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第十六話:リベンジマッチ『憤怒の巨牛』

 イルミネとの激戦を制したシヅキ。その後も順調に勝利を重ね続け、遂に目標としていた数の『チョコレート』を集めきった。


「赫血の護符Ⅱ、Ⅲ、Ⅳ……Ⅴ! よし……これで……、できた~! 『赫血の短剣・Ⅴ』!」


 シヅキはイベント限定武器と、それを強化する専用アイテム4種を引き換え、その場で使用。イベントの目的であった『赫血の短剣・Ⅴ』を完成させる。


「これでHP実数値は……キリ良いとこまでちょっと振って……4380! うーん、ずいぶん増えたねぇ。これだけあるなら〈HPブースト・Ⅳ〉とかも……ふむ、等級Ⅳ……経験値600か~。これはまたがっつり稼ぎ作業しないとだなぁ」


 イベントの副産物として入手したスキルチケットはまだ2枚残っているが、あれではEXP400Pt分、等級Ⅲまでのスキルしか習得することはできない。


「……あぁそうだ、イルミネに連絡もしとかないと。えーっと、『適当な日に予定を丸一日空けておいて』でいいかな? うぅん、楽しみ!」


 シヅキはイルミネとの試合の前に交わした約束、『シヅキが勝ったらイルミネがなんでもひとつ言うことを聞く』権利を早速行使する。

 実際にはイルミネは『なんでも』とは一言も言っていないが、シヅキの中では既にそういうことになっていた。


「あ、もう返事きた。『明日ならOK』……早いな! それだけイルミネも楽しみにしてくれてるってことかな? これは本気でやらないと……」


 とはいえ、今はまだ昼時、明日の朝から会うとしても時間にはかなり余裕がある。それまでの時間で、シヅキはイルミネのために食材を集めることにした。


「……。わたしもかなり強くなったし、そろそろあいつにリベンジしに行くべきかな」



    ◇◇◇


 クレコンテッタの町から東へ行ったところにある森林フィールド。シヅキは、再びその地に降り立っていた。


「ファストトラベル地点追加、地味にありがたいアプデだな~。…………?」


 鬱蒼とした森を目にし、シヅキの手足が意思とは無関係に震えだす。以前この地で経験した初めての死、絶望的な痛苦の経験は、たとえ自らがそう望んだが故のものであってもシヅキの心に大きな疵を残していた。

 精神的には既に痛苦を受け入れている。だが、身体が恐怖を、痛みを覚えている。


「……わた、わたしは大丈夫なん、だけどな……。どうしても、肉体的な反応は……消せないか。ふ、ふ。まぁ、戦いになれば……ビビってる暇もなくなるでしょ、きっと」


 口角を吊り上げ、無理矢理に笑い、シヅキは森の奥へと歩みを進める。手足の震えは収まらず、息が詰まり、動悸がしてくる。

 それでも、時折遭遇するエネミーとの戦いを何度かこなしていくうち、身体の反応はある程度落ち着いていった。


 そして、森に入ってしばらく。新緑の森には似つかわしくない赤い鬣を持った生物を遂に発見する。シヅキがそれを認識した途端、一度は収まったはずが再び強くなる動悸。


「ふぅー……、ふぅー……。大丈夫、今のわたしなら、初見の行動にさえ気を付けていれば十分に勝てるはず……。〈マナシールド:強度1000〉…………。〈血の剣〉、〈セルフヒーリング〉。……よし。〈血の刃〉!」


『ブモオオオォォ!』


「……っ」


 『憤怒の巨牛』の背面に回り込み、遠距離攻撃で奇襲を行う。前回頸へ攻撃を行ったときとは明確に異なり、巨牛の後ろ足には確かに裂傷が刻まれた。

 そして辺りに響き渡る、怒りを孕んだ咆哮。巨牛は、眼前の矮小な存在へ向けて全力で突撃を敢行する。


「くそっ…………っ!」


 眼前に迫る巨体。恐れからシヅキの足が竦み、視界が滲む。精彩を欠いた動き、跳び込むようにしてなんとか突進を回避する。


「あぁもう、ままならないなぁ……!」


 憤怒の巨牛の特徴である、止まることのない突進。木々をなぎ倒しながらカーブを描き再度こちらへ向かってくる巨牛に、シヅキは血の刃を飛ばし続けて攻撃を行う。


「前はこれでやられたんだっけ……。頼むよ~、魔力の壁くん」


 前回の敗因、回避後の謎の攻撃を見逃さないよう、シヅキは巨牛から決して目を離さないようにしつつ、戻ってきた巨牛を真横へ回避する。

 突進を回避され、高速でその場を通り過ぎる巨牛。その身体がなんの予兆もなく即座に転回、慣性を物ともせず、速度を維持したまま鋭角を描きシヅキへ向かって突っ込んできた。


