理由
武器に加護を与える為、私はいつもの部屋に入った。そこにはたくさんの武器とユーグ様がいた。
「きのうは叔父がすまないことをした」
私が朝の挨拶をするより前に、ユーグ様はそう言って頭を下げる。私は二、三度瞬きをした。
「もしかして、モルガン様が来られたことですか」
「急に押しかけて驚いただろう。僕がうっかり口を滑らしてしまったんだ」
「ユーグ様はどこで婚約のことを?」
「ラウルに聞いた」
そう言えば、王太子のラウル様とユーグ様は幼馴染だった。私はラウル様とほとんど話したことがない。でもユーグ様がよく話題に出すから、何となくの人となりを知っている。勤勉で、思慮深く、厳しさも持っていて、多分時々ユーグ様に振り回されている。
「あの叔父はきっと、大きな声で婚約のことを言ったんじゃないか」
私は、勢いよくドアを開けて大声を上げるモルガン様を思い出した。自然と苦笑いしてしまう。
「やっぱり」
「でも、別に隠してはいませんから。建国祭で発表しますし、神殿の人たちは何となく気付いています」
私はテーブルの前まで行き、パチンと手を鳴らす。
「さあ、お仕事を始めましょう。剣を並べてくださいますか。私はどんどん加護を与えます」
「はいはい、分かりました。聖女様の仰せのままに」
腕まくりをしてやる気を見せると、ユーグ様は笑いながら剣を並べた。
テーブルの上にはキラキラと輝く装飾の剣が置かれている。柄も鞘も金で縁取られ、宝石が散りばめられている。手をかざして祈ると、温かい風が吹いた。
「いつもよりキラキラしていませんか」
「建国祭に使う物だからね。いつもの討伐用より装飾が多い」
「なるほど」
「でもこれは王族の護衛騎士くらいで、警備兵なんかはいつもと同じだよ」
ユーグ様が指差す方を見ると、よく見る武器が箱いっぱいに入っている。そして、そんな箱がいっぱいある。
「多くないですか」
「多いね。建国祭だから」
「去年はもう少し少なかったと思います」
「今年は、ほら、婚約発表があるから。いつもより盛大だし、警備が厳重なんだ」
去年の建国祭も盛大だった。こんなに大きなお祭りがあるのかと、びっくりした。屋台がたくさん出て、通りは人で埋め尽くされていた。それよりも盛大なのか。
「婚約発表の前に聖女のお披露目もあるだろう。難しいことはないと思うけど、大丈夫?」
「言われた場所まで歩いて、笑って手を振れば良いって言われています」
「ああ、そうだね。王宮の一部を解放して式典をするから、銀の宮殿のバルコニーだよ。あそこなら遠くからでもよく見える」
私はバルコニーに立って手を振る自分を想像した。想像するだけで震えてくる。
「リゼット。手が止まっているけど、大丈夫?」
「あっ、はい、すみません」
テーブルに新しく並べられた剣に手をかざす。手から光がこぼれた。ユーグ様は加護を与えた武器を片付け、また箱から武器を出して並べる。
「リゼットはさ、目立つの得意じゃないよね。本当に大丈夫?」
「でも聖女ですから。私が聖女です!って見てもらった方が、皆さんきっと安心しますよね」
「うん、お披露目は必要だと思う。でもそっちじゃなくて、婚約の方。注目を集めることも、人前に出る機会も格段に増える」
「これから慣れていきます」
「そんなにアドルフと婚約したかった?」
私は弾かれたように顔を上げた。ユーグ様が不思議そうに私を見ている。ただただ疑問に思っている、と言うふうな顔をしていた。
「したい、と言うか、した方が良いと思ったんです。陛下や王妃様に勧められて、ああ本当にそうだなって。私は私が事件や争いの元になるのが嫌です」
「そっか。リゼットらしいな」
「それに痛いのも怖いのも嫌なので、守ってもらえるなら大歓迎です」
「あはは、確かに王家なら一番良い方法で守ってくれる」
ユーグ様は部屋の奥から新しい箱を持って来た。床に置くとガチャリと武器が音を立てる。
「なぜアドルフは婚約したんだろう」
「えっ」
ユーグ様はさっきより、もっと不思議そうな顔をしている。
「好かれていた?」
「いいえ、むしろ嫌われていると思っていました」
「そうか」
ユーグ様はしばらく考え込んで、ラウルに聞いてみるか、とつぶやいた。




