信じられる人
ユーグ様は信じられる。エリアーヌ様に心配させたくなくて、より強く肯定した。
「本当に?」
「ユーグ様は誠実な方なので、嘘をついたり騙すようなことはしません」
「リゼットが言うなら、そうなのね」
エリアーヌ様はまだ腑に落ちない顔をしている。でも仕方ない。私の言葉だけで判断するなんて難しいことだ。会えばきっと分かってくれる。
「ねえ、金色の英雄ってどんな人?」
「強くて優しくて、楽しい方です。初めて会った時から、良くしてもらっています」
「それならこちらから相談したら良かったわね」
「え?」
「え?」
私が驚いて聞き返すと、エリアーヌ様も驚いた声を出した。なぜこっちからユーグ様に相談するのか。エリアーヌ様がそう思った経緯が分からない。エリアーヌ様も私の反応を理解できず、驚いた顔のまま固まっている。
「ユーグ様が婚約破棄に協力的かどうか、分からなかったじゃないですか」
「誠実で優しい人なんでしょう? 良くしてもらってるって言ったじゃない」
「はい、素晴らしい方だと思います。でもユーグ様の判断がどこにあるのか、私は知りませんから」
エリアーヌ様の頭の上にハテナがいっぱい飛んでいる。腕組みをし、上を向いて、下を向いて、首を傾げて、眉間に皺を寄せて聞いてきた。
「ユーグ様の言葉は信じられるのよね」
「信じられます」
「リゼットの味方じゃないの?」
「味方ですよ。味方になってくれました」
「私は味方?」
「もちろんです。エリアーヌ様だから全部話せたんです」
「あああああ! ありがとう!!」
「へ? いや、こちらこそありがとうございます、です」
エリアーヌ様が急に大声で叫んだ。いきなり感謝されて戸惑う。以前から時々あることだけど、その度にびっくりしてしまう。
「リゼットさん、ユーグ様は他に何か仰っていましたか」
「他ですか?」
ガスパル様の問いに、先日の会話を振り返る。あの時、ユーグ様は何て言って笑ったかな。
「確か、きっと役に立つと思うよって仰っていました」
「役に立つ? 金色の英雄ですから、戦闘になると言う意味でしょうか。できれば穏便に済ませたいと思っていましたが」
「ガスパル、穏便なんて生温いわ! あの王子、目にもの見せてくれる……」
「うわあ、悪役みたいですね」
「エリアーヌ様、穏便に! 私も穏便に済ませたいです!」
「えええ⁉︎ まあ、リゼットがそう言うなら……。私は痛い目に合わせたいし、膝をついて泣き崩れる姿を見たいし、いくら謝っても許せな……」
エリアーヌ様がしぶしぶと言う感じで了承した。口を尖らせてすごく不満そうだ。可愛らしい見た目と仕草で、不穏な言葉をつぶやいている。
聞こえないフリをしよう。
「えっと、役に立つって戦うことではないと思います」
「それなら、何?」
「ユーグ様は王太子殿下のラウル様とご友人なんです。だから第二王子のアドルフ様のことも詳しいはずです」
ガスパル様が納得したようにうなずく。
「なるほど、まずは相手を知らなければ、作戦を立てられませんからね」
「えっ、でも王太子殿下と友人なら、アレとも仲が良いでしょう?」
自国の王子をアレ呼ばわりに、顔が引きつる。ここって本当にエリアーヌ様とガスパル様、私の三人だけよね。誰か聞き耳を立ててたらどうしよう。ガスパル様の様子が変わらないから、きっと大丈夫。だいじょうぶ。
「ユーグ様が、ラウル様の話をされることはありますが、アドルフ様の話は聞いたことがありません」
「そうなの」
エリアーヌ様がやっと少し安心した顔になった。
「これからの話はユーグ様がいらしてからの方が良さそうですね」
「ガスパルの言う通りだわ。敵を知ってから作戦を決めましょう」
「敵……」
アドルフ様は敵ではない。私は婚約破棄できればそれで良い。
訂正しようと思ったけど、エリアーヌ様がウキウキしてお菓子を食べ始めたから止めた。楽しそうなエリアーヌ様に水を差したくない。
「婚約破棄の話は、今日は終わりね!ねえリゼット、どれを食べる?」
「全部おいしそうですね」
「冷めたお茶と取り替えます」
「あら気が効くわね」
「ガスパル様、ありがとうございます」
取り替えられたお茶の湯気が上る。カップにそっと口をつけると、甘い茶葉の香りがした。エリアーヌ様の勧めるままにお菓子を食べ、思いついたままに喋る。
聖女になる前、エストリラのお屋敷の庭で遊んだ時のようだと思った。広い庭にただ座って話し、時々散歩したり、走ったりした。場所も違うし、お菓子もなかった。何もかも違うのに、あの懐かしい思い出の場所に帰ってきたような気がした。
残りの時間は婚約破棄の話もアドルフ様の話も全くしなかった。




