思いがけないプレゼント
「リゼット、嫌いって言われたの? 嫌がらせをされてるの?」
うつむいていると、エリアーヌ様の冷たい声が聞こえた。
「いいえ、そう言うことはありません」
「そんな馬鹿がいるなら、私が全力で潰すわよ」
「エリアーヌ様に不敬な事はさせられません!」
エリアーヌ様と目があった。怒っている。すごく怒っている。
「不敬? 私より身分が上の人なのね。アドルフ殿下かしら」
「は、いや……」
エリアーヌ様が目を細めてにっこりと笑う。恐い。すごく恐い。
「やっぱり……建国祭でリゼットへの態度がおかしいと思ってたのよ。あのク……」
とんでもない不敬な言葉が聞こえそうで、全力で意識を飛ばす。エリアーヌ様は今日のドレスも素敵だなあ。黄色と言うより淡い橙色かな。
「まじでカ……」
光沢があって綺麗な生地だ。紺色のリボンが大きくて可愛い。エリアーヌ様に似合っている。
「それに馬鹿すぎ……」
「わわわわわ」
「何?どうしたの?」
「どうしても意識が飛ばなくて……いや、気にしないでください」
「リゼットがそう言うなら気にしないわ」
エリアーヌ様は、突然声を出した私をすんなり受け入れた。心が広い。
「相手が誰だろうと、リゼットを蔑ろにするなら潰すわ」
「潰さないでください!」
「えっ、じゃあどうする? 結婚したくないでしょ?」
正面から率直に聞かれて、戸惑った。私はどうしたいのか。
それを考えるより先に、アドルフ様の目を思い出した。これからずっとあの目の近くにいるなんて、耐えられない。体の奥から恐怖を感じて、シーツを強く握りしめる。
「結婚は、したくないです」
「任せて!作戦を考えておくわ!」
エリアーヌ様は体を反らせて、とっても良い笑顔で胸を叩いた。
「……ありがとうございます」
「早速帰って色々考えなきゃ。あっそうそう、ちょっと待ってて」
エリアーヌ様は扉を開けて部屋から出た。廊下で誰かと話している。扉は開いたままだけど、エリアーヌ様しか見えない。
かすかに聞こえる落ち着いた声はガスパル様だ。エリアーヌ様はガスパル様から大きな包みを受け取ろうとしていた。包みはエリアーヌ様と同じくらいの大きさで、赤いリボンがしてある。
その時、エリアーヌ様が包みを掴み、無理に引き寄せた。まだ包みから手を離していないガスパル様が、前方によろける。
「エリアーヌ様、危ないじゃないですか! 包みが破れたらどうするんですか!」
「リゼット、ガスパルも心配してたわよ」
エリアーヌ様はガスパル様の抗議を綺麗に流す。私は包みを持つ二人と目があった。突然のガスパル様の登場に、全く動けない。
ガスパル様は驚いた顔の後、微笑んで、それから表情を固くした。
「女性の寝室ですよ⁉︎ 何をしているんですか!」
「会いたくなかったの?」
「今ではないでしょう!」
「早い方が良いと思って」
廊下で二人が言い争っている。今はもうエリアーヌ様の姿しか見えない。
「リゼットさん、すみません」
「いいえ。不可抗力ですから」
私には見えない所からガスパル様の声がする。
私はシーツを手繰り寄せ、抱え込身むように丸くなった。下ろしただけの髪も、クマのある目も、何もかもが恥ずかしい。今の私は化粧はおろか、髪に櫛さえ通していない。
「エリアーヌ様、いたずらは駄目です」
「いたずらじゃあないわよ」
私は、戻って来たエリアーヌ様を睨んだ。でもエリアーヌ様は何も気にしてないようだ。包みを抱えたまま、笑顔で椅子に座った。
「どんなリゼットも可愛いし、大好きよ」
そう言って私に包みを渡す。大きさのわりに軽い。そして柔らかい。
「よく眠れるプレゼント。ってさっきは言ったんだけど、本当はあまり自信ないの」
「開けても良いですか」
「もちろん!」
リボンを外して、包装紙を丁寧に剥がす。中には長いクッションのような物が入っていた。
「これは、抱き枕ですか」
「ええそうよ。安眠できるらしいわ」
「顔がありますね。それに耳と足、ですか」
枕の端には三角の耳が付いている。それから幸せそうなゆるい顔、そして私の手のひらほどの短い足が四本。足より更に短いが尻尾も付いている。
「三代目の英雄シルヴァンの相棒、ネージュがモデルよ」
「ネージュって狼ですよね」
ネージュは竜討伐の勝機を作ったと言われている。その為、白い狼は災いを払うとされた。この国で魔除けのお守りといえば白い狼が定番だ。だけど……。
「これはどう見ても犬……犬?」
狼どころか犬なのかも怪しい。それくらいにゆるみまくった顔をしている。
「立派な狼でしょ。必ずリゼットを悪夢から守ってくれるわ」
エリアーヌ様が断言する。はっきりとした声とは裏腹に、目が泳いでいた。




