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五里霧中の造花  作者: ひさちか
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序章

更新は原案と作文が分かれておりますので不定期となります。

投稿など不得手な者が行っておりますので、ご不快な記述等がある場合もあり、

その場合はブラウザバックなど自衛の程お願い申し上げます。

修正はその都度行っていく予定であります。

石を投げないでいただけますと幸いです。


<我々は何者か>


この問いに対する答えを用意すれば、両手の指では全く数えられない。千差万別すぎて一つに絞ることができないのは、解りきったことだ。

そもそもこの問いには前後がある。<我々はどこから来たのか>そして<我々はどこへ行くのか>が前後に加えられて全てとなり、元はある著名な画家の描いた油絵の題目である。

私と云う個は、デルタと名付けられた。名付けられた私が、いつか解こうとしている問いが先ほどのソレである。

しかしながら、答えを得る代わりに私は、答えを保留することを選んだ。


漠然としてではない、選んだ理由は勿論ある。私はまだ東に居た仙人や西に隠れた賢者のように長生きをしてきたわけではない。それでもこの答えを得ない道を選んだのは、見てきたからである。

誰かのために生きる人、使命を全うしようとする人、過去しか見なくなった人、死を恐れてしまった人、異なった在り方をする人たちを見てきた。

幸いにもすべての人をこの脳は覚えていて何度でも理由を再確認できる。彼らは、確かにあり方の定まった何者かではない答えになるものを持っていた。

しかしその人は、昨日は善人で、今日は悪人だった。矛盾しているようで、まったくと言っていいほど辻褄があっていた。昨日が悪人で、今日が善人の逆だった人もいたけれど、どちらにせよ、在り方は変わっていなくて、食い違ってなどいなかった。


法則ともいえない、ただの経験則だが、大袈裟なことではなく今の私が形作られた道理がそこにはあった。

私も必ず、悪人の昨日や善人の今日がやってくるし、若しくはすでに過ぎ去っている。

過去は定まっていくものなのだから、答えの半分は自動で埋まっていく。反対に未来を見通せないなら、どの様に定まった在り方でも半分のすべては埋まることがないと言える。

だから私は、いつか終わりが来て勝手に定まってしまう答えを自分で棚上げしたのだ。定まってしまった人たちを見てきて、変化する明日を定めず過ごしていく、その方が生きていると思えたからだ。


私の名前はデルタでミト。

ただ終わってしまうことが嫌だった我が儘者で、答えも出せない半端者。

そうであってもこれは、私が今を決めるために辿ってきた確かな道半ばで、その道に居てくれた善人で悪人の人たちが答えを出した顛末である。

    

 ■       ■          ■


私たちが、日々を送る生活の様子はとても機械仕掛け染みている。

しかし、機械仕掛けといっても私たちそのものが判を押したような造形であったり、同じ行動をとったりしているわけではない。普通と云うものと比較したことは無いが、少なくとも私を含めた12人は確実にそうではない。


『起床の時間です。脈拍・呼吸の正常活動を確認。統合バイタルチェックを開始…』


ただ、来る日も来る日も私たちの行動時間を決定するのが、私たち自身ではないという点において、私たちは機械染みている。今も機械の声に合わせ先の12人とその他大勢の彼らが起床させられた。


『…終了、異常なし。食堂へ移動してください』


三分ほどの診断が終わるころには12人全員が顔を洗い、歯を磨き、与えられた簡素な服を着ていた。これらの朝行われる一連の事柄をすまし、音声の最後の言葉を待っていた。


「おはよう、デルタ」


音声と同時に横滑りで開かれた扉の向こう、対面の扉から現れた彼はまたいつものように私に話しかけた。


「おはよう、アルファ」


静かに自動ドアが閉まり、私も無難な挨拶を返す。アルファは返した挨拶に返して、口角を少し上げる。私は反対に、何の表情も浮かべられなかったことだろう。別段彼の存在が気に食わなかったり、寝起きが悪かったりしたわけではない。

私たちは、互いの部屋の前で朝の挨拶を交わす少年少女であるが、今の時間を知らない。

音声によって、先ほどのように管理された生活の中では、管理されている日々の現状について、これといって顕著な反応を示すことは誰一人としてない。時間を示してくれるはずの時計のないこの施設では、手首のデバイスから発せられる指示音声が時計の認識置き換わる立場になっていた。

