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第12話 ビビる狐白と進まない作業

基本的にのんびり進行してます。

ほのぼの系。

最終話はどこに着地するのか。

乞うご期待!

 今日の配信は、あのサンドボックスゲームの雪辱戦だ。

 今日こそは安全に配信を終えてみせる! そうボクは意気込んだ。


『真白狐白のまったりゲームチャンネル』

 現在待機所にはなぜか4000人が視聴待機をしていた。

「えぇ!? なんでこんなにいるの? どこから流れてきたんだろう?」

 現在のチャンネル登録数は12000人で、知らないうちに大幅に伸びている。

 ちらっとコメントを覗くと、次のような文字が見えた。

『子狐小毬ちゃんから』

『真白凛音姉から』

『ラナ・マリンちゃんのツイートから』

『睦月スバルちゃんから』

 絡んだことのない、ボクが推しているだけの夢幻酔メンバーからツイートなどから来ている人もいるようだ。

 小毬ちゃんの関係で宣伝のお手伝いをしてくれたんだとは思うけど、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 ただ接点もないのにお礼を言うのも迷惑になりそうなので、このどうにもならない気持ちを抱えたままでいるしかない。

 そんなことを考えながらもう一度コメントを見てみる。

『ラナ・マリン:待機ですの』

『睦月スバル:待機だよ~!』

『子狐小毬:待機待機』

『真白凛音:待機中』

『夢幻酔組が全員待機しとる』

『小毬ちゃんは知ってたけど、ほかの子もとは』

『凛音姉もよう来とる』

 なんだか大事になっていた。

「あわわわわ、どうしようどうしよう……」

 ボク大混乱。急に緊張感が増してきてしまった。

「なんだかすごく待たれてるけど、やることって地味な建築作業とかだよ? 面白いことないよ!?」

 しかしそんなことを言ったところで最早どうにもならないだろう。

 だってすでにタイトルにそう記載してあるのだから。

 そして解決策がでないまま開演時間を迎えてしまった。


「みんな~、こんばんわ~。真白狐白のまったりゲームチャンネルへようこそ~。今日はタイトルに書いてある通りあのサンドボックスゲームのリベンジをしていくよ~!」

 そう言うとさっそくワールドに入る。

 前回からの続きなのでベッドの上からのスタートだ。

 持ち物は一切なし、経験値もなしという惨状がすぐ目に入る。

「うわぁ、辛い。あの時白く輝くアレが居なければ完璧だったんだけどなぁ」

 いくら油断していたとはいえ、崖っぷちで退路を塞がれて爆破されてはどうにもならない。

 今日こそはリベンジしてやる! と意気込みながら夜の作業に向かおうとしていると――。

『ドン、ドン』

「うひぃ!? えっ? なになに!?」

 唐突に何かをたたく音が聞こえた。

 同時に、驚いたボクの動きをトレースするかの如く、画面上のボクのキャラクターがビクンと背筋を伸ばし、ゲーム内の画面が激しく上下左右に揺れてしまう。

『しょっぱなからのびびり子狐おいしいです』

『悲鳴助かる』

