第一五話 三度目の学校にて 1
暑苦しい熱気を感じる朝の目覚めに孝は重たい瞼を無理無理こじ開ける。
「……気持ち悪いな」
三度目のループのせいか、シャツはベッタリと汗が纏わりついていた。
シャツに軽く指で触れても、シャツのあちこちが濡れていた。
時間を見ればまだ5時で、朝風呂を入るなら今しかないな、と冷静に思考する。
しかし、孝にとってはそれよりも再度確認すべき優先事項が頭をよぎる。
「やっぱり、消えてるわけないか」
孝は自分の手首をもう一度確認する。
腕の黒い線は消えてることはなく、やはりどう見ても俺の視界に映り込んでいる。
どこからどう見ても、リストカットの痕、なんてするには刺青のようにしか見えない死蘇印に関しては悪夢の一つだと捉えておきたかったが、どうやら現実は許してくれるわけがないようだ。
孝はシャワーを済ませてから、朝食を取っておくことにした。
♀ ♂
「ふぁ……」
いつもと違って、シャワーを浴びたどころか朝食も済ませたせいかどうも眠気が思考しようとする脳内に侵食してあくびを誘う。
しかも、学校に登校するのも遅刻はしないが基本的に遅い方の自分としては、ループのこともあり気怠さが身体に残っている。
さくらが友達から頼まれたと前のループの時に言っていたのだ。
なら、そのタイミングを狙っていかないと、さくらはまた繰ヶ咲学校に来てしまう。それを避けるためにも、できる限り、マドンナであるさくらと早めにエンカウントをせねば。
「……的場くん?」
「…………よう」
さくらが正面玄関の扉を開けて、俺が自分の靴箱近くのたたきに座っている俺を見て、不思議そうな顔を浮かべた。
違和感を持たれないよう、スニーカーの靴紐に触れているのを見たさくらは俺が声をかけてきたことに特別表情は変えず、ピクリと肩を揺らした。
……やっぱり、昔よりもポーカーフェイスが得意になったんだな。
まあ、肩を揺らすくらいの動揺があってくれた方が俺としてはやりやすい。
学校の人気者だから、無視ができないであろうさくらはさっと、靴を脱いで自分の靴箱へと向かった。
靴箱の靴にまだ履き替えずに、さくらは俺に聞いてくる。
「珍しいね、的場くんがはやく学校に来るの」
「そうか? たまにはいいだろ」
「…………そっか」
さくらはそういうと、靴を上履きから取り出して履き替える。
足のつま先まで入ったことを確認するためか、靴の爪先を床にトントン、と音を立てて確認してから俺の方へと振り向く。
「的場くん」
「…………なんだよ」
「ありがとう」
「は? ……おお」
さくらが唐突にお礼を言ってくるものだからなんだと思ったが、昔みたいにすぐ泣き出すような真似をしないと心に決めているのか、眉をハの字にさせて笑った。
軽くてを横に振って、誤魔化すように笑うさくら。
俺は、何も聞かずただ言葉で頷いた。
「あはは、それだけ。それだけだよ? ごめんね、ちょっと変だね……それじゃ、また後でね」
「…………おう」
少しでもいい、アイツが生き残る世界線に行けるなら俺はなんだってする。
たったひとりだけ、幸福であってほしいと心から願った世界でたった一人だけの相手なのだから。そのために俺がどれだけ死ぬことになったとしても、諦めるつもりはない。
孝は顔無狐に出会って自分がどうしようもない結末に至ることを、孝は知るよしもなかった。
ただ、今の孝の中にはどう情報収集するか、その一点だった。




