第040縫.お母さんへの恩返し
フィリルがワタシ達の仲間になってくれるのは、確かにとっても嬉しいです。でも、どうしても気になってしまうんです。
「何でですか? 『ワタシ達の仲間になりたい』なんて、急に……」
フィリルは必死な顔してアカリに懇願します。
「急じゃないわよ? 15年前なんだけど私、スナッサ峠にある神経沼でキョウコ様に助けて貰った事があってねぇ~」
「それから、キョウコ様の一番のファンを自負してるのよん! あの時キョウコ様が助けてくれたからこそ、今の私があるのよっ!」
「だから今度はキョウコ様の娘アカリさんの一番近い場所で冒険を助けて……キョウコ様への『15年越しの恩返し』、させて欲しいのよぉ~」
要は、アナタの一番になりたいの♡ってラブコールですね。
「でも、手助け“だけ”するのはイヤ。アカリさんと背中を預け合いたいのぉ〜! その為の自分磨きとして選んだ未来こそ、|ミントセキュリティサービス《 M.S.C. 》だったのよ」
凡そ確実に訪れるとは云い難い未来の為に、それでも来る事を信じて準備を怠らない……成程、これはチーフマネージャーの肩書きを任される訳です。
【『スナッサ峠の神経沼』の時の話ねー! ボクもその時一緒だったから、説明してあげよーか?】
どうやら、ニックがその時の詳細を知ってる様です。宙にぷかーっと浮きながら説明を始めます。
【30年前、キュルミー大戦の最中……お姉ちゃんの母上キョウコ様は、『天界の扉』を探す為に当時の地上界に降臨したんだけど、いくら探してもその手がかりすら見つからなかったのー】
ニックが羽根を広げて右にタテ回転、くるくるくる……
【でもついに、『天界の扉』が未来の地上界にあるって情報を掴んだんだよー! キョウコ様は身体を酷使して、キュイぐるみの能力を使って15年後の未来の地上界にジャンプしたのー!】
今度は立った姿勢で左にヨコ回転、くるくるくる……
【そして、未来の地上界を旅してる中で……スメルクト大陸の北部にある、『スナッサ峠の神経沼』に行き着いたんだよー】
すると、フィリルが親切に補足説明してくれました。それにしても……
「その沼、近づいた者の五感を全て奪い尽くす“魔の沼”として有名だったのよぉ~!」
そして今度はニック、空中で片脚上げてスケートを滑るみたいにスィーっと……
【その神経沼で身動き取れなくなっていた、その時12才だったフィリルをキョウコ様とボクが助けたんでーす!】
そして、最後に……むんずっ!
「ニックさ~ん、さっきからのアナタのへんてこダンスのせいで……そればっかり気になって……」
ワタシ、ニコニコ笑顔でメッチャ激おこです! 笑顔がピクピク、ひくつきます!
「説明、全然頭に入って来ないんですけどぉ( 怒 ) 」
ワタシのこめかみに浮かぶ怒りマークが、怖さを倍増させます!
タラタラタラタラタラ……
ニックの冷や汗が止まりません! 自分の冷や汗で、溺れそうな位です!
「その時12才だった私は確かに、あの時でキョウコ様とおニクちゃんに命を助けて貰ったのぉ~。だから、今度は私がアカリさんを助けたいのっ! それに……」
フィリルさん、今のニックとの件、思っ切り斜め右上にスッ飛ばしましたよ?
「私、アカリさんにすっごい興味有るのよぉ〜!」
あれれっ、フィリルさん? 今すっごく顔、近いんですけど……いつの間に?
「アカリさんって一体、何モノなんですかぁ〜? キュルミーなのに、モフモフされても魂が抜けなかったでしょ?」
はい、結局無事でしたね。
「それどころか、意識を失い横たわるアカリさんの身体を半透明な女の人とウサギちゃんが、2体で必死で身を挺して護ってるしぃ〜?」
えっ、女の人とウサギちゃん!?
「女の人はすぐ分かったのっ、キョウコ様だって! 母が子を護るのは当たり前じゃないっ! でも分からないのは、ウサギちゃんの方なの」
「だって私、目を凝らして良く視たらウサギちゃんの背中から……じわぁ〜っと見た事無い、美しい翼が浮かんで来たからぁ〜!」
そう言われてワタシ、思い当たる節はたったひとつしか有りませんでした! これは恐らく、って云うか間違い無く……闇の中で出会った、あの白い神翼ミニウサギです!
「そう、分からないって言ったのは……何故かそのウサギちゃんを通して、見えて来たから。アカリさんの純粋でひた向き過ぎる、ピュアなハートがねっ」
えっ、自分だけが有してるハズのワタシ自身のココロ……ミニウサギの中にも感じたんですか!?
「しかもそのハートを、とてもとても大事そうに。だからワタシ、敬愛するキョウコ様と同じく……アカリさんのココロも迷わず受け入れたのぉ〜!」
顔は必死ですが、ワタシのお母さんの名前を言う時の目は物凄く輝いています。こっちの理由が大本命っ☆、と瞳をキラリンさせながら。
「キョウコ様の娘さんだからって生半可に崇め奉るつもり、決して無いからっ! 同年代のアカリさんの事、もっともっと知りたいからぁ〜!」
フィリルにそこまで言われ、ワタシの両眼尻に思わず涙が溜まってしまいます。何も言えず、そのままフィリルの両肩をギュッと抱き締めて。
ねぇ、こんなにも母に感謝してくれてる人がここにもいましたよ……一緒に冒険して役立つからじゃない、こんな魂の通った人と一緒に冒険してみたいな……
「アカリさんに、ただで仲間にしてくれとは言わないわぁ~。代わりに、私の能力を教えてあげるねっ! ただし、今の『にゃんモード』の時しか使えないんだけどねぇ~」
フィリルは、壊れているブレーカーの所までアカリを連れて行きます。
そこは、今だに天井のスプリンクラーからミストシャワーが降り注いでいます。フィリルの周囲は、特に身体から発する水蒸気が立ち込めます。
「アカリさん、コレが私の“奥の手”なのよぉ~!」
その言葉を残して、フィリルはバタンとその場に倒れてしまったんです。どうやら、気を失ってしまった様です。
でも、その瞬間……同時にどこからともなく、ワタシに纏わり付く様に水蒸気が湧き出て来ました。そして、水蒸気がだんだん人の形になり……フィリルになったんです!
フィリルはワタシの首もとに両腕を絡めて片足をハネ上げ、甘える様にもたれ掛かってます。
どうやら、このフィリルは“精神体”らしいです。しかもこの精神体、ポニーテールを結ってるって事は……どうやら『にゃんモード』のフィリルがベースになっているみたいなんです!




