第八話 謎の手首の模様
俺は帰宅してから、家の中身の物を物色した。
とりあえず、俺が見染神社に持っていた道具を片っ端から漁る。
「……消えてる」
ノートをペラペラめくってみても、やはり俺が頭の整理で書いた言葉たちは消しゴムで消された跡もなく、むしろ書かれていなかったのだと見せつけてくる。
桜と一緒に食べたチョコレートは冷蔵庫の中にあるのはすぐに確認した。
ただ違いがあるとするなら、ノブとの会話が変わった程度。
……タイムトラベル、って奴なのか? 小説とか、漫画とかに遭ったりするヤツ。
信じられない、俺は作品の主人公に抜擢されるような大それた人間なんかじゃないというのに。
「嘘だろ、俺は……戻ってきたってこと、なのか?」
頭を押さえて、俺は静かに告げる。
俺は現状を理解しようと試みれば見るほど、現実があの出来事が夢だと脳裏に囁いてくる。
なんなんだ、なんなんだと俺は必死に頭の思考を巡らせる。
探りたくても誰かに聞いてみなくては、事実確認をしなくては意味がない。
だとしたら、俺はどうするべきなんだ?
「……ん? なんだこれ」
ふと、俺は気づいたものがある。
左手首に何か黒い模様があった。
切り傷かと思ったりしたけど、俺は怪我をした覚えもない。
だからといって入れ墨なんて、身体にリストカットを入れるのと一緒なくらいに俺の中で禁じている行為だ。俺は慌てて、携帯で写真を撮るとノブに写真をつけてメールを送った。
もちろん、内容は「俺の手首、何か見えるか?」という言葉も付けて。
ピロン、と音が鳴ったのを聞いて俺は折り畳まれた携帯を開く。
『何も見えないぞー? どったホントに』というメール内容に俺はさらに仮説を立てることにした。
「悪ぃ見間違いだった、サンキューな。また今度アイスでも奢るわ……っと」
俺はガラケーで打ってまたノブにメールを送ると返信が早いノブは「ん、頼むわ」と返って来る。
もう向こうから返信が来ないなと確信してから、俺はもう一度手首を見る。
「……マジか、くそ」
ノブのことだから、俺が冗談で送ったと思って冗談を言った可能性もあるから確認してもらうには別な人物に頼むべきなんだとはわかっているが、俺の家には爺ちゃんくらいしかいねえ。
確か今日は爺ちゃんが遅くまで友達と飲みに行くって聞いてあったから、今日は帰って来ることはない……だとしたら、答えはもう出ている。
「行くか……見染神社に」
爺ちゃんに迷惑をかけないように、俺は子供の好奇心でまたあの神社へと一人向かうことにした。
真夏のセミの鳴き声は、どうも鬱陶しくて。どうも聞くに堪えなくて、耳障りだ。
けれど、それが夏。
夜道を月明かりで照らされながら、俺は一人歩いていく。
けど、もしまたアイツが殺されてしまったら、幼馴染が――――桜が、死んだらと思うと、俺は行動せざるを得なかった。