人の心は、分からない
池袋のビルから、出てきた女性を見たら、生田美穂だった。
私と生田は、目が合ってしまった。
「生田さん、お昼はもう食べましたか?」と聞くと、
「まだ、なんだ。あの辛いラーメンさんに行きませんか」と言われて、
辛さと痺れが楽しめるあの店へ。
「金田さん、白い丼じゃダメですよ。私みたいに赤い丼じゃなきゃ」
「生田さん、私、神田の本店では、赤ではなく、黒い丼食べてますから」
食事が済んだあと、話したいことがあり、喫茶店へ。
「生田さん、今日は、セーシェルダイビングへの巡回監査でしたか」
「はい。金田さんは、遠藤外科でしたか」
「はい、今日は、もう疲れたから、午後からの仕事はしたくないね」
「私もです。今日は、このまま帰ろうかと思います」
「それでいいですよ、今日は、帰ってしまいましょう」
そんな会話をした後で、午後2時過ぎに帰った。
翌朝、グーグルカレンダーを見たら、生田は休みだった。
昨日、元気そうだった生田さん、何があったのだろうか。
グーグルカレンダーには、今日と明日だけでも、面接の予定がある。
うちの面接は、所長の中村と中島さん、宮田さんの3人で行う。
採用が充足しているのに、なぜ、面接を行うのかと疑問が出てきた。
「おはよう、羽田君」
「金田さん、おはようございます。」
秋田は、グーグルカレンダーを見て、「金田さん、私、試用期間で、クビなんですかね」
「羽田君は、一生懸命仕事をしているから、大丈夫だろ。
やばいのは、俺の方なのかもしれないぞ」
「金田さん、そんなことありませんよ。」
「余計なことを考えても仕方ないから、仕事、仕事」
午後になり、事務所の電話が鳴る
「中村拓也税理士事務所でございます」
「セーシェルダイビングの中山と申しますが、生田さんいらっしゃいますか」
「あいにく、本日は、お休みを頂いておりますが・・・」
「生田に伝えたい用件がありましたら、伝えておきますが」
「昨日、生田さんがいらっしゃらなくて、きょうなのかと思って、確認の電話を入れたんです」
「申し訳ございません。生田には、伝えておきます」
電話を切った後、
「羽田君、そういえば、生田さんから、セーシェルダイビングの給与計算頼まれていたんじゃないのかな」
「金田さん、それは終わっています。昨日、メールで、送っています」
「羽田君、昨日、生田さんが、セーシェルダイビングに行ってないみたいなんだよね」
「金田さん、昨日、池袋の路上でバッタリ、生田さんと会ったんですよね」
「会ったよ。あのラーメンやで、辛いラーメンも食べてきたよ」
「うらやましいですね、私も食べに行きたいです」
「旨かったよ。今度、羽田君も行こう」
「池袋のビルだから、セーシェルダイビングに生田さんが行っていると思っていたんだけども、違うとはね」
「セーシェルダイビングでなくて、どこかほかの所に生田さんは行っていたんじゃないんですか」「そうか、それは分からないな。でも、一体、どこへ行くんだい?」
「分かりません」
「さすがに、他の担当者の顧問先の会社名、住所までは覚えられないからね」
応接室から、面接をしていた3人が出てきた。
「お疲れ様です」
「金田君、お疲れ。昨日の遠藤外科の件だけど、どうなった」
「院長が、今後のことも考えてくれるみたいなので、良かったです」
「それはよかった。話は変わるんですが、面接が立て込んでいますね」
「そう、面接が立て込んでいるんだよ。金田君は、ベテランだから、
羽田君をなんとか、上手く指導してくれよ。頼んだぞ」
「所長、誰か辞めるんですか」と聞いてみたが、何も言わずに、トイレに行ってしまった。