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第二話 いつもの夏の夕暮れが終わる時

 ――数日前。刻鹿(こくしか)高校、2-A教室。


「……やっと、放課後かぁ」


 的場孝(まとばたかし)は、今日も退屈な時間を終え体を伸ばし大きなあくびをする。

 帰りの会も終わり各自担当の掃除も済ませた。

 それぞれ部活するなり勉強するなり、どこかに寄って遊ぶのも自由な時間だ。


「よく寝れるよな孝は、そんなお前を俺は勇者と称えよう」


 孝の授業中の行動を見ていた隣の席にいる悪友の日高信光(ひたかのぶあき)にやにやと笑っている。


「嫌味かーノブ」

「誉め言葉だよ、今日は語り部寄る?」

「んー……」


 俺はこのクラスでカースト上位に立っている少女の座っている席を見る。


「桜ー、後で一緒にカラオケ行かない?」

「うん、いいよ」


 話しかけられてる女子に、笑顔で答える少女。

 唯之宮桜(ゆいのみやさくら)、それが彼女の名前だ。

 茶色の短髪に黒いリボンをカチューシャみたいにしているのが特徴的な少女は、俺の幼いころからの幼馴染。いつの間にか彼女と俺の間には圧倒的な差ができていて、今はもう話しかけたら彼女のお友達から制裁されるほどの愛されキャラである。

 つまり、俺はカースト下位のの存在にあたるというのは決定的だな。

 

「タカ?」

「――――今日は、気分じゃねえ」


 少し、低い声で答えてしまうと信光は気にした風もなく陽気に声をかけてくる。


「では、サボんならアイス奢ってもらおうか」

「じゃあガリガリな。当たり棒出たら寄越せよ」

「はいはい」


 友人の信光は察したのか、いつもの提案をしてきた。

 それがコイツのいいところと思うべきか、それともアルバイトしてる俺にただ単にたかりたいだけか……孝と信光は鞄を持って教室を出る。

 今日も暇で学校を終えた放課後。それは学校を嫌う者にとっては早々に帰宅を決意し好きなことに没頭できる時間だ。それをどう使うのも、本人(おれたち)の自由。

 まあ、部活の奴らには詫びの印としての彼らの好きなぬいぐるみや菓子類をユーフォ―キャッチャーで数個捕獲しつつ、格闘ゲームである程度遊んでからコンビニに寄って悪友と互いにアイスを食べる。

 俺は立ちながら、ノブは地面に座りながらだ。

 夏の暑苦しさに汗を掻く俺は手で風を送りながら夕焼け空を眺める。

 朱色を何度も塗り重ねた水彩画でできているのではないかと思ってしまうのに、あの太陽はまだ沈まない。まるで、自分のようにも思えてくる気持ちを噛り付くアイスで黙らせる。


「なあ、タカ」


 唐突に悪友はぽそりと呟いた。信光の手に持っているアイスがぽたりと一滴地面に落ちる。


「なんだ悪友、こぼれてんぞ」

「あ、ちょっと待って」


 噛む派の俺はあっという間に半分まで食べ終わった。

 舐める派の信光は溶けた部分が手にかかり、舌で舐め取りながらアイスを完食しようと格闘している。食べ終わるのを待つ俺に、信光はやっと俺と同じくらいまでアイスを食べ終えるとあることを聞いてきた。


「……タカは、切り裂き魔が最近出てるの知ってるだろ」

「ニュースにも出てるくらいだからな、なんだ遭遇したのか?」

「するわけねえだろ、バーカ」

「バーカつったほうが馬鹿なんだよバーカ」

「はーい、すみませんでしたー俺が悪かったですー!」

「謝罪はやっ」

「るせーよバーカ」


 わざと不貞腐(ふてくさ)れたフリをする悪友に喉を鳴らして笑うとまた俺はアイスを食べ始める。ここ、希咲町(きさきちょう)はほぼ田舎だ。

 コンビニやスーパーとかは一応あるな、程度の認識の町だ。

 ほとんどの奴が都会に行ってる中、自分としては愛着のある町ではある。

 そんな町に切り裂き魔なんてどこのジャックザリッパーだ、なんて言いたくなるが真面目な顔をしている悪友にそれはいけないと言い聞かせる。


「……気にならない?」

「俺たちは少年探偵団じゃないんだぞ、危ない橋渡る奴がどこにいるんだよ」


 アイスを一口食べ、俺は素直な感想を言う。

 部活仲間たちからもホラー愛好家と呼ばれている俺でも、関りを持っちゃいけない物があることくらい理解している。おそらく信光に何かあったから、という悪友ゆえのSOSだと言うのなら自分でも解決できる範囲のことならしてやろうと思う人情くらいはある。

 そうじゃなくただ単の興味だったなら、俺は関わるつもりは一切ない。


「いや、それはそうなんだけど。最近聞く顔無狐(かおなしぎつね)の方とかの話とかも、学校で出てるじゃんか」

「は? 噂話(うわさばなし)だろ、それ」


 コイツあんまりホラー信じないタイプの奴なのに気になるなんて珍しいな。

 ……顔無狐、顔に狐のお面をつけた少年か青年が神社に現れるのだとか。

 妖怪だとか言われたり、死んだ人間だとも言われてる、巷で広がってる妙に胡散臭(うさんくさ)い話だ。学生たちの間でも広がっている怪談にもならない噂を信じようとしている悪友に、俺は素直に呆れた。


「いや、それにしては学校休学してるヤツ最近増えてきてないかなー、なんて思ったりさ」

「気のせいだろ、どうせ家の事情だろうが」


 また一口食べて、そろそろ俺の方のアイスをそろそろ完食できそうだ。


「でも、気になるのは気になるだろ?」

「……否定はしねぇけど」

「だろ?」


 おバカな信光は俺に指差すつもりでアイスを俺に向けた。

 ぽとりと、残りの食べかけのアイスが地面とキスをしたのを見て絶叫した。

 

「あー! 落ちた!!」

「俺しーらね、今日はもう奢らねえからな」

「そんな殺生なぁ……っ!」


 俺は最後のアイスを食べきり、棒が当たり棒でないことを確認すると悪友にある条件を出す。


「そうだなぁ、交換条件でいいなら行ってやってもいいぜ」


 気まぐれだった。ホラーが好きだから、多少気になった気持ちは少しある。

 ノブはぱぁと顔をわかりやすいほど(ほころ)ばせる。


「話分かるじゃん! さすがホラー愛好家!」

「おうよ、任せとけ。携帯で写真撮ってきてやる」

「よ、負けの名人!」

「それ持ち出すなら明日に要求するのはもっと高額のにするぞコラ」


 信光に思いっきり睨みつける。

 慌てて信光は両手を合掌させて神様に拝む時と一緒のポーズで謝罪してきた。


「ごめんごめん! 明日は自分の金でアイス買うから、それで今日は許してくれよー!」

「たくよぉ……」


 アイスで濡れた唇に親指で拭う。

 ノブからアイスの棒を取って、辺りかはずれか確認する。


「なんだ、外れか……」


 ちらっと片目を開けてこちらを確認してきたので、さらに睨むんでやると頭を下げて天高く両手を挙げるではないか。


「ごめんって! ……条件は?」


 ちらっとこちらの顔色を窺ってくる悪友に鼻で笑う。


「明日チキンカツサンド奢れよ、購買のな」

「お安いもんだぜ、親友」


 俺と信光は拳と拳を合わせる。

 「じゃーな!」と言って手を振りながら帰っていく悪友を尻目(しりめ)に鞄を持ち直す。


 ――この時、俺はこの選択をしたことに後悔することになる。

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