少年サーファーの夢
波打ち際に立ち、光を弾くわけでもない、淡い色の波が、ひたすら引いては寄せてくるのを、海斗は一人眺めていた。
水の色は濁ってはいない。
曇天では光り輝かないだけだ。
波は。海は、太陽の光を浴びて輝くものだ。
「カイちゃんは、誰より上手いじゃんね。来年なったら、大会に出てみりん」
糸のように目を細め、耳まで延びるくらいニイッと口を引く。
陽介が海斗によく見せる顔だ。
「ヨウちゃんがいないもんで、俺が一番なだけ」
真冬でもよく日に焼けた黒い顔を、海斗はぷいと背けた。
チャコールグレーのフーディーはフロントのジップアップを開け、そこからシャーベットオレンジのTシャツの色と、黒いヤシの木のシルエットプリントが覗いている。
Tシャツの、その首に当たるところだけ、皮脂で色濃くなった襟ぐり。
そこから海斗のまだ細い少年然とした首がすらっと伸び、くっきりと筋が浮かび上がる。
海斗の小さな喉仏がごくりと上下すると、陽介はフンッと鼻から一気に、荒い息を吐き出した。
「来年でようやく12歳だよ。キッズクラスで出場するって、カイちゃん、ずっと言ってたじゃんか」
「そんなん、ヨウちゃんだって一緒だろ!」
海斗の浅黒い顔の中、白目が際立ち、また少し茶けたように色素の薄い黒目は、陽介の目を射るようにギラリと光った。
しかし陽介も負けじと睨み返す。
「そりゃオレは参加できんけどさ。病室で応援するし! 赤羽根まで近いもんで、お母さんだってすぐにカイちゃんの結果、知らせてくれる――」
「違うだろっ! 俺が大会に出るとき、ヨウちゃんは元気なのかよ! 結果なんて聞いてられんのかよ!」
海斗は目元に手の甲を押し当て、俯いた。
それまでギュッとシーツを握りしめていた、陽介の手がほどける。
陽介はふふ、と笑った。
「言ったな? とうとう言ったな? オレが死ぬかもしれんって」
顔を覆っていた腕を投げ出し、海斗は真っ赤な目で陽介を睨めつけ、怒鳴り返した。
「そんなこと言ってない! 俺はヨウちゃんが病気と戦ってるとき、側にいてやりたいだけで――」
「いてやらんでいいじゃんね。オレが病室で病気と戦ってる間、カイちゃんは海で波と戦ってよ」
陽介は海斗の怒声を遮ると、ひたりと視線を据えた。
陽介の、最近は常に熱に浮かされ、潤んだような瞳。
「カイちゃんが大会に向けて、サーフィン頑張るんだったら、オレもド頑張る。カイちゃんが大会で勝つなら、オレも病気に勝つ」
陽の差さない海。
海斗は曇天を仰ぐ。