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最良の方法

 春が来て、私は十一歳になった。

 大神殿の裏口前には小さな庭がある。私はベンチに座って、黄色の花に蜂がとまるのを見ていた。色とりどりの花が咲き始めて、空気まで春色になっているみたいだ。

 その時、馬車の停まる音が聞こえた。私は高鳴る胸を抑えて立ち上がる。

 しばらくすると人影が見えた。私は自分でも気付かないうちに、走り出していた。


「おばあちゃん!!」

「ああ、リゼット。久しぶりだね」


 私はおばあちゃん目がけて飛び込んだ。


「まあ、この子は。泣きべそをかいて」

「泣いてないよ」


 顔を見られないようにおばあちゃんに抱きつく。優しい手が頭を撫でてくれた。


「一年見ない間に大きくなったね。元気だったかい」

「うん、元気」

「ほら顔を上げて。皆さんも困っているよ」


 私が顔を上げると、おばあちゃんを送ってくれた神官様と目があった。くすくすと笑っている。


「えっと、私の部屋に案内するね。こっちだよ」


 私は恥ずかしさをごまかすように話題を変える。手を引くと、おばあちゃんは楽しみだねって笑った。



 私の部屋に着くと、おばあちゃんの荷物を隅に置いて、私たちは椅子に座った。侍女さんがお茶とお菓子をテーブルに並べている。


「リゼットはこんな綺麗な部屋に住んでいるんだねえ」

「今は慣れたよ。始めは入るたびに、お邪魔しますって言いそうだった」


 おばあちゃんはずっときょろきょろしている。初めて部屋に入った自分を見ているみたいで面白い。


「おばあちゃん、お茶もお菓子も美味しいよ」

「うん、本当だ。上等なお茶だね。入れ方も良いんだろう」


 おばあちゃんは関心しながらお茶を飲んだ。カップをテーブルに置いて、侍女さんに向き直る。


「いつもリゼットがお世話になっています。本当にありがとうございます」

「いえ、そんな。リゼット様にお仕えできて、わたくしは大変嬉しく思っております」

「わたくしもです!ですから、お顔を上げてください」

「良い方々に囲まれて、リゼットは幸せ者だね」

「私もそう思う」


 おばあちゃんと侍女さんたちのやり取りを見て、心の底からそう思った。



 次の日は朝からバタバタしていた。


「おばあちゃん素敵!」

「素敵だけど、私じゃあないみたいだ」


 おばあちゃんは髪を結い上げられ、深い紺色のドレスを着ている。私も白地に細かな刺繍の入ったローブで正装している。


「はあ、緊張で肩が凝る」

「大丈夫だよ。王妃様は楽しい方だから」

「そうは言ってもねえ」


 私はおばあちゃんの肩をポンと叩いた。ついでに祈りの力で肩凝りを治す。


「さあ、王宮へ行こう」



 私たちは王宮の庭園に着いた。王妃様とお会いする時は、いつもこの庭園でお茶会をしている。

 おばあちゃんには大丈夫なんて気楽に言ったけど、私はかなり緊張していた。だって、今日はいつものお茶会とは全然違う。


「まあ!リゼットのおばあ様ね!ようこそいらっしゃいました。こちらへお掛けになって」


 庭園の開けた場所で、いつものように王妃様が笑顔で迎えてくれた。いつものようにテーブルにティーセットが並んでいる。だけどいつもと違って、そこにはアドルフ殿下がいる。

 私たちはそれぞれ席について自己紹介を済ませた。おばあちゃんは顔が強張っている。


「うふふ、この日を楽しみにしていたの。リゼットが娘になってくれるだなんて、本当に嬉しくて」

「母上、まだ結婚した訳ではありません」

「それはそうだけど、でももう同じようなものでしょう」


 王妃様は全身をキラキラさせて微笑んだ。キラキラがまぶしくて思わず笑ってしまう。

 でも、おばあちゃんの表情は硬い。


「あの、本当にリゼットで良いのでしょうか」

「リゼットだから良いのです。それに、リゼットにとっても悪いことではありません。力の強い聖女を庇護する上でも、王族となることは最良だと思っています」

「それは、そうですね」

「本人たちも依存はないようです」


 私とアドルフ様は頷いた。



 大神殿への帰り道、王宮の門をくぐる前におばあちゃんが立ち止まった。


「リゼット、本当に良いのかい。本当にリゼットが望んでいることなのかい」

「私にとってとても良い話で、一番良い方法だと思ってるよ」

「分かった」


 それ以上、おばあちゃんはこの話をしなくなった。



 私はアドルフ様と婚約した。

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