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第14話 ボクたちの出会い

ボクは歌えなくなった。

それはちょっとしたことがきっかけ。

その理由を思い出すとき、必然的に思い出すのはボクたちの出会った頃のことだった。

 ボクと酒吞童子たちは昔からずっと仲良くしている所謂幼馴染というやつだ。

 当然ボクが歌えなくなった理由も知っている。 


 酒吞童子たちとボクの最初の出会いはそう大したものじゃなかった。

 ボクが生まれてから数年はお母様が付きっ切りで世話をしてくれていた。

 その時に妖精郷の本邸にやってきたちょっと偉そうな女の子と出会ったことが最初だった。

 彼女の最初のセリフは「お前、おもしろいな。俺の子分にしてやるよ」というよくある言葉だ。

 その時はわからなかったけど、『子分』にするということは『守ってやる』ということと同じ意味だったらしく、言い換えるなら「お前、気に入ったわ。俺が守ってやるよ」ということになるようだ。

 でも残念ながらその時のボクは聞いていたようだけど言葉も発さず、興味を失ったかのように他の場所へと行ってしまった。

 そうなると面白くないのは声をかけた酒吞童子だった。

 当然追いかけて行って、前を歩く小さなボクを抱きしめて行動不能にし、そのまま自分の仲間たちの場所へと運んで行った。

 酒吞童子の仲間は当時から変わらず、茨木たち四人組がいたわけだけど、その四人も酒吞童子の行動にとても驚いたらしい。

 酒吞童子は情に厚く仲間想いだが仲間と認める人はほとんどいなく、仲間に入れてほしいと言われてもやんわりと断っていたそうだ。

 そんな彼女だけど、その性格上男女共に人気は高く仲間ではないものの友達は多い。

 なので鬼族以外の妖種の中にも彼女たちの仲間になりたい者は多かった。

 その当時のボクは五歳で本邸内をうろうろと散歩することが好きだった。

 まぁそうは言っても妖種の五歳児なんて自我が確立していない時期なので覚えていないことも多い。

 なんとなくそうだったとは言えるけど、どうしてかなんてのはわからなかった。

 まだ人間の五歳児のほうがしっかりとした自我がある分マシというものだ。

 酒吞童子はそんなボクを見つけてこっそり追いかけて観察し、おもしろいと思ったらしい。

 ちなみに、弥生姉様たちが言うには、いつもぼーっとしていて呼びかけると反応するけど、すぐに飽きてどこかに行ってしまう子だったとか。

 その頃からよく一人で歌っぽいものを歌うようになったとも言われた。

 それと、膝の上にのせてから頭を撫でると長時間動かなくなるのでその点は楽だったし、楽しかったそうだ。

 今も姉様たちが側に来るとボクを太ももの上に乗せるのはその時の名残らしい。


 酒吞童子に抱えられて茨木童子たちの場所へ行ったボクはそのまま可愛がられ、代わる代わる抱きしめられたようで、時々茨木童子たちが懐かしそうにそう話すことがある。

 金熊童子に言わせると、自分よりも無口無表情で動物みたいな感じだったとか。

 そのあたりの様子はお母様が映像記録に残しているらしいので、今でも見ることが出来るようだ。

 ボクは見たことはないけど。

 ただそんな昔のボクでも、皆はボクの気持ちがよくわかっていたという。

 なぜかって? それはボクの尻尾が雄弁に語っていたかららしい。

 酒吞童子たちもその特徴を覚えてからはボクが移動するたびに尻尾を見て色々と確認していたという。

 それも含めて彼女たちのお気に入りとなり今に至るというのだから恥ずかしい話だ。


 ちなみにどんなことがあったかというと、顔は無表情なのに尻尾はゆらゆらと左右に振られていて、何かを見つけると無表情なのに尻尾だけは興奮したようにやや早く振りながら目標に向かって移動していく。

