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祈りの力の使い道

  勢いよく入って来たモルガン様は、すぐにガスパル様に気が付いた。目を泳がせて私を見る。


「面会中だったんだな。すまない」

「大丈夫なので、こちらへどうぞ。次からはノックをお願いします」

「ああ、約束する」


 モルガン様は騎士団の制服を着ている。神殿へ来る時はいつも神官のローブ姿だった。見慣れない格好で不思議な感じがする。

 頭を掻きながらモルガン様は椅子に座った。私の左手側、ガスパル様の右手側にモルガン様がいる。小さな四人掛けテーブルだから、大きなモルガン様が座ると窮屈そうに見える。


「モルガン様、こちらは私がブラン村でお世話になっていたガスパル様です。ガスパル様、こちらは騎士団の副団長をされているモルガン様です」


 私は簡単に説明した。早く事情を聞きたいって、モルガン様が目で圧力をかけてくる。


「はじめまして。割り込んでしまい失礼なことをした。それでリゼット、婚約のことなんだが」


 あまりの切り替えの早さに、ガスパル様が苦笑いをしている。でも怒ってはいなさそうで良かった。

 私はモルガン様の方へ向き、姿勢を正した。


「婚約は本当です。建国祭で正式な発表を行うそうです」

「それは、リゼットも同意のことなんだな」

「もちろんです。陛下からお話をいただき、お受けしました。私の立場や祈りの力を守る為、と聞いています」

「そうだな。リゼットを守る為には、良い方法だと思う」

「はい。私も一番良い方法だと思っています。それに、私のことを考えて提案してくださった、とてもありがたいお話だと思っています」

「それは、そうとも言える」


 モルガン様は難しい顔をして黙り込んだ。全部を納得してはいなさそうだけど、どうにか飲み込んでくれたみたい。モルガン様の真っ直ぐな気持ちが嬉しい。

 私はガスパル様を見た。私たちの会話に驚いた顔をしている。目が合うと、ふっと笑った。


「ご婚約されたのですね。おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 ほら、やっぱり良い方法だったんだ。私はちくちくした胸の痛みに気付かないふりをしてほほえんだ。

 それから三人でしばらく話した。とても楽しい時間だったけど、ずっと胸に痛みを感じていた。




 私はテーブルに本を広げて、窓からの月明かりで勉強している。今夜は月がとても明るい。

 今日は疲れた。聖女の仕事はちゃんとできた。ガスパル様、モルガン様と話すのは楽しかった。午後の歴史の授業は面白かった。その後のダンスの授業はステップが難しかったけど、どうにか先生に褒めてもらえた。

 良い一日だったと思っているのに、体と頭がぐったりしている。

 川の氾濫で被害にあった地名や、画期的な政策を施行した大臣の名前を唱える。いつもなら覚えられるのに、今日は頭に入らない。さっきまでしていたダンスのステップで足が痛い。

 本の文字が見えにくい。気付けば月が動いて、月明かりが届かなくなっていた。


「もう寝よう」


 一人でつぶやいて、広げた本を片付ける。ベッドに潜り込んで目を閉じた。眠たいはずなのに眠れない。何度目かの寝返りをうって、私はベッドから降りた。キャビネットのポプリの瓶を出す。ポプリの香りをすうっと吸う。瓶をしまって、またベッドへ戻った。

 さらに何度目かの寝返りを打つ。いつもなら眠れるはずなのに、今日は眠れる気がしない。疲れているなら眠れるはずなのに、どうしてだろう。ベッドの上でゴロゴロして考えた。

 今日はいつもより体がだるい気がする。それが良くないことなら、もう少し元気だと眠れる?でも今日はポプリの力でも眠れそうにない。元気になるにはどうしたら良い?

 ……私、聖女だ!!

 私は体を起こして自分の足、お腹、手、頭をポンポン叩いて祈った。元気になあれ!


 再びベッドに横になると、私はすぐに眠ってしまった。

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