第一七話 三度目の学校にて 3
俺はさくらが屋上に上がったのを確認して、扉の前で聞き耳を立てる。
「ねえ、桜ちゃん! 一緒に行こうよ、肝試しー!」
「肝試し……?」
「そうそう! 夏なら定番でしょ? 廃墟巡りとか、やっぱ学生だからできることじゃん」
さくらに楽しそうに話す女子生徒たちは肝試しの話で盛り上がっていた。
……そうか、そういう経緯でさくらはあの学校に行くことになったのか。
桜と会話をしている女子生徒たちの顔面を殴ってやろうかと思ったが、俺はある案が頭で閃いた。
扉を開けて、俺は屋上へと一歩踏み出す。
「あー、腹減ったぁ」
俺は自分で持ってきた弁当を片手に、首の後ろに手を当てながら女子生徒たちの会話を俺へと流れるように割り込んだ。
俺はさくらたちを通り過ぎ、背を向ける。
さくらのとりまきは俺を見て、陰口を始めた。
「うわ、的場……」
「しー、ダメだよ! アイツ喧嘩ばっかしてる不良だよ!?」
「しかも語り部屋部って部活の幽霊部員してるらしいよ? 絶対、部員の人たちも殴って回ってるって!」
「語り部屋部の部員の人たちにとっても迷惑だよね! ああいうヤツこそ、死んでほしいって話!」
「…………ね、ねえ、みんな」
桜は眉をハの字にして、とりまきたちに声をかける。
一人のツインテールの女子が、しーっと人差し指を立てる。
俺はそのタイミングで、弁当箱を床に置いた。
「桜ちゃん、静かに! だから、ああいうヤツに話しかけたり関わっちゃダメだよ!」
「そうそう! 関わらないでおこ! 不良菌が移っちゃう!」
「聞こえてんぞ、内面ブス共」
「はぁ!? 何!? 喧嘩撃ってるわけ!?」
さくらのとりまきの一人であるツインテールの女子は怒号を向ける。
俺は振り返り、ハッと笑い飛ばしてやった。
「俺が不良は否定しねえよ、けどな。俺が来たくらいで陰口始めるんじゃなく、無視して去るのが本来正しい対応だろ? 大人の対応も覚えてねえバブチャンなんでちゅかぁ?」
「は!? ……ふっざけんな!!」
「ちょ、理香!?」
「アンタみたいな人が、桜ちゃんと幼馴染だなんて認めてないからな!? 不良は黙ってママのおっぱい吸ってろっつーの!!」
「ちょ、ちょっと理香……! やめなって!」
俺は嘲笑しながら、理香と呼ばれた女を後ろにあるフェンスを乱暴に掴んだ。
「キャ!!」
「っは、じゃあなんだ? 自分の生まれを直して来いって?」
「っ、そうだよ! 底辺男!! アンタなんて、桜ちゃんの近くに立つことさえ、おこがましいんだ!!」
「――――なら、大好きな友達にあんな顔させてる奴の方が間違ってねえのか? ああ?」
「え……?」
桜の顔をじっと見る理香とかいう女子は、驚きを示す。
俺からはどんな顔か見えてはいないけれど、アイツの性格を熟知している俺には、それくらい余裕で見当がつく。
俺は理香に嘲笑して耳元で囁いた。
「お前みたいに、相手の気持ちや事情も知らねえくせにペラペラわかったように語って罵る奴ほど、友達の気持ちわかってねえんだよ。わかったか?」
「うるさ――――――」
俺はツインテール女子に顔面を殴ろうとすると、さくらが俺の手を掴んで制止した。
「……なんだ? 人気者さん」
「確かに、その子は陰口も言ったけど、殴ろうとするのは違うと思うよ。的場君」
「……桜ちゃ、」
「じゃあ、なんだ? 友達でも、言っていい言葉と言っちゃダメな言葉の違いもわかってねえ奴が隣にいられて、結局耐えられなかっただけだろ」
「どう受け取るのは君の自由、だから手をどけて」
「……そういうことにしといてやるよ」
本当に、頑固な女だよな。
俺はツインテール女子から離れると、他のとりまきが大丈夫? と声をかける。
「もう、行こ? 桜ちゃん」
「……私は、ちょっと的場君と話してから行くよ。みんなは先に教室に戻ってて」
「で、でも」
「いいから、戻って? 別に喧嘩するわけじゃないから大丈夫だよ」
「わ、わかった」
「もし殴られたら言ってね! 先生にチクってやるから!」
「あはは、また後で」
さくらは女子生徒たちに手を振ると、完全にいなくなったのを確認するために階段を確認して、人気がいないと、感じてから彼女は胸を撫で下ろした。
そして、俺の方へとゆっくりと申し訳なさそうに振り返る。
「たかくん、ごめんね。私の代わりに嫌われ役買ってくれて」
「知らねえ、俺不良だから賢い言い方とかしないでもらっていいか?」
「……あはは、たかくんすっかり悪者役に慣れちゃったんだね」
くすり、と口元に手を当てて笑うさくらに、少しほだされそうになる。
って、いけねえいけねえ。調子に乗るなよ、俺よ。
俺は顔を見せないために、首の後ろに手を組んで幼馴染に背を向ける。
「っていうか、俺と話してていいのか? あんまり遅いと、あの女子たちが心配すんだろ」
「……朝の時、私のこと待っててくれてたのに?」
「………………なんのことかわかんねえこといわないでくんねえか?」
さくらは俺の顔を覗き込むように腰の後ろに手を回して、じーっと見てくる。
なんとなくいたたまれなくて俺は頭を掻いてから床に座って、弁当を広げることにした。
「そういうことにしておいてあげるね」
「……勝手にしろ、俺はそろそろ食べる」
「じゃあ、一緒に食べようよ」
「はぁ? やだ」
「やだを拒否します」
俺は弁当箱を開けて、隣に座ろうとして来る人気者を拒否した。
この人気者、本当に俺の言うことを聞かないのである。
「拒否することを拒否する」
「決定事項なので聞きません」
「その決定事項を拒否する」
「幼馴染権限なので拒否は認可されません」
「……ったくよぉ、ほれ玉子焼き」
「え? いいの?」
俺は箸で掴んだ玉子焼きをさくらに向ける。
こいつ頑固なんだよなぁ、なんで嫌になれねえのかわかんねぇ。
面倒な女が好きってことか? 軽い女が好きってのも、問題はある気がするけどさぁ。
ま、いっか。
「いいから、食え。これ以上の譲歩はしねえ」
「うん! ありがとう!!」
満面の笑みでさくらはあーんと、口を開ける。
俺は数秒硬直して、舌打ちをしたくなったが、的確にさくらの口の中に入れるためバスケを想像する。
さくらの口の中がゴールなら、俺は3Pシュートを決めてやればいい。
ひょい、っと俺はさくらの口の中に玉子焼きを投げ込む。
幼馴染様は、口から玉子焼きを落とさずにはむ、っと口の中に玉子焼きの甘みを噛みしめている。
うむ、上手くいったようだ。
「~~~~~! やっぱり、たかくんの玉子焼きあまぁい」
「そうかよ、よかったな」
ご満悦のようで何よりです。なんて、絶対言ってやらん。
俺とさくらはチャイムが鳴るまで、一緒に昼食を味わうことにした。




