青空のお茶会
国王陛下と王妃様に会う。そう聞いた時はまさかと思った。
だけど気付けば予定を決められ、身なりを綺麗にされて、「さあ、こちらです」の合図で扉が開いた。
前に二人、横に数人いるけど、緊張しすぎて全然何も見られない。教えられた通りに進んで挨拶をした。
「はじめまして。リゼットと申します」
本当はもっとちゃんとした挨拶があるみたい。でも、これくらいで大丈夫って大神官様が笑って教えてくれた。
無事に挨拶ができたけど、緊張したまま私は顔を上げた。綺麗な女性が駆け寄って来て、私の手を取った。ピンクっぽい金色の髪と青い目をしている。
「まあ、あなたがリゼットね!ようこそアルゲントへ。こんな堅苦しい所は出て、庭園でお茶はいかが」
「こら、私が何も話せていないだろう。ごほん、よく来てくれた。聖女としての勤めは少しずつしてくれれば良い。周りの者が助けてくれる。それから」
「お話は終わった?さあリゼット、庭園へ行きましょう」
綺麗な女性は私の手を引っ張って部屋を出た。後ろで「王妃殿下! お待ちください!」と誰かが叫ぶ声が響いた。
「この壺は隣国からの贈り物。青い蝶が美しいでしょう? あれは5年前のお祭りで職人が作ったタペストリー。私の考えたデザインも入っているの。あ! 今通り過ぎた部屋には素晴らしい絨毯がひかれているのよ。今度ぜひ見せたいわ」
私は王妃様と手を繋いだまま、王宮を早足に歩く。王妃様のお話の内容が多すぎて、頭がぐるぐるして来た。
「さあ、ここが自慢の庭園よ!」
従者が扉を開けた。そこには青空と噴水といっぱいの花があって、とにかくキラキラしている。
「リゼット、こちらへどうぞ」
王妃様はまた私の手を引っ張った。たくさんの花の香りの中を歩くと、少し開けた場所に出た。そこには白いテーブルセットと、侍女が二人、銀髪の男の子が二人いた。
「母上、本当に連れて来たのですか」
「そう言ったでしょう?リゼット、私の一番の宝物、ラウルとアドルフよ」
「はじめまして、ラウルです。こっちは弟のアドルフ。母がご迷惑をおかけしました」
「はっはじめまして、リゼットと申します。迷惑だなんてっ。あの、少し驚いただけです」
ラウル様は金色の目を細めて微笑んだ。二人とも綺麗な男の子だけど、アドルフ様はずっと不機嫌そうにそっぽを向いている。
「では僕たちは失礼します」
「一緒にお茶しないの?」
「まだ予定が終わっていないので。リゼット、母は強引な所がありますが、あなたと仲良くなりたいだけなのです。今日は天気が良いですから、楽しんでくださいね」
「はい」
ラウル様は私の返事を聞くと、歩いて行ってしまった。アドルフ様もラウル様の後を追う。アドルフ様は一度だけこっちを振り返った。
どこを見たのか分からなくてきょろきょろしていたら、二人とも姿が見えなくなっていた。
「リゼット、どうぞここへ座って」
王妃様が椅子をトントン叩く。いつのまにか、テーブルにお茶とお菓子の用意がしてあった。
私は恐る恐る椅子に座る。
「あの、失礼します」
「そんなに緊張しないで。ほら、とても美味しいわよ」
王妃様はお菓子を一つ摘んで口に入れた。私も同じように食べる。サクサクのパイ生地にジャムの甘い香りがした。
「ね、美味しい」
「はい。とっても美味しいです」
「もっと食べて食べて。こっちはどう?これは?」
私は勧められるまま口に入れて、顔がリスみたいに膨れた。
「これ以上は無理でふ」
「ああ、ごめんなさい。私娘が欲しかったんだけど、二人とも男の子だったから……。女の子と話せると思って、少し舞い上がってしまったみたい」
私は紅茶をこくんと飲んで、首を振った。
「いえ。良くしていただいて、嬉しいです」
「ふふふ、ありがとう。でも子供たちのことは大好きなのよ。とっても可愛いの。ラウルは14、アドルフは今年11になるわ。リゼットと歳が近いから、仲良くしてくれると嬉しい」
王妃様が優しい笑顔で言った。私はお母さんを思い出して、少し泣きたくなった。
二杯目の紅茶を飲む頃、国王陛下がやって来て、お茶会はお終いになった。
「王妃に付き合わせて悪かったね。これの相手は大変だったろう」
「まあひどい!私たちはとても楽しく過ごしました!」
「はい。楽しかったです」
王妃様がプンプン怒った。国王陛下は慣れた様子でなだめている。王族特有の銀色の髪と金色の目で、二人の王子様、とくにアドルフ様とよく似ている。
「リゼット、しばらくしたら君に教師を付けることになる」
「教師、ですか」
「少しずつで良い。学びなさい。きっと君の糧になる」
帰り際、王妃様が大きく手を振った。
「またお話しましょうね!」
「はい!」
声に驚いた小鳥が数羽、木の枝を揺らして飛び立った。