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第一九話 小学以来の些細な会話

 夏の青空が、燦々(さんさん)と肌に(こも)った熱を与えてくる太陽を無視して歩幅を合わせながら下校する。


「……」

「……」


 コツコツと、さくらの革靴の音を耳にする。

 ああいう流れで無理やり連れてきたのもあるせいか、どうも空気がよくない。

 だが俺にできるのはその程度で、それくらいで。

 さくらが、傷ついてると思ったら体が勝手に動いていた。

 

「……唯之宮」

「な、何? 的場くん」


 さくらは不思議そうに俺の目を見る。

 くそ、久しぶりだから距離感もぐちゃぐちゃだ。

 朝からずっと、俺の反応が可笑しいのはわかっている。

 けど、あの女子共からさくらを助けられたことをよしと無理やりしてしまおう。


「……なんでもねえ」

 

 孝は自分の首に手を当てる。

 ……俺は、嫌われ者でいい。

 さくらを守れるなら、俺はどんなことだってする。

 あの未来を確定させないためにも、俺は俺を犠牲にすると決めたのだから。


『……っ、ふぅ……っ、ひくっ』


 一人、白髪の髪をした少女が頭を過る。

 ……忘れられるわけ、ないのに。

 どうして俺はあの時、さくらを拒否しなかったら。

 少しは、今が違ったんだろうか。


「……的場くん?」


 目の前にいるさくらの目を見る。

 青みが強い翡翠の瞳は、変わっていないことが何よりもの救いなのが心地いい。

 俺はぼそっと呟く。


「……アイス、食うか」

「え? わ、悪いよ」

「俺が食いたいから食う、だから……おこぼれだとでも思って食え。今回だけだ」

「じゃ、じゃあもらわないでおこうかなー? なんて」

「あ? なんでだよ」

「……わかったよ、もう。その反応だったら普通の女の子は怯えちゃうよ? ……たかくん」


 さくらが自然体で微笑んだ。

 昔からの、変わらない笑顔で。俺が大好きな、満面の笑みで。

 孝はぶっきらぼうにさくらの顔を見ずに告げた。


「……お前が怯えなきゃいいだけだろ」

「それってどういう意味、なのかな」

「好きに解釈しろ」


 さくらから視線を逸らして、照れを誤魔化す前に少しだけ歩幅をずらして歩く。

 ……くそ、長年のブランクっつーか、さくらに対してはどうしてもぶっきらぼうになるな。

 昔喧嘩をして口聞かなくなったからな。さくらは、誰にでも好かれようとする奴じゃない。ただ、喧嘩が嫌いなだけだ……さっき、宇佐美や他の女子生徒の口論の時にまだあの時から治ってない癖を見た。

 さくらは怯える時、胸元に左手を胸元に当てる癖がある。昔から、教育が厳しかったのも見たことがある。さくらの父親が厳格なことは、俺も身をもって知っているのだから。

 ……神社の娘って、面倒なのに苦労してるよなホント。


「……語り部屋部ならではの発言だねっ」

「なんでカタベの話がでんだよ」


 さくらはなぜか楽しそうに俺の顔を覗いてくる。

 ……さっきまでの他人行儀はどこに行く風か、昔のように笑う彼女が少しホッとする。


「刻鹿学校で、有名な部活だもん。昔、作家志望者の生徒がよく入部してたけど、大分廃れたって……幽霊部員って聞いたよ?」

「……間違いじゃねえよ、最近あんまり行ってねえし」

「たかくんは、小説家になるんだったよね。純文学、だったっけ?」

「ゲームのシナリオライターだ、ボケ」

「あいたっ」


 俺はさくらの額にデコピンをかましてやった。

 さくらはうぅと呻いて、額を抑えこっちを涙目で睨んでくる。


「……ちょっと間違えただけだもんっ」

「っは、そうかよ」


 拗ねた声を漏らすさくらが、可愛いなんて少し感じてしまって慌てて顔を取り繕う。

 ポーカーフェイス力は、語り部屋部では俺がダントツだと自負している。

 ……だから、さくらが俺の考えていることは幼馴染補正は掛からないはずだ。

 小学5年から今の今まで話してなかったしな。こいつの身の回りは大人が多いから、打ち解け合うのも苦労していたのも何となく頭の隅の記憶にある。

 ……今は、さくらは無理して誰にでも好かれる奴になろうとしている気がする。

 心の奥底を覗いた気になってる発情期野郎共に、慟哭よりも見た目や性格の方に目を向ける奴らになんで優しくしようと思うのか俺は理解に苦しむが、それが彼女の処世術というのもなんとなく察せられる。

 ……語り部屋部のみんなと過ごしていたから、とも言えるかもしれないが。


「バニラアイス、食べたいな」

「いいぞ、別に」


 再度、俺たちはコンビニに向かうために足を進めた。

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