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きぐるみ羽織る、間だけ……  作者: 上村朱璃
第2章.緑兎 ( ミント ) 団 攻防
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第037縫.悪夢、希望、絶望。

 モフモフから腰砕けまで、フルコースを喰らってしまったら最期……『猛獣』から「飼いウサギ」へ堕ちてしまいます。


 つまり牙と爪を抜かれてしまい、ワタシの未来は永遠に閉ざされてしまうんです。


 まるで体に異常は無いのに、パンチや手を見ただけで 恐怖を感じて体が震えてしまうボクシングの後遺症「パンチ・アイ」みたいに……


 闘いを意識しただけで腰砕けになってしまい、戦闘意欲が萎えて二度と冒険者として拳を振るう事が出来なくなってしまうんです!



ぐっばい……ワタシのじんせい。



 ……いえいえ、いえいえ、いえいえ、いえいえ、いえいえ、いえいえ、いえいえいえっ!!!



 父を追いかける資格も、永久に無くなっちゃいます! だから完全に希望が0にならない限り、歯を食い縛って運命に逆らい続けますよ!



 だってワタシ、“日本一”アキラメの悪い女神ですから!



 ワタシ、目の前が真っ暗になってもまだ目に力を失ってはいません。その次の瞬間、ワタシを後ろ手に捻り上げてた男がいきなり爆ぜて後方へ飛ばされたんです!



バッサバッサ……バッサバッサ……



 そこには、階段に続く出入口で巨大な火球を嘴の前で展開しているニックの姿が! ニックったら、瞳の奥まで炎が(くすぶ)って! 相当、お怒りのご様子ですね。


『クェアアアァァァーーーッッッ!!!』



【よくも、お姉ちゃんをイジメたなぁっ!】



ビリッ……ビリ……ビリビリッ……!


 ブチ切れたニックの、超本気の大咆哮ですっ! えっ、ニックも闘う事が出来るんですか? それにその、大きな火球って一体……?



 そして階段の上からもうひとり、懐かしい声が降りて来ます。


「さぁアカリさん、そなたにまだ勇気が残っているなら立ち上がりなされ。地面に這い(つくば)る姿は、似合わないのじゃ」


 ワタシの事を認めてくれてるのか、決して甘やかせてはくれません。その声に導かれる様にゆっくりと、ふらっと立ち上がります。


「アカリさんなら、再び立ち上がると信じておったよ。ではこれで3対3の五分じゃな、『グランプス』の現当主……ヴォジャノーイのリークよ」


 誰かが、階段から降りて来ました。降りると、だんだん顔が……長老さんです! 涙が、ジワッと滲み出て……


「しかしアカリさん、今回の行動はちょっと軽率じゃったな。3人をひとりで相手するなんて……」


「すみません、退却するタイミングを誤ってしまいまして」


「まぁいいじゃろ、お説教はキュルムの町に帰ってからでの。今回しなければならんのは、『人質の救出と退却』じゃからな」


 長老さんのそのひと言を皮切りに、ニックが溜めていた火球をぶっ放しました! 3人組のひとりが全身を炎に包まれ、床を転げ回っています。


 3人組のうち2人が戦闘不能に陥っているのを確認して、従者さんが短剣を逆手に持ってダッシュでリークに肉薄します。


「形勢逆転、諦めなされ……!」


 しかしリークは肉薄されても態度を崩さず仁王立ち、微動だにしません。それどころか、不敵な笑いさえ浮かべています。


「それはどうかな……?」


 すると突然、気を失っていたハズの先の2人組がいつの間にか起き上がり……ワタシとニックの背後に回り込んでいたではありませんか!


 そして、ワタシとニックをそれぞれ背中から羽交い締めにして……何と2人組は自分の体躯(カラダ)目がけて、自身ごと雷魔法で貫いてみせたんです!


「キャ~ッ!!!」


「クェッ!!!」


 巻き沿いを喰らったワタシとニックはビリビリと感電して動けなくなって。2ヶ所で起きた放電は地中でひとつに繋がり、離れていたはずの長老さんと従者さんも感電の餌食になってしまったんです!


「ぐっ……リーク、そなた……一体何を……?」


 長老さんは感電で痺れてしまった口で、それでも何とか言葉にします。


「これぞ本当の『死んだフリ』ってか……あの2人は前回は小娘相手にとんだ失態を犯してしまったが、今回のコレで帳消しにしてやろう」


 そして、リークは火球で炎まみれになっている2人にも声を掛けます!


「おい、オマエらもジョセフ達を取り押さえろ!」


 何と、先程ニックの火球で炎に包まれたハズの2人もケロッとした顔をしてパンパンと手のひらで埃を(はた)いて立ち上がるではありませんか!


「傭兵スキルで『ビルドアップ』ってんだ。傭兵はどんな場所でも闘いに行くから、全ての地形で耐性を激アゲするんだわ」


「マグマだって、ダメージ半減だぜ! という訳だ、(ワリ)いな、じいさん」


 と2人はそう言ってそれぞれ1人ずつ、左肘と左足のももで相手の左腕を挟んで固定して、右腕で相手の頭をヘッドロックかける形で長老さんと従者さんをガッチリ固定して、完全に体躯の自由を奪ってしまいました。



 しかも、実は“傭兵スキル”ってまだ全てが明らかになっている訳では無いんです。



 リークはコツ……コツ……とアカリの許へと歩み寄り、左手でアカリの髪の毛を掴んでグイッと顔を引き上げます。


「耐電靴を履いておいて、正解だったな。ジョセフ、ちょうどイイ見せしめだ。この小娘がモフモフされて“慰み者”になるのをそこで、自分の無力さを噛み締めながら見てるんじゃあ!」











 ワタシは痺れた身体で、弱々しくふるふると首を横に振って拒絶します、が……! 無慈悲にも、リークの右手がワタシのキュイぐるみの腰元、尻尾の辺りにゆっくりと伸びて行きました。


 よりによって、『大切な人達の前で』未来を閉ざされるなんて……ひとりだけだった闘いより、ワタシにはよっぽどダメージが大きかったんです!



 ワタシって……アキラメの悪い女神でも……何でも無かったんですね……



 今まで張り詰めていたココロの糸、最後の1本がプツッと音立てて切れてしまったんです。遂にワタシは、モフモフの気持ち良さを受け入れてしまって。



『みやあァうゥッ! ミュッ、みゅうぅぅっ……』


ひくっ、ひくっ。



 ウサギの絶叫をひとつ。瞳孔が涙を流したままぐるんと反転し、目の前が真っ暗闇になって。ゆっくり……ゆっくりと闇に堕ちて行ったのでした。






 一体、どれだけの闇を沈んだのでしょう? 闇の重さに、指ひとつピクリとも動かせません。


「ごめんなさい、お父さん……ワタシ、会いに行けなくなっちゃいました……」




【ちゃんと、人間に絶望出来たじゃ無いですか。偉い、えらい】




……???

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