「はぁ!?」


 完全に予想外の挙動に、シヅキの反応が遅れる。その間に割り込んだ魔力の壁が突進を受け、びしりと小さな罅が入った。

 だがその献身により、シヅキは命からがら突進を躱すことに成功した。


「ふざけんな! 初見殺しが過ぎるでしょ!! 前回食らったのはアレだったのか……。あ、悪辣……!」


 先ほどのような鋭角の旋回を入り混ぜた突進に細心の注意を払いつつ、血の刃を飛ばしダメージを与えていくシヅキ。

 巨牛のHPが3割ほど減った段階で、2連続で旋回を行う突進が繰り出される。だが、それをある程度予想していたシヅキは余裕をもって躱す。


「くっそ、ずっと突進してるせいで攻撃機会が少ない……! でも、これだけなら割となんとかなりそうかな……?」


 巨牛は動作こそ激しいが、行動パターン自体は非常に単純だ。このままなら余裕で削り切れる──シヅキがそう考えた矢先、シヅキの眼前で急停止し、前足を振り上げる巨牛。ここにきての新たな行動。


「う、おっ……! 範囲攻撃っぽい! 助けてシールドくん!!」


 巨牛が前足を揃えて地面に叩きつけ、先端の尖った無数の岩柱が周囲の地面から突き出してくる。

 召喚者の意図を汲んだ魔力の壁が、その身を犠牲にしてシヅキに当たる軌道の岩を破壊した。だが、攻撃を防いだ代償か、魔力の壁は次の瞬間粉々に砕け散った。


「うっそでしょ強度1000が一発で割れるの!? くそっ……〈マナシールド:強度200〉! あーもう、なにも食らってないのにHPが1000近いって、この戦法燃費悪すぎ!!」


 〈生命転換〉の劣悪な燃費に文句を言いつつ、シヅキは再度魔力の壁を召喚する。最早〈血の刃〉に割くHPも不足してきており、これ以上のHP減少は非常に都合が悪い。

 シヅキはあえて〈生命転換〉を解除、MPを消費して〈セルフヒーリング〉を使用する。回避に注力、時間を稼いでスキルのクールタイムを消化し、HPを補充していく。


「よし、回復完了!〈生命転換〉再発動! 突進っ、全部っ、避けて……〈血の剣〉ぅーん……」


 シヅキは再度戦闘準備を済ませ、巨牛への攻撃を再開した。巨牛の鋭角突進にも慣れ、遠距離攻撃の命中率も上がってきている。

 時折飛んでくる範囲攻撃も、巨牛の背後に安全地帯が存在していることに気付いて以降、魔力の壁を犠牲にすることもなくなった。


 そして、巨牛のHPが25%を切る。


『ブモッブモッ、ブモオオォォ!!』


「さー、なにが来るかな。初見殺しは怖いし……保険は用意しておこっか。〈マナシールド:強度1000〉…………。〈セルフヒーリング〉」


 前足で土を蹴り締める憤怒の巨牛。その身体を赤いオーラが纏い、巨牛の目が真っ赤に染まる。


「あー……HP減少で発狂するタイプ?」


 次の瞬間、爆発のような音と共に巨体がシヅキに迫る。先ほどまでの突進と比べ、その速度は倍近い。


「オワー速すぎ!」


 高速の突進を、身体を捻り、足の隙間に頭から飛び込むことで強引に回避する。無謀な回避によって着地が乱れうつ伏せに接地、急いで起き上がり、鋭角突進に備えるシヅキの目に映るのは、凄まじい速度で木々をなぎ倒しながらゆるやかに転回する巨牛の姿。


「あっぶな……今のが鋭角突進だったら死んでたなぁ……。股抜けは二度とやんないようにしよう」


 いくら速度が速くなろうとも、事前に進路が分かっているならば躱すのは不可能ではない。真に恐ろしいのは鋭角を描く突進だ。シヅキは十分に警戒しつつ、ある程度余裕をもって巨牛を攻撃する。


「……? 鋭角突進、してこないな……。スピードが増した代わりにパターンが易化した……?」


 どうにも行動パターンが簡単になった巨牛に、気を抜いたシヅキ。その眼前で、巨牛が両足を高速で振り上げる。


「うわっ範囲攻撃も高速化してるの!?」


 岩の柱が高速で突き出してくるが、先ほど張った魔力の壁がぎりぎりで防ぎ、砕け散る。


「あっぶなー……HP25%以下だとこっちがメインの脅威か……。でも、これで手札は出尽くしたかな? ふ、ふ。だったら──わたしの勝ちだね」


 赤い双剣を構え、シヅキは不敵に微笑んだ。


──────────

Tips

『部位破壊』

 エネミーによっては『破壊可能部位』が設定されていることがある。

 これが設定されている部位は一定以上のダメージを与えることで破壊ができ、エネミーの弱体化を引き起こすことが可能である。

 逆にいえば『破壊可能部位』が設定されていないエネミーの場合、どれだけ同じ個所にダメージを与えたところでエネミーの能力が削がれることはない。

 エネミーのHPを全て削り切るまで、常に万全の性能を発揮するだろう。

──────────


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