『やっぱりビビりじゃねえか』

『ビビる姿が可愛い課金したい。課金させろ!』

 コメントは最初から大盛り上がりだった。

 うちの視聴者さんはボクがビビるのを見て楽しむ人ばかりだから実に困ったものだ。

「ええっと、どこから音がしてるんだろう。え~っと」

 何回かこのゲームをやってるけど、こういう状況になったことは一度もなかった。

 当然音の発生源はわからない。

「えぇ? 扉? ドアバン?」

 コメントからヒントを貰い、ボクは扉へと向かう。

 うちの家には扉は三ヶ所あり、そのうち外の道へとつながっているのは二ヶ所だ。

 一つは柵に囲まれた農園と牧場への扉、そして広範囲を柵で囲ってはいるが、唯一外へとつながる扉だ。

 なので急いでボクは向かう。

 すると扉から緑色の肌をした腐乱死体の腕が生えているのを発見。

 すぐさま扉を開け迎撃に移る。

 素手で。

「ウララ~、倒してあげるよ~!」

 必死に叩くが腐乱死体はなかなか倒れない。

 ボクは夢中になって前方の腐乱死体を叩きながら前へ前へと進んでいく。

 早くゾンビを倒して心の平穏を取り戻したいのになかなか倒れてくれない腐乱死体に若干の焦りと苛立ちを覚え始めていた。

 何で一生懸命武器で攻撃しているのに倒れないんだと。

 ずっとそう思い続けていた。

 素手なのに。

 そして――。


 突如背後から何者かに攻撃を受けた。

「痛っ!? えっ? 誰? どこ?」

 焦っているボクは腐乱死体から意識が外れ、すぐに攻撃元を探してしまう。

 そのまま背後を振り向くと白いやつがそこにいた。

 カシャカシャうるさいカルシウムがボクのことを弓で狙っていたのだ。

 そしてまるでバーサーカーのようにボクはジグザグ移動をしながらカルシウムに向かっていく。

 まだ距離があるため相手の矢は回避運動の成果もあってボクの横を通り過ぎていく。

 この瞬間がとても気持ちいい。

 そして一番大事なことを忘れたままボクはただただ同じ動きを繰り返したままカルシウムに近づいていく。

 しかし残念なことに近づけば近づくほど相手も狙いが正確になるし、ボクという的も大きくなる。

 当然の如くダメージを受けた。

「痛っ!? もう、なんでこんなに痛いのさ」

 カルシウムとは戦いなれているはずだった。

 それなのに相手の矢が痛い。

 エンチャントされてもいないのにだ。

 しかしアドレナリンが出ているボクは気が付けない。

 死に戻ったばかりだということに。

 そして驚いてそのまま迎撃に出てしまっていることに。

『狐白ちゃん、武器持ってない』

『一度逃げて鎧着てからのほうが』

『だめだ、子狐暴れん坊モードになってるわ』

『狐白ちゃん、ライフ見えてないでしょ。もう残りないよ』

 焦っているボクにはこの時のコメントは一切目に入らなかった。

 そしてついに勝利の瞬間が訪れた。

『カシャン』

 そう音を残してカルシウムは倒れて消えた。

 勝利したのだ。

 やったぜ! そうボクは思って嬉しくてにんまりしていた。

『狐白ちゃん、腐乱死体忘れてる!!』

 落ち着いたボクはコメントを見る。

 は? 腐乱死体?

