらゆる攻撃を無効化してしまうのだ。無論、無効化の対象には無属性も含まれている。

 シヅキの攻撃手段は赫血の短剣の闇属性しかなく、そうである以上弱点を突けるのはスライムが聖属性となったときのみ。つまり、スライムの全ての属性パターンのうちの大半が、スライムが一方的な行動を繰り出すだけの、シヅキにとって大変不愉快な時間となる。

 自身を狙って放たれる雷を、ときには回避し、時には血刃変性で作り出した幅広の剣をかざし、面で受け止める。そうやってシヅキが逃げ回り時間を稼いでいると、ふいにレインボースライムの動きが止まり、その身体から強い光を放ち輝きだした。属性変更の合図だ。


「聖こい聖こい聖こい……わぁー火!! くそっ、せめて五属性武器持ってたら殴れるパターンは2つだったのに……! 百歩譲って弱点以外無効はいいとして、それでも無属性だけは通すでしょ普通……! 属性攻撃持ってなかったらもうその時点で詰みじゃん! クソボス~!」


 UGRの属性相性は微妙に複雑だ。属性自体は火、氷、風、雷、土の五属性に聖と闇を加えた合計七つというオーソドックスなものだが、どうやら五行思想を元にしているらしく、火は風と雷に強く、氷は火と雷に強く……といった具合に、一属性につき二種の特攻と二種の弱点が設定されている。

 たとえばシヅキが持っている短剣が火属性だったのなら、レインボースライムが風属性のときと雷属性のとき、二つのパターンで攻撃を通すことができただろう。だが、現実はそうではない。シヅキの武器は闇属性であり、闇属性が弱点となるのは聖属性だけだ。


 シヅキはその後も敵と開発への怨嗟を吐き散らしながら、ピカピカと七色に輝くスライムとの死闘を繰り広げた。



    ◇◇◇


「はいこれ『極彩色の鉱石飴リッチリィ・ジュエリィ・ドロップ』。わたしの怨嗟が詰まってるよ」


 同日午後。散々キレ倒しながらもレインボースライムをしこたまシバき回したシヅキは、かき集めた極彩色の鉱石飴リッチリィ・ジュエリィ・ドロップを渡すためイルミネと合流していた。


「あら綺麗。……んー! すごっ……なにこれ、物凄くおいしい!」


「……一緒に食事する度に思うんだけど、イルミネってなんか食べるの早くない? いや、完食までじゃなく最初に口に含むまでがさ」


「……?」


「あっすごい純粋な目。自覚ないんだ……」


 心底不思議そうな顔で見返され、シヅキは思わずたじろぐ。幸い、イルミネの食べ方自体はとても綺麗だ。シヅキは『見方を変えればこれもイルミネの可愛らしい癖のひとつだろう』と自分を納得させることにした。


「うーん? ……まぁいいわ。確かこれって脅威度55かそこらのところのやつでしょ、そんな怨嗟を募らせるほど難易度高かったの?」


「いやぁ……これ落とすボスがとんでもないクソ能力だったんだよね。弱点以外無効の癖に無属性も効かない属性チェンジボスっていう」


 思い返しただけでシヅキの怒りが僅かに再燃する。ほのかな苛立ちを忘れようと、シヅキは宝石飴を口に運んだ。……非常に美味しい。シヅキの頬が思わず緩む。


「……うん? 確かに面倒ではあるけれど、そんなに酷いかしら? 普通、属性攻撃って序盤に一通り取ってると思うんだけど」


 ……血の刃の汎用性を過信しているシヅキは今まで見向きもしていなかったが、血の刃のように武器属性依存ではない、スキル固有の属性を持ったアクティブスキルは等級ⅠやⅡの低等級帯にも豊富に存在している。

 低等級のアクティブスキルは動作やコストの面で技としての使い勝手が良いものが多く、大抵のプレイヤーは各属性につきひとつかふたつは当然に習得しているだろう。


「えっ、わたし、そんな常識知らない……。だって、血の刃だけで大体なんとかなってたし……」


「……攻撃系アクティブスキルひとつだけでやりくりしてるの、ぶっちゃけものすごいアホのやることだと思うわよ。どう考えてもダメージ効率悪いでしょうに」


「だって……血の刃はCT0秒だもん…………。動作もワンアクションだし、ほとんど通常攻撃の感覚で振れるんだよ? 他の攻撃スキルなんていらないと思うでしょ……」


「だもんって、アンタ……」


──────────

Tips

『属性』

 UGRには無/火/氷/風/雷/土/聖/闇の8つの属性がある。

 火は風と雷に強く、氷は火と雷に強く、風は氷と土に強く、雷は風と土に強く、土は火と氷に強く、聖と闇は互いに特攻をもつ。


 また、極一部のスキルは複数の属性を同時に持ち、その場合は相手の属性に対して有利なものだけが優先して反映される。

 例えば雷と風の複合ならば、風、土、氷の3属性に対して有利となり、火と土の複合ならば、風、雷、火、氷の4属性もの相手に対して有利となる。

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