表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

一手で決める悪役令嬢の救い方

作者: あきはね

「アムネリア・パラデュース! これまで貴様が犯した数々の卑劣な行いは到底許せるものではないっ! よって私は貴様との婚約を破棄させてもらうっ! そして新たにこのアリス・メイスンを婚約者に迎えることを、この場にて宣言するっ!」


 我が国、クルーゼ王国の王太子であるレオンハルト・アル・クルーゼが、学園のホールで行われていた卒業パーティの場で高らかに宣言したのを見詰めながら、辺境の木っ端男爵の三男坊として生を受けた私はとうとう始まってしまったと心の中で嘆いた。


 分かっていた。ああ、分かっていたさ。転生ヒロインが王太子すらも攻略して、五人のイケメンを侍らせるトゥルーENDを狙っていたのは。

 とは言え、正直、転生ヒロインがここまで辿り着くとは思っていなかった。それぐらいこの「アルカナ物語」の完全攻略は難しいのだ。


 発生するタイミングがシビアなイベントの数々。それら全てをヒロインが見事に熟してしまうだなんて――――私が思うわけがないだろうっ!


「レオンハルト様、お言葉ですが、私が犯した卑劣な行いとは一体何のことでしょうか? 全く身に覚えの無い事で婚約を破棄すると言われましても困ってしまいますわ」


 顔を青ざめさせつつもアムネリア嬢がはっきりと王太子の発言に疑問を投じた。


「貴様っ、身に覚えが無いと白を切る気かっ! ならば言ってやろうではないか、貴様が犯した罪の数々をっ!」


 そしてこの手のゲームによくある虐めの内容が明らかになっていく。

 だけど敢えて言わせてもらえば……次期王太子妃として、そして次代の王妃となるべく教育を受けた彼女にとって、それらの虐めは優しい部類としか言えない。


 むしろヒロインのほうが罪深いと言えるだろう。

 逆ハーレムを成立させる過程で、攻略対象の元婚約者である四人の令嬢の内、二人が無残にも死を迎えるのを知らないはずがない。そう、ヒロインは死者が出るのを知った上で逆ハーレムの道を突き進んだのだ。


 あ、もちろん影でこっそり二人の令嬢は救出しているから安心してくれ。流石に見殺しにするのは気分が悪いし、二人共魅力的な女の子でもあるから救わない理由はない。物語の修正力に阻まれなくて本当に良かったと思っている。


 下心? 当然あるに決まっているっ! はははっ、私はハーレムを狙ってるぜっ!

 高嶺の花ばっかりだから厳しいけどなっ!


 そんなこんなで順調に? イベントは進んでいく。ヒロインが望む通りに。

 そう、これから始まるのは、近衛騎士団長の嫡男であるランスロットが前に出て、アムネリア嬢を地に伏せさせるべく掴みかかるシーンだ。


 ランスロットの行動を咎めることなく、王太子はそれが当然だといった顔で、ヒロインはほくそ笑んで、他の攻略者達はニヤニヤと意地悪い表情を浮かべていた。

 一方で、会場の令息令嬢はこれから起こるであろう蛮行を予測しつつも息を潜めた。

 無理もない、ヒロインに侍っている攻略者たちは王族である王太子と高位貴族の令息たちである。

 たとえアムネリア嬢に罪が無いと分かっていても、楯突くには相手の権力が強大すぎた。


 ランスロットとアムネリア嬢との距離が縮まっていく。

 アムネリア嬢は一歩も下がることなく、毅然としてランスロットを見据えている。


 流石にアムネリア嬢もランスロットが蛮行に及ぶとは思ってもいないはずだ。だがその騎士を信頼する心は裏切られることになる。このままイベントがスムーズに進めばの話だが。


 しかしこれからはヒロインの思う通りにイベントは進まない。


 それは何故かと言えば。

 そう、このシーンは私にとって――――――――。


「疾っ――」


――――全てをひっくり返す千載一遇のチャンスだからだっ!


 ・

 ・

 ・


「貴様ぁっ! か弱い女性に暴力を振るおうとするとはそれでも騎士かっ! 恥を知れぇぇぇぇっ!」


 ランスロットを横から思いっきり蹴飛ばす事に成功した私は、この場の流れを引き寄せるべく大声で叫んだ。


(くはっ、気持ちいいっ!)


 高位貴族であり近衛騎士団長の嫡男であるランスロットを容赦なく蹴飛ばすこの快感。二度と得られないだろうこの爽快感がたまらないっ。


 会場にいる全ての観客は私に視線を向けているに違いない。

 もっとだ、もっと見てくれっ。この私の一世一代の大芝居をっ!


「貴様っ、何をするかっ!」


 王太子が大声を上げて私を咎めた。


(ふんっ、お前なんざ知ったことかっ!)


 流れをぶった切って全ての観客に聞こえるように声を張り上げる。


「聞けいっ! 私の名はプライア男爵家が三男ジルモンド! この名において私はっ、クリューエル伯爵家のランスロット・クリューエル、エルロード公爵家のパスカル・エルロード、カンザス侯爵家のアルファード・カンザスの三名を――」


 一呼吸おいて周囲を見渡せば、静まり返って皆が私を見ていた。期待の目で。そう、みんなあのヒロインの行いを良く思っていないのだ。

 だから私はそれに応えなくてはならない。たとえ――――ドン引きされようともっ!