 振り向いたボクは見てしまった。

 ゆっくりと迫ってくる腐乱死体の姿を。

「ひっ!? わっと、えっと」

 次の瞬間、画面は赤くなりゲーム内のボクは地面に倒れた。


『狐白ちゃんどんまい』

『稀によくある』

『骨に夢中になりすぎて腐乱死体のこと忘れてたね』

『ほかにもいるよな、焦って木の棒で攻撃する人とかさ』

『なかなか笑えた』

『怯えた悲鳴おいしいです』

『悲鳴代振り込めないんだけど!?』

『子狐小毬:狐白ちゃんすっごく頑張ったよ~! 偉いよ~!』

『ラナ・マリン:なかなか見ていて面白かったですわ。あの短時間でここまで華麗に死ねるなんて恐ろしい才能ですわ』

『睦月スバル:わかる、わかるよ~!』

『真白凛音:狐白ちゃんはがんばった』

「うぅ……。これは公開処刑ですか?」

 やってしまった、そう思った。

 こういう素人丸出しなプレイは、指示してくれる人やうまい人からしたら最高にストレスを感じられるだろう。

 幸い新規の視聴者さんにはそういう人はいないみたいで、コメントは穏やかだった。

 むしろボクが慌てふためくのを見て楽しんでいるところがある。


「気を取り直して、装備を準備して残りの腐乱死体を倒そう」

 慰められながらもボクはベッド横のチェストから鉄製防具と剣を取り出して装備した。

 これで完璧、回復ポーションなどはないけど腐乱死体一体だけならどうとでもなる。


「いざ尋常に勝負! ていやー!!」

 外に出たボクはゆっくり向かってくる腐乱死体にジャンプ斬りを食らわせた。

 直後、汚い声を出しながら腐乱死体は肉片を残し消えていった。

「完全勝利。ボクの勝ちだよ」

 当然のように勝ち誇った。

 その姿は一切の被害を出さなかった歴戦の代将軍のようであったと言えるだろう。

 今はそんな気分だ。

 色々あった恥ずかしい過去を思い出す暇などない。

『草』

『これは草』

『こんなん草生えるわ』

『狐白ちゃんの中では死んだ過去などなかった。いいね?』

『ところでこんな明るい敷地内に敵が湧いた原因調べなくていいの?』

『狐白ちゃんが気が付いてないからなぁ』

 少しの間だけ勝利を噛み締めていたボクはコメントを確認した。

 敵の湧いた場所? あるのかな?

「ん~、このあたりに暗い場所はないから湧くとは思えないけど、ちょっと確認してみようか」

 少し雑談をしながら周囲を探索していく。

 やはり暗くなっている場所はなく、屋根の上や建物の隙間にもそういう場所は見られなかった。


『もしかして探索に行く前に戸締り忘れたとか?』

 そのコメントを見て気が付いてしまった。

「あっ、そっか。門か」

『あっ』

『それだ』

『戸締りしてなかったか』

 急いで確認しに行くと、やはり普段敵を通せんぼしている門が片方開いていた。

 敵の侵入経路がようやく判明し、ボクは安堵した。


「みんな、本当にありがとう! こんな些細なミスしてたなんて。や~、よかったよかった」

 色々あって焦って死んだりしていたけど、なんとか敷地の安全を取り戻すことができた。

 ようやくやってきた平穏に、すっかり気を良くしたボクは鼻歌を歌いながら建築を進めていく。

 羊毛と木材、丸石を使った三角屋根のお家を一つ作るのだ。


「♪~」

『鼻歌助かる』

『鼻歌カワヨ』

『鼻歌うまいな』

 ボクの鼻歌は案外好評な様子だ。

 でもそういわれれば言われるほど恥ずかしくなってくるというもの。


「うっ、ちょっと恥ずかしいから鼻歌なしにしようかな」

『いやいや、もっと聴かせて』

『これ歌も行けるんじゃ? 音程問題なさそうだし』

『歌ってみたフラグか?』

「どう言っても歌わないよ~だ。ボクは歌下手なんで~す」

 そうは言ったものの、実は正確ではない。

 妖精郷にいるときに歌の練習をさせられていたこともあり、それなりには歌えるようになっていた。

 ただ単純に恥ずかしいのでそう言ってお断りしているだけだ。


『子狐小毬:ほぉ~! 今度あたしと一緒に歌わない?』

 これで回避できたと思い油断しているところに小毬ちゃんが一言。

 コメントはすぐに反応する。

『キタコレ』

『小毬ちゃんナイス』

『これで歌からは逃げられないと』

「えっ!? ちょっ」

『睦月スバル:おぉ~! それならカラオケいこー!』

『ラナ・マリン:いいですわね。小毬ちゃん経由で話し合いましょうか』

『真白凛音:狐白ちゃん、お姉ちゃんも一緒したいな~』

「うぇっ!? うぅ、歌は苦手だって知ってるくせに~……」

 ボクはそう言うが、姉様には通じない。

『真白凛音:狐白ちゃんは歌上手なんだから大丈夫よ~? その極度の恥ずかしがり屋さんだけどうにかなればいいんだから』

「うぅ、姉様。そこが一番問題なんですぅ」

 ボクの情けない声はそのまま配信に乗り視聴者へと届く。

 当然のように期待するコメントと心配するコメントがすごい速さで流れていく。

 ボクの逃げ道は塞がれてしまったような気がした。

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