第二一話 アイスキャンディー味の放課後
さくらとコンビニに寄ってアイスを買った。どっちも棒付アイスだ。
あの後、ちょっと不満そうにされたがアイスを持ってからはニコニコとしてやがる。
可愛い奴め。ちくしょう。
「ふふふ、ありがと。たかくん」
「……おう」
さくらの返しに適当に返す。
……一旦、アイスで自分の脳内を冷却しよう。
俺はアイスに噛り付いて、シャリシャリとした触感の甘さに甘える。
夏の時にはさっぱりとした味わいでとても落ち着く。
「なんか、久しぶりだなぁ」
「何が」
「昔、夏になったらこうやってたかくんに食べさせてもらったこと、あったでしょ? 覚えてない?」
「……爺さんに、小遣い貰った時のことか」
「そうそう! いっつもたかくん爆速で食べるんだもん」
「歯で食わねえと溶けるだろうが、買った物はちゃんと全部食べるべきだろ」
さくらの言いたいことはなんとなくわかる。
夏の時、こうやってさくらと一緒に爺さんからもらったお小遣いで食べていたことがある。
喧嘩するまでは小学生の時までの夏の定番だったんだが……懐かしいな。
孝はアイスを半分まで食べ尽くし、ふとぼーっとサイダーアイスを見る。
――俺にはループ能力がある……だからこの出来事が確定になるのかもわからない。
まだ、俺の死蘇印に関してよく推理できているわけじゃない。
一般的にループする作品は昭和の今、そんなに多いわけでもないが映画なり小説なりで多少はある。
爺さんがホラー好きだから、そういう類の本は豊富にあった。
だから俺は、ホラーが好きだ。
サスペンス物も、そういう類は結構爺さんの影響なのかもしれない。
『――ようこそ、繰ヶ咲学校へ』
あの奇妙な男のことも、まだ調べるためには図書館で情報を集めなくては。爺さんの伝手で怪異といった類を調べるためにも、さくらがこれで繰ヶ咲学校へ行かないのならば後で調べられるな。
だが、さくらが繰ヶ咲学校へ行かなかったことを確定になるだろうか。
いいや、俺が今日繰ヶ咲学校で何かで生き残れれば問題ない、か?
「たかくん、どうしたの?」
「……今日は、見染神社に行かねえのか?」
「急にどうしたの?」
「……いいだろ、別に。知り合いに行ったら面白いことがあるって話を聞いたから、お人好しのお前なら行くだろ」
「……たかくんにはバレバレだね、そうだよ」
「なら、」
「けど、今日は行かないかな」
「なんでだ」
「……今日は、一緒に行くって話題は出てたんだけど、たかくんと一緒に帰ることになったから……たかくんを理由にしていけなくなったって言えば、宇佐美ちゃんたちも納得はしてくれそうでしょう?」
「っは、ずりぃ奴」
そういえば、意外にズル賢い所があったなコイツ。
……変わってねえところは、繰々咲学校の時にも確認したっけな。
「たかくんほどじゃないよ……わざと、ああやって私を助けてくれたんでしょ」
「……知らねえ」
「素直じゃないなぁ……変わってないね、たかくんは」
「あ? なんか言ったか?」
「なんでもない」
「……変な奴」
アイスの全部を食べ終えた孝は、さくらの言葉と一緒に飲み込んだ。
これでさくらが今日に繰々咲学校に行かないのなら、それでいい。
今日はぐっすりと眠れるんだな……よかった。
「じゃあ、家まで送ってく」
「え? いいよ、たかくんがそこまでされる理由が、」
「夏の女に飢えた狼の食欲は恐ろしいぞ、お前ならこわーい野郎を捕まえかねないだろうからな」
「……っぷ、ふふふ。そっか、わかった。夜道は気をつけなきゃ、だしねっ」
自分の言葉を冗談にでも受け取った態度に孝は少しだけムッとする。
己の見た目の良さは自覚しているはずだろうに、コイツのこういうところには困ったものだ。
……逆に、そういう手垢に塗れてないって感じる純粋さが消えていないところに少し、ほっとしてしまう自分がいる。胸の中にある心臓を医者の手で探られているみたいな罪悪感を覚えた。
孝は食べ終わったアイスの棒でさくらに向けて言う。
「契約成立だな、んじゃ、送るから絶対に今日は見染神社に行くなよ」
「わかったってば……もう、たかくんは本当に心配性だよね」
「るっせ、アイスの代金要求すんぞ」
「ごめんなさいたかくん、アイス美味しかったよっ」
さくらに前口上を作ってやれば、すぐに乗ってきた。
「……そういうとこも変わってねえのな」
「え? 何?」
「……ん、アイスの棒寄越せ。後で家で捨てとく」
孝は悟られないよう棒付きアイスの棒を加えながらさくらに袋に棒を入れるよう催促する。
「いいの?」
「俺がビニール袋持ってるんだから当たり前だろ。怒られたくないんだろ」
「……うん、ありがと」
さくらはアイスの棒を俺の持ってるビニール袋に入れる。よし、買収したコイツは下手なことを親の前にも言わないだろう。本当にさくらの家の親父さん厳しい人だからな。
見染神社から少し離れたさくらの家である屋敷は相変わらずのでかさだ。
にこやかに手を振りながら、さくらは俺に向かって「またね、たかくん!」と言って去って行った。
さくらが去ったのを確認して、思いっきりガッツポーズする。
「……よし」
これでさくらが問題なく見染神社に行かずに繰々咲学校で死ぬのを潰せた。
彼女が死なないと思ったら、安堵感で心が満たされた。
……また、俺の目の前で死なれたら困るからな。ただ、それだけだ。
「さて、家に帰るか」
孝はコンビニの駐車場を後にして、一人帰路へと就いた。




