第一〇話 校舎にて一緒に食事
まず先に、俺は隣の教室へと向かった。
扉を開けて、目に広がってくるのは無人で孤独感さえ感じさせる月明かりが差し込む教室だった。
「……いない、か」
一瞬、ほう、と息を吐いて安堵した。今回は来なかったのかもしれないと言う期待と、彼女が殺されていないかもしれないという願いが含んだ溜息だった。
「…………学校で、声かけておけばよかったか」
顔無狐に写真を撮ろうとした時にカメラの画面に見た時刻的に、今回は早かった方だと記憶している。だから、もしかしたら桜はまだこの学校に来ていないのだと願いたい。
俺は教室から去ろうと廊下に戻ろうとすると後ろから何か物音がした。
慌てて振り返ると、そこには彼女がいた。
「い、たたたた……」
「――――――唯之宮!?」
もしかして、この時間にコイツが来ていたのか!?
だったら、やっぱり桜は……唯之宮は、死ぬ……?
俺も、あの化け物に、殺されて。
また、ループする……? そんなの、ごめんだ。
「あれ? どうしてたかくんがここに……」
「それよりなんでお前がここにいるんだよ」
俺は言いながら、さくらに手を差し伸べる。
女子にいつまでもこんなボロい校舎の床に座らせるのは気が引けただけだ。
さくらは、ありがとう、と言って俺の手を掴み立ち上がる。
完全に立ち上がったのを見計らって、手を離した。
「え、えっと友達の噂を聞いて、行ってきて? って、頼まれたから……」
「ソイツらに行かせればいいだろ」
「……え、えへへ。ちょっと気になっちゃったから、ついでに? みたいな、感じかな」
少し困ったように苦笑する桜にわざと大きな溜息を零す。
「……はぁ」
「呆れた?」
「昔っからお人よしだよな、お前」
「……ごめんね。偽善者、みたい?」
「他のヤツに言われたのか」
「……どうだろうね、びみょー、かな」
俺はじっとさくらの目を見ると、馬鹿なコイツは困ったように視線を逸らす。
その言い回しをする時のお前は、必ず決まって落ち込んでる時の言い方だったよな。
「偽善とか偽悪とかなんて、そういうことに拘りてえ奴がその言葉使うだけだなんだぞ。媚びてるとかのもそうだし」
「……別に、私が誰かに媚びてるって言われたことがあるみたいな言い方、しないでくれるかな」
「じゃあお前、自分のことそう思ってんのか」
「そうじゃない、けど」
髪をいじって、困ったように目を伏せる。
……はぁ、女ってめんどくせー生き物だよな。
俺はわざと桜にデコピンする。
「いったぁ!! 何するの!? たかくん!」
「なら、馬鹿面晒して普段通りにしてろバーカ。お前はそれくらいでちょうどいいんだよ」
「……で、でも女の子の頭も、デリケートなんだよ?」
「生理の方がデリケートだろうがよ、ちゃんと周期確認してんのか? マドンナ様」
「そ、それくらいしてるもん! デリカシーないなぁ!」
俺のデコピンに涙目になってるさくらが、かわいくて、詫びに頭を撫でてたまらなくなるがズボンのポケットに手を突っ込むことで堪えることにした。
さくらが昔と同じ言い方をしてきて、少し嬉しくなる。
しかし、俺は嫌われ者だ。
だから、さくらに嫌味っぽく言って笑ってやった。
「あっそ、マドンナ様はいい生き方しろよ。こんなところからとっとと出て、最高にカッコいい男捕まえなくちゃ割に合わねえだろ」
「なんで、そんな別れの言葉みたいな言い回しするの?」
「別れじゃねえだろ、別に」
「……なんとなく、だよ」
ぐぅうううううううううう。
「あっ……」
「ふーん、お腹が腹空いて寂しいって言ってんぞ」
「……食べ物、持ってきてないし」
「こんなこともあろうかと、コンビニで買ってきておいてよかったわ」
俺は鞄の中身を適当に広げる。
さくらに気づかれないようさくらも俺も好きな色々と食べれるラインナップをチョイスした食べ物を並べていくとぱぁっと笑顔になっているのが背を向けているのになんとなくわかった。
昔と、変わっていなければ……にはなっちまうけど。
「これ、食べていいの?」
「お前が食わねえ分は俺が食う。隣であんなでっかい腹の虫鳴らされちまったらたまんねえしな」
「…………そっか」
そうして俺とさくらは椅子に座りながら一緒に食事を取ることにした。




