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3.友政爺ちゃんの罪を知ってしまったんだが

昭和7年12月


(こうして自分の十三回忌を見ているというのもおかしな気分ですわね。)


 霊体となった薫子は成仏することも無く、邸内をフラフラと過ごし、気付けば自身の十三回忌を迎えてそんな感想を漏らしていた。

 さすがに十三回忌ともなれば弔問客もほとんどなく、法要としての体裁を整えた邸内はいっそいつもより寂しく感じられる程であった。


(トモ様は今、どのようにお過ごしなのでしょう……)

 

 直接の死の原因ではなかったとはいえ、やはり駆け落ち未遂相手の話はタブーなのか、邸内で彼の話題が出ることはなかった。


 彼の心配をしたところで何もできないことは理解しているのだが、想いを馳せずにはいられない。未練を断ち切れない自身の感情に薫子は苦笑していた。


(こんな状態がいつまで続くのでしょうか……)


 だが、その日の夕刻、事態は急変する。


 数少ない弔問客も帰り、薫子は、父である当主弥之助が書斎で書き物をしているところを後ろからボンヤリと眺めていた。


 そこへノックの音がする。


「旦那様……その、岩津友政様がお見えになりました。お言いつけ通り仏間にご案内してございます」


「おお、そんな時間か。すぐに行こう」


(岩津……友政!トモ様が!?)


 薫子は混乱したまま父の後について客間に向かった。


 客間では事件から12年が過ぎ、30代になった岩津友政が居た。弥之助が部屋に入るなり、友政はそこで平伏した。


「この12年間何とお詫び申し上げて良いかと……本当に申し訳ございませんでした!」


「いやいや、頭を上げてくれたまえ。むしろ我が笹森家が救われたのだから。君に謝られるとかえっていたたまれんよ。さあ、よければ薫子に線香を上げてやってくれないか」


「寛大なお言葉、恐れ入ります」


 その後友政は薫子の仏壇に線香をあげて手を合わせた。


 しきりに恐縮する友政に対して弥之助は「せっかく遠くから来てくれたのだから見送りくらいさせてくれないか」と玄関まで友政を送った。もちろん薫子も付いてきている。


 そして友政が玄関を出ようとする際のことだった。


「ところで、君、お子さんなどは居るのかね?進学などはどう考えているのかな?」


「?はい、息子が二人と娘が四人おりまして、長男はこの春に尋常小学校を卒業して札幌の中学校に進学させる予定ですが……」


「ほう、中学に。さすが優秀だ。卒業後に帝都に出すつもりがあるなら言ってくれたまえ。なに、こう見えても華族としての人脈もある。それなりに口利きなどもできるつもりだ」


「いえいえまさか、そのように甘えることなど……」


 その後の会話はショックを受けた薫子の頭には入って来なかった。


 その後、気がつくと薫子は友政に取り憑き一緒に北海道に渡って来てしまっていたのであった。


 ◇◆◇


「え?それってどういうこと?……あ、あれ?、その頃の小学校卒業の年齢って」


「12歳。現在と一緒ですわね。義務教育ではありませんでしたけど。この意味がお分かり?」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ、今計算して……あ、ダメだこりゃ」


 友政爺ちゃんの長男、すなわち俺の曾祖父の政信爺ちゃんだが、どう計算しても友政爺ちゃんが駆け落ちしようとしたときには産まれているか、少なくとも母親の腹の中にいることになる。


「ええ〜、つまり不倫……マジかよ……」


 しかも相手は今でいう高校生だ。


「私がトモ様をお恨み申し上げた理由はご理解いただけまして?」


「ああ、うん、とりあえず事情は分かった。さすがに子孫の俺は関係ないとは思うけどな……しかし、その、一応聞くけど、友政爺ちゃんに他の女がいるようなそぶりはあったのか?」


「私とトモ様は月に2~3回、近藤邸で梅花さんを始め、他の方も同席するところでしかお会いしたことはありませんので普段のトモ様を生活をほとんど存じ上げませんでした。駆け落ちの話も、梅花さんがほんの少し席を外したときに思わず窮状をこぼしてしまった私にトモ様が提案してくださり、急遽決まったものだったのです」


「え!じゃあ2人だけで会ったことってなかったの!?そんな相手と駆け落ち!?」


「現代を生きる貴方には信じられないことでしょうけど」


 考えてみれば伯爵家のそれもまだ十代の箱入りお嬢様だ。親族以外の男と2人になる機会なんてなかったのかもな。

 そんな娘を騙すなんて罪深過ぎる所業だろう。


 ……友政爺ちゃん、ほんとにそんなことしたのか?


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