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聖女の仕事

評価、ブクマありがとうございます。嬉しいです。

 朝、身支度を整えて、一階の食堂へ入った。

 大きな長いテーブルが三つ、多くて五十人くらいが座れる。大神殿に住む神官様は朝昼晩、通ってくる神官様は昼だけ食堂を使う。神官様以外の人は、もっと広い食堂が別にあるらしい。

 私は一日三回、ここで神官様たちと一緒に御飯を食べている。聖女は部屋で食べても良いみたい。だけど、早く慣れた方が良いって、大神官様に勧められた。初めて食堂を使う時は緊張した。でも少しだけ慣れて、神官様たちに自分から挨拶ができるようになった。声が小さくて、よく聞き返されるけど。

 私は自分の席に座る。床につかない足をぶらぶらさせて、食事の開始時間を待った。給仕の人がパンを配り始めた頃、私の隣にリュカ様が座った。


「リゼット様、おはようございます」

「おはようございます」

「昨夜は早く眠れましたか」

「少し遅くなってしまいました。緊張しているみたいです」

「難しいことはないので、大丈夫ですよ」


 今日は初めて聖女の仕事をする。リュカ様が付いて教えてくれると聞いて安心したけど、やっぱりどきどきする。


「私ともう一人、神官が付きます。少し騒がしくて面白い人なので、楽しくできると思いますよ」

「面白い人ですか。神官様は穏やかな人ばかりだと思っていました」

「確かにそう言う人が多いかもしれませんね」


 リュカ様が他人事みたいに答えるから、笑ってしまった。私にとって一番の穏やかな人は、リュカ様なのに。

 そうしているうちに、スープが配られ終わった。


「さあ、リゼット様。お祈りを」


 私は目を閉じた。両手を胸の前に出して、手のひらを上へ向ける。


「恵みに感謝を」


 すぐに、食堂にいる二十三人の神官様たちが、私の後に続いて祈った。




「ここが仕事をする部屋ですか。あの、病気や怪我した人は?」


 食事の後、リュカ様に案内されて入った部屋には、武器が並んでいた。食堂同じくらいの大きさの部屋に、小さなテーブルが一つに椅子が四つ、他は武器で埋め尽くされている。

 リュカ様は私に椅子を勧めた。私が座った後、リュカ様も私の向かいに座る。


「祈りの力は大まかに二つに分けられます。一つは傷や病気を治す力、そしてもう一つは加護を与える力です」

「加護?」

「加護の対象は人と金属や宝石です。人なら加護によって体力が上がり、元気になります。能力も上がって、そして運が良くなります。金属や宝石なら性能が上がり、使用者の能力を上げます」

「運が良くなるんですか」

「直感が働く、勘が冴え渡る。そう言う意味で運が良くなります」


 リュカ様は私の顔を見た。私が理解したことを確認して、話を続ける。


「近年、強い魔物が増えていることはご存じですか」

「はい」


 確か、おばあちゃんが森の奥へ行けなくなったって、困っていた。森の薬草の採取が減ったから、一年前に庭に植える薬草の量を増やしている。


「深き黒の竜の目覚めが近い為、とされています。千二百年前、深き黒の竜を封印したことにより、王国は人の住める土地となりました。銀色の英雄と聖女の物語で有名ですね」

「建国物語は好きで、よくおばあちゃんに聞いていました」

「その封印は二百年から三百年前後で弱まり、その度に騎士団を派遣して封印をし直します。また、封印が弱まると聖女が現れるのです」

「それが私、なんですね」


 聖女と呼ばれることに慣れてきたと思っていたけど、自分のことじゃないみたい。私は不安でいっぱいになった。

 その時、バンっと勢いよく扉が開いた。大きな男の人が、武器の入った箱を両手に抱えて入ってくる。ローブを着ているから、多分神官様。でも私が知っている神官様の誰よりも大きくて、がっしりしている。


「遅くなって、すまんな」


 大きな神官様は、全然悪く思っていない雰囲気で謝った。


「モルガン、扉は蹴って開けない」

「両手が塞がってんだよ」

「荷物を置いて開けてください」


 リュカ様が見たことない顔でため息をついた。


「ああ、あなたがリゼット様か。俺はモルガン。よろしく」

「よろしくお願いします」


 私が立ち上がって挨拶を返すと、モルガン様はニカっと笑った。


「今日の分はこれで最後だ。早速始めるか」


 モルガン様は持っていた箱を下ろして、数本の剣をテーブルに並べる。剣はどれも同じ形で、黒い鞘におさまっていていた。よく見ると、金の柄の形がそれぞれ違う。

 とりあえず剣の上に両手をかざしてみた。


「あの、どう祈れば良いですか」

「そうですね。強い武器になるように、皆を守れるように、でしょうか」


 リュカ様が少し考えて言った。私はうなずくと手に力を込める。


「強くなあれ」


 あたたかい風が、ふわっと吹いた。それと一緒に、私の手から小さな光がこぼれる。

 テーブルに置いた剣を一本、モルガン様が手に取った。じっくり観察している。


「さすが虹の聖女様だ!」

「虹の聖女?」


 私の知らない間に、あだ名がついてる。でもとりあえず、上手く行ったみたいで良かった。

 モルガン様はテーブルの剣を片付けて、新しい剣を置いた。私は手をかざして、祈る。その度に風が吹いて、光がこぼれた。

 三箱目の祈りが終わった。その頃にはすっかり慣れて、私は話しながら祈れるようになった。


「神官様と聖女の違いは何ですか」

「祈りの力の強さです。神官が数時間祈らなければ治らない怪我も、聖女様なら瞬時に治ります。能力を上げる幅も大きな差があります。それは神官の中でも同じです。祈りの力の強い神官もいれば、弱い神官もいます。しかし、聖女様は神官の規格の遥か上にいます」

「加護の付与効果時間も違う。神官が祈ったんじゃあ、半日がいいとこだ。だが聖女はひと月、建国の聖女は三月も加護が続いたと言われている」

「私の加護で、封印は上手く行くでしょうか」


 私が心配そうに聞くと、モルガン様は笑った。


「これは魔物討伐の為の武器だ。竜の封印は早くても三年は先だから、のんびり構えていれば良い。英雄の方が準備中だ」

「それにリゼット様の祈りの力は、これから更に強くなります。力に目覚めて一年も経たずに、これほどの強さがあるのです。きっと建国の聖女と並び評されるほどになりますよ」

「良かったです」


 私は二人に大丈夫だと言われて安心する。ほっと息を吐いた。

 その時、廊下の方が騒がしくなった。バタバタと足音が響き、扉の前で止まる。ノックの音のあと扉が開いた。


「リゼット様、失礼します」


 朝、食堂で挨拶をした神官様がいた。顔色が悪い。


「急患です。広間へお越しください」

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