 ずっとそんな行動の繰り返しだったとか。

 眠そうなときは事前に尻尾を股に挟んでから体の前に持って行って抱きしめるという癖があったみたいで、それを見たら抱っこするなり寝かせるなりして対処したようだ。


 ボクが覚えているのは、酒吞童子たちはいつも笑顔だったということ。

 どこか行くにしても必ず誰かが側にいて、何かあれば鬼たちの誰かがお母様やお世話係に伝えて対処されていたこと。

 そして寝るときはなぜか皆密集していたということだ。


 六歳頃になったくらいだろうか、色々覚えていることがある。

 その時くらいからボクたちはみなもちゃんや黒奈と知り合うことになった。

 まだ幼い彼女たちは対照的な性格をしていた。

 今でこそ思いやる関係だが、昔は頭が良くて他より賢いみなもちゃんは、ぼーっとしていた黒奈を毛嫌いしていた。

 思う通りにならないのが気に入らなかったらしい。

 みなもちゃんはみなもちゃんでボクや酒吞童子たちと仲良くなるために努力していたけど、黒奈はひたすらマイペースだった。

 幼い猫又は猫そのもので気が向けばやってくるし、そうじゃなければ去っていくというような行動が主だった。

 ちなみに黒奈が言葉をしゃべり始めたのは七歳くらいの時なので、六歳の時はただひたすらに猫っぽかったのを覚えている。

 まぁ酒吞童子たちに言わせれば、五歳のボクも同じだったらしいから案外ボクと黒奈は似た者同士なのかもしれない。

 小さい時の黒奈は愛らしい人形みたいなツインテールの黒髪の女の子で、みなもちゃんは少し青味がかった黒髪を背中まで伸ばした幼いながらもきれいな女の子だった。

 言い方を変えれば美幼女といったところだろう。


 それから数か月くらい経った頃、黒奈は波長が合ったのかボクにべったりになった。

 そのくらいにはもう常に周りに酒吞童子たち五人の鬼と烏天狗のみなもちゃん、猫又の黒奈がいるのが当たり前になっていた。

 ボクや黒奈が何かをしていればみなもちゃんや酒吞童子たちが見守り、座っていればボクを太ももに乗せて抱きしめ、そのボクの太ももの上に黒奈が座るという光景がよく見られた。

 その頃にはみなもちゃんと黒奈はなんだかんだ言いつつも仲の良い関係になり始めていたしね。


 スクナと出会ったのはボクが六歳の時のクリスマスの日だ。

 妖精郷は人間界でいうところの神道が主流となっているが人間たちの行事に馴染むために仏教やキリスト教も取り入れられていた。

 そこでボクたちはお母様たちの提案もあってクリスマス会をやることになり、歌の練習をして皆に聞かせるという出し物をすることになった。

 それから皆で楽しく過ごしながら歌の練習や色々な準備をしていき、クリスマスの日を迎えた。

 そんなクリスマスの日に、お腹を空かせて道端で倒れていたスクナを助けたことがボクたちとスクナの交流の始まりだった。

 スクナ自身は妖精郷ではなく高天原に住んでいたようで、妖精郷で面白いことをやるという話を聞いてやってきたそうだが、お腹が空いて途中で倒れてしまったらしい。

 奇しくも倒れた場所がボクたちのクリスマス会の会場前だというのだから偶然とは恐ろしいものだ。

 その頃からスクナはマイペースでぼんやり気味。

 酒吞童子たちがせっせと世話をしていたが相当手を焼いていたみたいだ。

 今もその辺りは同じようだけどね。

 

 それからスクナも加えてクリスマス会を始め、途中で天照大神ことあーちゃんやスサノオ兄様と奥さんのクシナダヒメ、月読と分体のツクが参加することになった。

 あーちゃんとの出会いはボクが生まれたころにまで遡るので今は割愛するけど、ボクたちが歌うということで急いでやってきたようだ。

 一応あーちゃんたちは偉い存在なので、貴賓として参加。

 ボクたちが用意した催しや料理を楽しんでもらうことになった。

 まぁお母様たちは来ることを見越していたようで、料理も飲み物もたくさん用意していたから困ることはなかったみたいだけどね。

 そんなあーちゃんたちが最も注目したのはボクたちの歌だった。

 ソロでそれぞれが歌い、最後に合唱して終わるというものだったけど、あーちゃんがものすごく食いついてしまったのだ。

 特にボクの歌声が気に入ったらしく年末年始の行事でも歌ってほしいと言われる始末だった。

 最初は快く引き受けて皆を連れて歌ったり踊ったりしていたけど、年を追うごとに観客が増え、段々と大きな歌と踊りの祭典のようになっていってしまった。

 ちょうど人間たちの年末の歌の祭典のように。


 その頃から〇〇派というそれぞれの派閥ができ始め、ボクたちの知らない水面下で争いが発生するようになってしまった。

 結果、年末年始の歌や踊りだけじゃなくクリスマス会にも彼らは現れ、そこでも争うようになってしまった。

 その頃からだろうか、ボクが歌うのを嫌になってしまったのは。

 争う彼らを見てボクたちは不快な気分になった。

 身内と歌うのは良くても知らない誰かのために歌うのはダメになってしまった。

 そして当然というかボクが歌わなくなってから同じように酒吞童子たちも歌わなくなった。

 それは今も続いている。

 これがボクたちの出会いと歌うことが怖くなるまでのすべてだ。

 いつかは克服しなければいけないんだろうけど、ボクだけでは前に進めそうにない。

 酒吞童子たちはどう思っているんだろうか。

 仕方ないとは言ってくれるけど、それでいいのだろうか。


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