「王位簒奪を企んだ反逆者として告発するっ!!!!」


「「「なっ――」」」


 静寂の中で名指しした三人が絶句した。そしてヒロインも思わぬ展開にぎょっとして目を大きく見開いている。

 まぁ、そうだよなぁ。婚約破棄で意気揚々としてるところを、思いっきりぶった切られた挙げ句に、王位簒奪の咎で告発が始まってしまうなんて予想もしてなかっただろうし。


(うん、まぁ、お前らは身に覚えが無いんだろうなぁ。だけどな、別に私は嘘八百を並べ立てている訳じゃないぞ)


「くくくっ、あははははははっ、何を言うかと思えば、我が親友たちが王位簒奪を企んでいると? バカを言うものではない。彼らの忠誠はこれまでの働きによって証明されている。貴様、さてはアムネリアに絆されたな? 庇うためにそのような狂言を放ったのだろう。愚かなことだ。その告発は貴様の首を絞めることになったぞ」


 王太子殿下、長文をありがとう。でもお前は無視する。


「彼らがどうやって王位を簒奪するつもりなのか? その企みの一歩は王太子の婚約者をアムネリア嬢からヒロインへとすげ替えることから始まる」


「何故それが王位の簒奪に繋がるのだっ! 彼らは私を思って愛の成就に協力してくれているのだぞっ!」


 無視無視……。


「では何故彼らがヒロインを王太子の婚約者に据えようとしているのか? 答えはこれだっ!」


 私はどこぞの世紀末覇王のように拳を握りしめて天へと突き上げた。人差し指と中指の間に親指を挟んだ歪な拳で。

 一部の令嬢が美しい顔を真っ赤に染め上げていくのにゾクゾクしながら言葉を続ける。


「それは告発した三名がヒロインと「ちょ、ちょっとアンタ、何をっ、あーーーあーーーーあーーーあーーー!」そうっ――ヤっちゃっているからだっ!!!」


 無視無視無視。どんどん喋りまくろうか。もはや私を止めることなど出来ないと知れっ!


「王太子妃、ゆくゆくは王妃になるヒロインに、彼らは自分の子を産ませようとしているっ。そう、彼らは己の子を王位に着けようと企んでいるのだっ! そんな事が許されていいのか? 否っ! 我らは名誉あるクルーゼの貴族としてそのような企みは許してはならないっ! 王太子の次の世代でっ、彼らの子がっ、王家の血が流れていない偽物の王子がっ、至高の玉座に座ることは断じて許してはならないのだっ!」


 ヒロインが自分の肉体関係をバラされて顔を真っ青にしている。王太子は唖然とした顔で呆けていた。その気持ちは分かる。王太子もヒロインとヤッちゃってるしな。ちなみに王太子はヒロインにとって四人目の男のはずだ。哀れである。


 しかし……もっと哀れなのがたった一人だけヤッていない五人目の攻略対象であるアルゼ辺境伯家のスーティー君である。年下の可愛らしい男の子なのに残念だったね。


「そこまでにしておいてくれるか。勇気ある若者よ……」


 やたらと重厚な、しかし落ち込んだ声がホールに響き渡った。


(あ~、もっと喋りたかったんだけどなぁ……)


 どうやら俺の出番も終わりのようだ。近衛兵を引き連れた陛下が登場してしまった。

 敬意を払うために膝を着いて頭を下げる。周りの令息令嬢も一斉にだ。この辺りの流れるような動きは美しくさえある。


 これから私は大変なことになる。間違いなく刺客がたくさん送られてくるだろう。主に逆恨みで。

 いや、実際のところでは、彼らが王位簒奪を企んでいないのは分かっているから、反逆者に仕立て上げられた彼らの家からしてみれば正当な恨みとも言える。彼らは恋に溺れてしまっていただけだからなぁ……。


 まぁ、それを王位簒奪と結びつけなければアムネリア嬢が死んでしまう展開になってしまうわけだから、私としてはそれを許容できない以上ひっくり返すしか無いわけで。ごめんねと言っておく。


 ああ、ヒロインは彼女たちが死ぬのが分かって逆ハーレムに走ったのだから処刑されても私の心は傷まない。可愛いのは可愛いからもったいないとは思うけど。


 王太子の未来が危ぶまれるが、私が王太子を一切責めることなく婚約破棄をひっくり返した意味を陛下には分かって欲しい。王太子はこれに懲りて女に溺れた挙げ句に国を害するような真似はしないでほしい。


 クリューエル伯爵家、エルロード公爵家、カンザス侯爵家の三家にとっては災難だが、まぁ、王位簒奪の罪を着せてしまった以上、あまり良くない未来になりそうだ。


 そしてアムネリア嬢だが……ランスロットを蹴飛ばしてから後ろを振り向いていないのでどんな表情を浮かべているのか分からない。ここ、かなり気になっている。


 下心? もちろんある。あんまり期待できないけどなっ!


 とりあえずこの場が収まったら、人知れず王都から脱出することにしよう。刺客が怖すぎる。

 まさかとは思うが陛下まで刺客を送ってきたりしないよね? 貴族三家の領地でも没収して心を鎮めてもらえると助かるんだけど。


 さて、こうして「アルカナ物語」を最後の最後で滅茶苦茶にしてしまったわけだけど。


 まぁ、こんな悪役令嬢の救い方があってもいいよね? ダメ?

王位簒奪って言い切れば、たとえ肉体関係がなくても大抵の逆ハーレムは粉砕されると思って書いた短編です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] > ヒロインが自分の肉体関係をバラされて顔を真っ青にしている。王太子は唖然とした顔で呆けていた。その気持ちは分かる。王太子もヒロインとヤッちゃってるしな。ちなみに王太子はヒロインにとって四人…
[一言] どうなったかまで書いて欲しかった
[一言] いつもこの手の話で思うのですが、先に婚約者を蔑ろにして浮気始めたのは男である王子・王太子なのにソチラは咎められず「嫉妬」した女性側ばかりが咎められるのは何故なんでしょう?王子・王太子は「勝手…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