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クッキーを焼こう

 十四歳の初夏。今年も建国祭が始まった。



「良い匂いがしますね。焼けましたか」

「んー、もう少しってところね」


 私とエリアーヌ様はオーブンを覗き込んだ。クッキーはオーブンに入れた時よりも少し広がって見える。

 建国祭の二日目、エリアーヌ様は大神殿の厨房を使ってクッキーを焼いている。私はエリアーヌ様の斜め後ろで作業を見守りながら、時々材料を渡したり道具を洗ったりした。もちろんおしゃべりもずっとしている。


「よし、焼けたわ。お茶の用意をしながら冷ましましょう」

「焼き立ては食べられませんか」

「粗熱が取れたら食べられるけど、少し冷めた方がサクッとして美味しいわね」


 エリアーヌ様は話しながら、オーブンからクッキーの乗った鉄板を一枚引き出した。数種類のナッツが入ったクッキーとジャムを乗せたクッキーが美味しそうに焼けている。


「見た目は美味しそうですね」


 さっきまで少しだけ離れて見ていたガスパル様が私の隣にいた。作業台に置かれた鉄板を覗き込んでいる。


「見た目は、って失礼ね」

「そうですよ。匂いだって良いですし、きっと味もすごく美味しいです」

「さあ、リゼット。ガスパルなんて放っておいて、お茶を淹れましょう。二人分」


 エリアーヌ様がプイッと横を向いて口を尖らせた。その姿に思わず笑ってしまう。私より一つ年上なのに、時々エリアーヌ様が年下に思える。


「エリアーヌ様、美味しいことを証明する為にも、ガスパル様に食べていただかないと。お茶は三人分用意しますね」

「それもそうね。ガスパル、覚悟してなさい」

「何の覚悟ですか。別に不味そうとは言っていませんよ」

「また揚げ足を取って!」


 二人のことは放っておいて、お茶を淹れることにした。お湯を沸かしている間に、ティーポットとカップを用意する。茶葉は侍女さんおすすめの物を持ってきている。二人とも気に入ってくれると良いな。


「お二人とも、お湯が沸きましたよ。食堂へ持って行きましょう」

「えっ、もう?リゼットごめん。ありがとう」

「すみません、リゼットさん。ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして」


 私はティーポットにお湯を淹れた。茶葉がお湯の中で踊るのを確認して、ティーポットの蓋を閉める。侍女さんに教えてもらった通りにできているはず。ティーセットが乗ったトレーを運ぼうとしたら、誰かがトレーを横から持ち上げた。見上げるとガスパル様と目が合った。


「熱いですから、私が持って行きます」

「あ、ありがとうございます」


 目を細めて微笑んで、ガスパル様は食堂へ行ってしまった。

 手持ち無沙汰になった。視線を感じて見ると、エリアーヌ様と目が合った。エリアーヌ様は皿にクッキーを並べている。手で触っているから、もう冷めているらしい。


「こっちはもう少しだから、リゼットも先に食堂へ行って」

「え、でも」

「こっちはだいじょーぶ」


 にっこりと笑ったエリアーヌ様に厨房を追い出された。

 食堂に入ると、ガスパル様がティーセットの乗ったトレーをテーブルに置いていた。食堂のやや真ん中あたり、廊下に続くドアから比較的近い場所にいる。


「リゼットさん、このテーブルで良いでしょうか」

「はい。そこにしましょう」

「お茶は注いだ方が良いですか」

「あ、もう少しだけ蒸らします」

「ではお任せします」


 ティーセットの前まで行くと、ガスパル様は私が作業しやすいように場所を開けた。ティーポットにお湯を入れた時間を頭の中で計る。多分そろそろだと思う。お茶をカップに注ぐと、茶葉の甘みを含んだ香りが広がった。斜め上からガスパル様の視線を感じる。私は今、練習で侍女さんにお茶を淹れた時の何倍も緊張している気がする。

 最後の一滴まで淹れ終わった。ガスパル様が不思議そうに淹れたお茶を見ている。


「甘い香りがします」

「果物に例えられるそうです。茶葉しか入っていないのに不思議ですよね」

「茶葉にも色々あるんですね」


 会話が終わった。エリアーヌ様はまだ?何してるの?


「エリアーヌ様、遅いですね」

「見てきます」


 ガスパル様が厨房へ向かう。緊張しなくなった代わりに、どこか寂しい気持ちになる。あれ?寂しい?自分の気持ちに向き合ってはいけない気がして、考えることをやめた。頭を軽く振って切り替える。

 厨房から話し声がしたあと、二人が出て来た。エリアーヌ様はとびきりの笑顔で、ガスパル様は疲れた顔をしている。


「リゼット、今回のクッキーは大成功よ!」

「それは、良かった、です?」


 なんで大成功だと分かるんだろう。なんでガスパル様が疲れた顔をして皿を持っているんだろう。もしかしてと思い当たると、ガスパル様がクッキーの皿を置きながら説明してくれた。皿の上のクッキーが明らかに少ない。


「すみません。焼いたクッキーの三分の一がエリアーヌ様のお腹へ消えました。もっと早く見にいけば良かったです」

「味見したのよ。そしたら美味しくて、ついね」

「エリアーヌ様の作ったクッキーですから、エリアーヌ様がたくさん食べて良いと思います」

「リゼット優しい!まだクッキーは残ってるから、いっぱい食べてね」

「そう言って昨年もその前もほとんど自分で食べたじゃないですか」

「それなら来年はもっと焼かなきゃね」

「そう言って昨年も今年も買い出しが増えたじゃないですか。誰が荷物を持つと思っているんですか。菓子作りの力仕事も私に任せっぱなしで」

「私とリゼットはお菓子をいっぱい食べられる。ガスパルは荷物持ちやお菓子作りで鍛えられる。最高じゃない」

「いや、もう、良いです」


 ガスパル様がうなだれた。

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