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訪問者

 ベッドとキャビネットを何度か往復した後、私は部屋を出た。すぐ近くの部屋のドアをノックする。


「私、リゼット。夜遅くにごめん。入っても良い?」


 しばらくするとドアが開いた。おばあちゃんが手招きする。


「おはいり」

「ありがとう」


 部屋の中はベッドとテーブル、キャビネットが置いてある。私の部屋みたいに豪華さはないけど、充分高級な感じがする。そこにおばあちゃんの少ない持ち物が置かれていた。

 ベッドのシーツがめくれている。


「ごめん。起こしちゃった?」

「ベッドで本を読んでいただけだよ」

「良かった。……ねえ、一緒に寝ても良い?」


 おばあちゃんはベッドに横になった。


「おいで」

「ありがとう。本は良いの?」

「リゼットと話す方が楽しそうだ」


 私もベッドに潜り込んだ。

 ブラン村にいた時みたいに、いっぱい話した。懐かしいこと、今のこと、これからのこと。おばあちゃんは私が来た理由を聞かなかった。


 知らないうちに寝ていて、おばあちゃんに起こされた。楽しい夢を見た気がするけど、朝になると忘れてしまった。




 春から初夏になった。

 朝、鳥の声で目が覚める。夜着からローブへ着替えると、ドアをノックされた。


「おはようございます。お顔を洗う水を持って参りました」

「どうぞ」


 侍女さんが持って来た水で顔を洗う。顔を拭き椅子に座ると、侍女さんが髪を結い上げる。


「リゼット様、最近ランプの油の減りが早いようです。夜遅くまで起きていらっしゃいますか」

「ごめんなさい。油がもったいないですね」

「いいえ、それは良いのです。ただ、お疲れではありませんか」


 おばあちゃんがブラン村へ帰った翌日から、私の一日は忙しくなった。

 午前中は聖女の仕事、午後は勉強で前と変わっていない。でもラウル様との婚約が決まって覚えることが増えた。ソフィア先生に教えて貰った文字、歴史、マナーをより深く習うことになった。それに加えて、周辺諸国との関わり、言語、貴族の歴史と今の状況、ダンス、教養のための文学、などなどとにかくいっぱい。

 勉強の時間内では覚えきれない。だから毎日寝る前に復習している。


「元気ですよ。今もお腹が空いて、朝御飯が楽しみです!」

「安心しました。しかし、決して無理をなさいませんように」

「ありがとうございます」


 私は笑って誤魔化す。鏡に、全く安心してない侍女さんの困った顔が映っていた。



 小さな一室に机と椅子、それにベッドが置いてある。私は椅子に座って、受け取ったメモを読んだ。私の前には、男の子がぐったりと椅子に座っている。隣に立つ母親の顔色が悪い。

 お腹が痛いと言う男の子に手をかざす。祈ると男の子の顔が笑顔になった。


「ああ、ありがとうございます」

「ありがとう、聖女様!」


 涙ぐむ母親と一緒に、男の子が手を振って部屋を出る。補助役の神官様が部屋を片付け始めた。


「リゼット様、今の方で最後です。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」


 私が椅子を立とうとすると、ドアがノックされ開いた。


「リゼット様、面会希望方がいらしています。リュカ様のご紹介でしたので、部屋を用意して、そこでお待ちいただいています」


 誰だろう。モルガン様ならそのまま入ってくる。他に共通の知人はいない。

 私は不思議に思いながら、言われた部屋へ向かった。


 ドアを開けると、よく知った顔が座っていた。


「ガスパル様!!」

「お久しぶりです、リゼットさん。いや、リゼット様、の方が良いでしょうか」

「さん、でお願いします」


 私は駆け足でガスパル様の向かいの椅子に座った。小さなテーブルにはお菓子が置かれている。


「今日はなぜここへ。リュカ様のご紹介と聞いて驚きました」

「リゼットさんに会う為に、リュカ様に一筆頼みました。建国祭があるでしょう。もちろん旦那様も出席されるので、それに合わせて私も参りました。エリアーヌ様も来る予定でしたが、前日に熱を出されたのでお留守番です」

「エリアーヌ様は大丈夫ですか」

「主治医は知恵熱のようなものだと言っていました。熱だけなら良かったのです。しかしそのあと部屋を抜け出そうとして窓から落ちたのがまずかったです。幸い軽い捻挫で済みましたが、遠出は無理です。どうしても来たかったのでしょう。とても楽しみにされていましたから」

「私がいれば治せるのに」

「ここに来るまでの馬車移動が大変です。それに旦那様もこれで少しは懲りるだろうと、神殿の力も借りないよう皆に言い含めていました」


 父親の領主様がそう決めたなら、私は何も言えない。でも会いたかったなあ。領主様のお屋敷の庭で、エリアーヌ様やガスパル様と過ごした時間がとても遠く感じる。


「エリアーヌ様によろしくお伝えください」

「はい。エリアーヌ様から、リゼットさんのことを全て報告するよう言われています」

「全て……。えっ、全てですか」

「何を聞きたいか、本人もよく分かっていないと思います。リゼットさんのことなら何でも良いのでしょう」

「ふふふ、私は元気だって言ってください。それと、また手紙を書きますって」

「分かりました」


 その時、ドアが力強く開いた。


「リゼット!婚約したって本当か!!」


 息を切らしたモルガン様が部屋に入って来た。

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