しかし、ここ数日の内で私が読んだ物語には日の出や音のなる時計が出てきた。朝の要素が欠けたこの窓のない施設内で少し、ほんの少し違和感が顔に出てしまった。


「じゃあ、行こうか」


少し間の空いた私に彼が言葉と視線で促した。


「そうね。行きましょう」


 取り繕って高低のない言葉を返す、彼に促されるまま食堂へ続く廊下を進む。

 染みひとつない白色で統一された淡い廊下を二人共通の靴音が一定に響き、丁字路に差し掛かって初めてもう二つの音が響き合った。


「おはようございます。アルファ、デルタ」

「同じくですわ。お二人」


此方は瓜二つの姉妹であった。どちらも長い黒髪を左か右に結わえている。左に結わえた彼女はまだ眠いのか、片割れに寄りかかって気だるげに省いた挨拶を私たちにかけた。


「おはよう、ファイ。今日のブレアはどうしたのかな」


アルファが、ブレアの状態を見て寄りかかられた右結いの片割れ、セルアに問いかける。

彼女たちは二人でファイと呼ばれる双子である。二人でどちらともファイであり、彼女たちも不便ではなかったのだが、彼女たちの遊びの一つで、自分たちで新しい名前を付けたらしい。その二人だが、いつもなら動作もわざと似せているようにしているようで、今日のように明確な差を作っていることは不自然であった。


「単純に、寝不足ですわ。あまりお気になさらず…」


語尾に空気が抜けるようにブレアが自分で答えた。そしてもう話さないといったように少し色あせた四角を口元に寄せた。


「だいぶ気に入ったようね。勧めた甲斐があったわ」


口元に寄せた四角に私は見覚えがあった。昨日私が彼女に勧めた推理小説である。どうやら、私が思ったように彼女も本の内容に引き込まれたようだ。


「貴女の勧めた本だったのね」


セルアがブレアの頭を撫でながら私を見る。彼女の口元には微笑みとは違う印象だったが、薄く笑い、


「ブレアも楽しめたみたいで私も嬉しい。じゃあ、今日は手加減なしね。」


唐突に放たれた言葉に私は一瞬戸惑ったが、やや遅れて理解して心の中でため息を漏らした。詰まる所は嫉妬である。片割れとの会話を少しでも自分以外に向けられて、その腹いせをしようとしているのだ。

確かに今日の午後の相対では、セルアともう一人が私たちと当たっていた。


「今日の相対では、完封してあげますわ。」

「それは困る。今日、デルタと組むのは僕だから、負けてあげるわけにはいかないよ」


もう一人の、私と同じペアであるアルファは、セルアと違った印象の笑みを浮かべ見つめあう。

管理された生活にあっても私たちはただ、健康を目的に適切に運動・食事・睡眠をとっているだけではない。外の子供たちと同じように、あるいはそれ以上に体力と学力を向上さるプログラムをうけている。それらは競争の側面も含み、勝敗によってつくスコアが公開されるため、負けたくないといった淡い対立がこのように出来たりしていた。

このプログラムの中に、相対し仮想戦闘を行うものがある。学力と体力を鍛えるそれは「魔術」と呼ばれる。


魔術は、地生体の発展と安定を前提とし、目的としてより良いものの創造を掲げている。私たちが法則に干渉する力を魔力と呼び表し、干渉し制御する術式、この両方をもって生命は魔術を行使する。むろん例外もあるが、基本を逸脱することは稀である。


魔術のスコアは私たちの間では最も評価されるものだ。単純に力の優劣が付き、術式や元素の相性によって簡単に序列が入れ替わる。

そうした性質の魔術を扱う中でも、アルファは優秀だと言えるだろう。五大元素における「火」の性質を有する彼は術式の制御が他とは明らかに差が生じていた。対するセルアも術式の多様性と云う点においては優秀だと言える。


「では、私が勝ったら一つお願いごとをきいてもらいましょうか。自信が、おありなのでしょう?」

「いいよ。乗った!」


優秀な二人の見つめ合い、それよりかは、睨み合いといえる一連の時間は唐突に終わり。双子が先に食堂へ歩き出した。

その背中を見つめながら彼もまた、悪戯好きの年相応な笑いを浮かべた。


「そんなに楽しみ?」

「いや、彼女に言うことを聞かせられる好機だと思ってね。」


すこし目を伏せて笑う彼は、私の手を引いて再び食堂へと促した。

そして、

「良かった。予定通りだ。」


と、とても小さな声でよく分からないことを云ったが、私は聞き返さなかった。


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