第一八話 三度目の学校にて 4
孝はさくらと別れ、教室に戻ってチャイムが鳴り面倒な授業を過ごした。
気が付けば放課後になり、俺は席から立ち上がる。
「おー、タカ。今日どうするよ」
「俺はもう帰る、用事もあるからな」
「はー? どったの急に」
「用事は用事に決まってんだろ」
俺はノブを軽くいなし、俺はさくらの席へと歩いて行く。
「おい、唯之宮」
「え? 的場くん……どうしたの?」
さくらは目をまん丸に見開いて驚いている。
後ろでノブが顔芸と内心的に絶叫している内容は容易に想像できたが、そこは普通にスルーしてさくらに声をかけた。それを気に食わなさそうに、ツーサイドアップの宇佐美が睨んできた。
「ちょっと的場くん、桜ちゃんはアタシと帰るんだけど」
「あ? 俺は幼馴染だが何か文句あるか? 中学時代に唯之宮とお友達になった宇佐美さんの言葉なんて重くねえなぁ」
「あ、アンタ!!」
宇佐美ありす、中学生の頃からずっとさくらの周りにいたモデルの女子だ。
っは、小悪魔気取りの小動物ちゃんの睨みなんざ怖くねえわ。
爺ちゃんの説教の方が怖ぇし。
さくらは席から立ち上がると、両手をパンと叩いて宇佐美に謝った。
「ごめん! ありすちゃん。お父さんに頼まれごとがあって、今日は一緒に帰れないんだ」
「え? な、なんで」
「残念だったな、宇佐美」
俺はさくらの手首を掴んだ。
「じゃあ、行くぞ唯之宮」
「へ? え!? ――――的場くん!?」
「……っ!!的場ぁあああああああああああ!!」
俺は強引にさくらと一緒に教室から出た。
負け犬の遠吠えと表現するにはぴったりの怒号を吐く宇佐美を無視しながら学校の玄関まで一緒に向かうのであった。
「ま、待って! 待って的場くん!」
「なんのことかわからねえな」
「わ、わざとでしょ? さっきの」
「上位カースト様に下位カーストの下っ端に親以外の理由で近づくわきゃねえだろうが」
「で、でもっ」
……さくらが死んだりしなかったら、ループが無かったら。
こうやって、強引にでも会話なんてなかったかもしれないな。
だから、最初のループの時も、二度目の時も。
俺はやっぱり、さくらを守ろうとする時くらいしか、あまり話せないのがもどかしくなる。
だとしても、そんな自分の気持ちを態度に出さないように努めた。
孝は桜の手を引きながら、強制的に学校の玄関の方までやって来た。
桜の言葉に孝は彼女に振り返る。
「どうしたの? 今日、なんか変だよ」
「……悪ぃかよ、そんなにお前の腕引くの」
思わず、拗ねた声が出てしまう。
まぁ、はっきりいって強引すぎたのはわかってる。
だが、これも繰々咲学校にさくらを死なせないための手段の一つ。
上位カースト側の人間が、下位カーストの人間が近づくなら、親を理由にして他人に見せて嫌われる行為をすれば、さくらは傷つかない。俺が傷つけばいいだけだ。
慣れたことだからこそ、俺にはその程度の傷なんていちいち日和る理由にはならない。
だから、上位カーストになった桜の言葉に、いちいち傷つく俺じゃない。
「そういう、わけじゃ……」
「じゃあ、なんだよ。家に帰んのに都合がいいなら、俺のせいにしとけばいいだろ」
「……的場、くん」
……昔よりも、直接言わなくちゃダメなのはわかってる。
だから、これはコイツを繰々咲学校に行かせないためのいいわけでいい。俺はさくらから手を離して、げた箱から外靴を取り出し、自分の履き慣れたスニーカーに履き替える。
「……帰んぞ」
「……う、うん」
孝は立ち上がるとさくらは瞳に戸惑いを宿しながらも、少し気恥ずかしそうに眉を一瞬だけ細めてから外靴を履き始める。
桜の表情は、孝は知らないまま。孝の表情はさくらに知られたまま。
夏の日差しが照る中、二人は一緒に下校することになった。




