時を戻せるのなら
誰にだってあの日にあの頃に戻りたいって思うことはある。
その瞬間でもしかしたら
人生が180度違ったかもしれない。
そんな可能性の話をしたって仕方がないのだが、
朝から満員電車に揺られるサラリーマンだって
子育てに没頭する主婦だって
もしかしたら
お菓子を買って欲しくてねだっている子どもだって
日向ぼっこしている猫だって
あの時、あの瞬間に戻りたいって思っているかもしれない。
いつからだろうか。
こんな自分に自信がなくなったのは。
日本の景気が悪かったから?
多分絶対そんなことない。
外的要因なんてあってもほんの少し。
きっと自分自身が後悔してるからこそ
人はあの瞬間に自分を再投影してみたくなるんだと思う。
2018年12月3日
平成最後の師走を迎え、
徐々に慌ただしくなってきた朝。
マンションの下の子どもの泣き声で目が覚めた。
やたらと朝から元気に泣いている。
朝といっても10時は過ぎている。
おうちに帰りたくないのか、はたまたその逆か。
ともかく目覚めずにはいられないくらいに
泣いている子どもを窓の外から見下ろしながら
煙草に火をつけた。
私は27歳無職だ。
10月に会社を辞めて求職活動中だ。
辞めた理由由はただ一つ。嫌だったから。
こんなゆとり全開の私を一人で育て上げたのが
母親だ。
もう27歳だ。反抗心などは一切ない。
ただただ感謝し、心から尊敬している。
いつか、いつか恩返しをしてあげれたらと思う。
煙草を吸い終えると
テーブルのメモ書きに目がいった。
【13時頃に帰ります。就活頑張って!】
心に何かがチクりと刺さった。
何かがなんて分かっていた。
それは申し訳なさだったりありがたみだったり
決して刺さっても心地の良いものではなかった。
「今日は何もねぇのに」
そうポツリと呟いてスマホを開いた。
正直焦りはある。不安で眠れない時もある。
けどそれをコントロールしているつもりだ。
でもきっとそれは他の人から見たら
怠惰だったりするのかもしれない。
周りは結婚して子どもを持った奴もいれば
一人暮らしだってしている奴もいる。
そんなことに引け目を感じ、
自分でもわかるくらいの気持ちの切り替えの下手さが焦りになり、尚のこと自分を日々追い詰めている。
スマホをいじっているとふとLINEが届いた。
【選考結果のお知らせ】
先日ご応募いただきました求人につきまして
選考の結果、大変残念ながら今回は、
次の選考にお進み頂けない結果となりました。
その先は読む気も起きない。
今はなんでもLINEだ。
ふと溜息をつくとこんな言葉が息と一緒に漏れた。
「こんなはずじゃなかったんだけどな」
私は人の目を気にせずにはいられない性格だ。
今この状況を誰がどう思うか。
隣のおばさんに見られたらどうしよう。
そんなことも気にしないでいられたらと思うような
気の小さな性格だ。
そんな性格だからか
不安感や焦燥感といった
誰しも付き合ってる感情を私は特に深い付き合いだと思う。
そんな感情と同じくらいに
深い付き合いをしているのが飼い猫の『ヨミ』。
もう17,8年になる立派なお婆ちゃん黒猫だ。
当時飼っていた猫が病気で死に、
霊園に埋葬しに行った時に里親募集されてちた猫だ。
これは母親から聞いた話なのだが、
当時の私はこの猫が死んだ猫の姿形が似ていた為、
蘇りだと言って泣きじゃくり
その場を離れなかったらしい。
そこから我が家に迎えられ、
今では私の辛い時も悲しい時も嬉しい時も
全てを一番近くで見守ってきた存在だ。
ヨミを見ていると少しばかり
張り詰めていた自分だけが抱える不安感や焦燥感を
紛らわすことが出来る。
本当に私は弱い人間だ。