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大神殿

「わあっ!大きな街!!」


 村を出て8日後、私はエタンセル王国の首都アルゲントに着いた。領主様の住む街も大きかったけど、首都アルゲントはもっともっと大きい。


「このまま馬車で大神殿の前まで行きます。大神殿からすぐの場所に王宮があり、近日中に王に謁見をしていただきます」


 馬車の窓にピタリと張り付いて外を見ていると、隣から声がした。

 リュカ様の指差す方を見ると、馬車からかなり遠くに大きな建物が二つあった。真っ白い建物はいかにも大神殿という感じで、雰囲気も領主様の街にあった神殿とよく似ている。もう一つの建物は街のどの建物よりも縦も横も大きい。たぶん王宮だと思う。

 一羽の鳥が青空を飛んでいる。街の端にある高い塔の周りを、くるりと輪を描いて旋回した。その塔より二つの建物はもっと高い。


「リゼット様」


 名前を呼ばれて振り向いた。リュカ様が困った顔をしている。


「中から外が見えると言うことは、外から中が見えると言うことですよ」


 私は大きく開いた口を慌てて閉じて、リュカ様の隣に座り直した。


 馬車は賑やかな街並みを走り、白い建物の前で止まった。

 私が大神殿だと思った建物はやっぱり大神殿だったみたい。近くで見るともっと白くて大きくてキラキラしている。

 リュカ様や二人の侍女さんに案内されるまま、神殿の中を歩く。しばらくすると、他のよりも少し大きくて綺麗な扉の前で止まった。


 「それでは私は失礼します。夕食はご一緒すると思いますので、またお会いしましょう」


 リュカ様はにこりと微笑むと行ってしまった。

 侍女さんが綺麗な扉を開く。その部屋はブラン村のうちがそのまま入りそうな広さで、豪華なベッドやおしゃれな机、触るのも恐いくらいの綺麗なキャビネットなどがある。

 一人の侍女さんがティーセットを出してお茶の用意を始めた。もう一人の侍女さんは私に向き直る。


「こちらがリゼット様のお部屋です。急ごしらえで、足りないものが多々あると思います。ご不便なことがあれば、すぐにわたくしどもにお伝えください」

「ここは私の部屋ですか」

「はい。リゼット様のお部屋です」


 侍女さんははっきりとした声で言い、うなずく。


「これからのリゼット様のお世話もわたくしどもがさせていただきます。どうかよろしくお願いいたします」


 侍女さんがお辞儀をすると、お茶を入れてる侍女さんも手を止めて、軽く頭を下げた。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします!たぶん何も分からなくて、たくさん聞いたり失敗すると思います。えっと、その時はごめんなさい」

「リゼット様はブラン村から来られたばかりですから、分からないことがあるのは当然です。わたくしどもの出来ることでしたら、いくらでも尽力いたします」

「お茶の用意ができました。こちらへお座りください。お荷物はどうなさいますか」


 私は手に持っていた小物袋を握りしめる。どうするのが良いのか分からない。


「わたくしが触ってよろしいのでしたら、お預かりいたします」

「あ、お願いします」

「さあ、こちらへ。好きなお菓子はございますか」


 侍女さんに言われるまま座って、お茶を飲んでお菓子を食べた。初めて食べる味でとても美味しい。

 この部屋に慣れる日が来るのかなあ。ぼんやり考えながら、私はいつまでもきょろきょろしていた。


 窓の外が夕日で赤くなる頃、夕食の準備ができたと知らせが入った。

 ティータイムのあと言われるがままお風呂に入って、言われるがまま着替えさせられた私は、全部がピカピカしている。

 大神官様と食事会らしく、綺麗にしていないと駄目らしい。侍女さんに「大神官様はお優しい方ですよ」と言われて安心したけど、やっぱりどきどきする。夕食を食べる部屋へ向かいながら、悪いことばかり考えた。スープをこぼしたり、ソースを垂らしたりして怒られないかな。


「こちらです」


 侍女さんが大きな扉の前で止まると、そこにいた従者さんが扉を開けた。

 扉の大きさのわりに、中はそこまで広くない。8人用のテーブルにリュカ様が座っている。

 私はリュカ様の向かいに座って、何を話せば良いのか考えた。話したいことがたくさんありすぎて、何も話せない。


「リゼット様、お部屋はどうでしたか」

「とても広くて綺麗で素敵でした。でも慣れなくて、そわそわします」

「あの部屋は歴代の聖女様のお部屋です。リゼット様の過ごしやすいように、これから変えていけば良いのです」


 リュカ様は当たり前のように言った。

 あんなに綺麗な部屋を私が勝手に変えて良いんだろうか。それに、どう変えたら過ごしやすくなるのか全然分からない。


 その時、ガチャリと扉が開いた。

 おばあちゃんよりもずっと年上の女性が入ってきた。金色の刺繍が入ったローブを着ている。白髪の優しそうな人だ。

 リュカ様が立ち上がって頭を下げた。私も慌てて同じようにする。


「そんなに畏まらないでください。私は一緒に楽しく食事をしたいと、そう思って参ったのです」


 白髪の女性は席に着くと、私を見て微笑んだ。


「リゼット様、ようこそいらっしゃいました。私はフレデリーク・エタンセル。大神官をしております」


 大神官様は簡単に自己紹介をしたあと、料理を運ぶように言った。

 私への感謝の言葉、最近あった楽しい出来事、ちょっとした失敗話。大神官様は時々冗談も言ってお話ししてくれた。それから私の話も笑顔で聞いてくれた。

 とてもとても楽しい食事会だった。

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