買い物日和
窓から青空が見える。白い雲が一つだけ浮かんで、吹く風は弱くて暖かい。
「とてもお似合いです」
「可愛らしいです」
二人の侍女さんが拍手をしながら褒めてくれた。
今日はいつものローブではなくて、歩きやすい服を着ている。白のブラウスと膝丈の紺色のスカートは、ブラン村にいた頃の服に少し似ている。でもこっちの方がかなり生地が良いし、ブラウスの袖口とスカートの裾には細かな刺繍がしてある。胸まで伸びた髪は背中で三つ編みにしてもらった。服も髪もすっごく楽で動きやすい!毎日こんな服を着たいけど、聖女だからなあ。
「ありがとうございます。行ってきます」
「お気をつけて」
「楽しんでいらしてください」
廊下へ出るとおばあちゃんがいた。
「おや、今ノックをしようとしたところだよ」
「ふふふ、良いタイミングだったね」
私たちは並んで廊下を歩く。隣におばあちゃんがいるだけで、それだけで楽しくて嬉しい。
「おばあちゃん、そんな服持ってた?」
「これかい?神殿側が用意してくれたよ。さすがに私の手持ちの服じゃあ、リゼットと釣り合いが取れないんだろう」
おばあちゃんは若葉色のワンピースを軽く持ち上げて、裾をひらひらさせる。
「緑色似合うね。その服も昨日のドレスみたいに借り物?」
「これはくれるらしいよ。私には上等すぎて、少し困る。村に帰ったらタンスの肥やしだ」
「着れば良いのに」
私が笑うと、おばあちゃんもくすくす笑った。
「野良仕事には邪魔になるだけさ。リゼットのブラウス姿は、村にいた頃を思い出すねえ」
「動きやすくて、走りやすいよ。毎日これが着たい」
「おやおや。聖女様が走ってたら、みんなびっくりするだろう。何か大変なことが起こったんじゃないかって」
「それもそうだね」
話していたら目的の部屋に着いた。
「今日は騎士様に護衛と案内を頼んでいるんだ」
私がそう言ってドアを開けると、金髪に金色の目の綺麗な少年が一人立っていた。
「なっなんでここにいるんですか」
「リゼット、この少年は誰だい。騎士様は?」
「初めまして、ロラ様。今日はお二人の護衛を務めさせていただきます」
ユーグ様はおばあちゃんの名前を呼ぶと、にっこりと笑った。
おばあちゃんは心配そうに私を見る。
「護衛って……。まだ少年じゃあないか」
「おばあちゃん、大丈夫。この方はアンブル公爵家の次男、ユーグ•アンブル様。今の英雄だよ」
「こうしゃ……えっ英雄?」
「ユーグ様以上に強い人はいないから」
「ははは、今年十五だから、まだまだ若輩者だよ」
驚いて固まるおばあちゃんと呆気に取られる私の横で、ユーグ様だけは明るい。
「さあ、買い物に出かけよう!」
ユーグ様の案内で街を歩く。ドレスや宝石を店の外から眺め、色々な露店を覗いた。
「ロラ様、この先に薬草を扱う店があります。行ってみましょうか」
「ユーグ様、あの、そのロラ様は止めてください」
「ロラさん?」
「ロラで」
「でも聖女様のおばあ様ですから」
私はおばあちゃんと目が合った。すごく困った顔をしている。
「ユーグ様は聖女のことをリゼットって呼び捨てにしてますよね。それなら聖女の祖母も呼び捨てで良いと思います」
私が指摘すると、ユーグ様は空を見ながら考える。
「……確かに。じゃあ、ロラ、薬草の店に行こう」
ユーグ様はパッと切り替えた。この人は、本当に……。
去年の秋、騎士兼神官のモルガン様にユーグ様を紹介された。物語の王子様がそのまま現れたような見た目で、聖女って小さいねって笑った。
明るくて、誰とでも仲良くなれて、壁を作らない。いい加減で適当なユーグ様はいつも楽しそうで、気付くと周りの人まで笑っている。
「リゼットが行きたい店はある?」
「赤ちゃんのプレゼントが買いたいです」
「もしかして姉の?」
私はうなずいた。
「ソフィア先生はお元気ですか」
「お腹が大きくてしんどそうだけど、何かと動き回っているよ。医者が言うには元気だし、順調らしい」
「良かったです」
「薬草を見たあと、赤ちゃんのプレゼントを買いに行こう」
その時、遠くで悲鳴が聞こえた。
「行こう」
ユーグ様は声の方へ向かう。
私とおばあちゃんはユーグ様に付いて行った。




