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無能の護衛  作者: にひけそい
9/13

第9話 逃走2


 「ご同行願えますか?黒崎響殿」


 朝、いつも通りに登校しようとした響は花音の家の前で黒服の集団に取り囲まれていた。


 「一体どういったご用件で?」

 

 響が訪ねると、彼を取り囲んでいた男性の一人が苛立ったように口を開く。


 「余計なことを知る必要はない」


 グロックの冷たい感触を背中に押し付けられる。

 響はちらりと玄関の方を見てから、両手を挙げる。


 「わかったよ。早くつれてけ」


 

 響が連れてこられたのはかつての第二次世界大戦時代に日本軍が魔法研究を行っていた研究所、旧第二魔法研究所だった。

 既に廃棄された研究所ではあるものの、115年前に作られた機材は既に鋳型などが残ってないものも多く、データの引継ぎができないという理由から、まだ秘密裏に人が出入りしているそこは、足元が照らせる程度のライトは設置されており、床の埃もきれいに掃除されている。


 「旧研究所とはずいぶんと穏やかじゃないじゃないの」


 響の軽口に付き合うつもりは無いようで、周りの男性らは何も言わない。

 さらに街中ではなくなったためか、拳銃もハンドガンから、アサルトなどのフルオートタイプに変えられており、マガジンに付いた特殊アタッチメントも魔法使い専用に変わっている。

 天井から電気コードが垂れていたり、壁の塗装がはがれていたりなど、廃棄されたように偽装された通路の奥まで来ると、ケージ型のエレベーターがある。

 立ち入り禁止と書かれたテープロープには切って繋いだ後が巧妙に隠されており、魔法をかけるときれいに分かれた。

 故障しているようにしか見えなかったが、黒服の一人がエメラルドカラーのカードを電子端末に翳すと、それは低温を奏でながら起動して、地下へと動き出した。

 その様子を見て、表情にこそ出さないが、響は小さくはない衝撃を受けた。

 当然ながら響はここが秘密裏に使用されていることぐらいは知っている。

 それがどのようなものなのかも、どこで行われているかも知っていた。

 そしてそれは地下などではなく、研究所の北棟だったはずだ。

 いや、そもそもここには地下など存在しない。


 (『カラーシリーズ』にも知らされていない地下研究所とはね・・・)


 響の胸中に言い知れぬ不安が募り始める。

 

 (それに)


 響が隣に立つ黒服のアサルトライフルに目をやる。

 グリップの位置に刻まれているマーク、獅子の頭に絡みついた蛇、それはその武器がロシアの銃会社、『ゴルゴ―』製であることを示している。


 (おれや花音がらみであれば、中国でなければおかしい・・・それにロシアの『ゴルゴ―』、あそこは第三次世界大戦時に潰れたはずだ。40年前に制作された武器が現存しているとも考えにくい。


 そんなことを考えていると、小さな衝撃と共にケージが停止する。

 幾重にも重ねられた扉が開いた先にはあんな研究所の下にあるとは思えないほど、きれいで最新の研究機材が揃えられた研究室があった。


 「嘘だろ?」


 思わず呟きがこぼれる。

 

 「早く行け」


 背中を押されてケージから押し出されると、響の目の前に一人の男性が歩いてきた。

 白衣に身を包み、くすんだ緑色の髪。

 疲れたような顔には無精ひげが生えており、整った顔ではあるが、女性受けはよくなさそうであった。


 「おはよう、黒崎響君・・・僕の名前はアルトゥール・ゴルゴ―、乱暴な奴らを送り込んで悪かったね」

 「ゴルゴ―、だと?」

 「ああ、君の思うゴルゴ―であっているよ。僕はペトロリウス・ゴルゴー、武器会社『ゴルゴ―』12代目当主の息子だ」

 「息子がいたのか・・・」

 「ああ、まあね。『カミカゼ』の時点ではまだ生まれてすらいなかったし、生まれた後も『リスト』に登録はされなかったから、知らなくても仕方ない」


 ペトロリウス・ゴルゴ―、ロシア軍お抱えの武器商人であった『ゴルゴ―』の当主。

 彼はロシアの日本侵攻作戦時、武器の支給と、新たな支店を立てる土地の下見をしている最中、『カミカゼ』に巻き込まれて、死体すら残さずにこの世から消え去った。

 当主の血筋が途絶えたために、『ゴルゴ―』の全てはそのまま軍部へと接収されたとのことだったが。


 「ならば、どうしてこんなことをしている。こんな地下ではなく、ロシアに戻って『ゴルゴ―』の13代目当主として名乗り出ればいい」

 「馬鹿を言わないでくれ、僕はあんな敗北主義国に戻るつもりはない」

 「何?」

 「戦争に負け、牙をもがれた国に戻るつもりはないと言っている。それに新たな受け入れ先も見つかったしね」

 「新たな受け入れ先?」

 「ふふ、ペトロリウスは僕が言うのもなんだが、ろくでもない男でね。女も金で雇ったんだよ」

 

 響の質問とは全く関係のない話をしだすアルトゥール。


 「当然、会社ごと接収されたせいで金もなくなってね、僕もストリートに捨てられたんだ。その後は酷いものさ、男娼屋に拾われた僕は、顔がよかったからね。抱きたくもない不細工どもを抱かされて、店の奴らは奴隷のように僕を扱う、わかるか?この苦しみが」

 

 その眼には狂気という名の黒い炎が宿っている。


 「そんな僕はある時、脱走した。店に時々やってくる女性から、『魔法』の使い方を教えてもらってね、魔法の才能はあったみたいで、抜け出すのは容易だったよ・・・その後は、薄いワイシャツ一枚で極寒のシベリアを渡り、中国の密輸船に乗って日本まで来たんだ」


 話す口調はあくまでも冷静、ただ、彼が正気でないことはわかる。

 

 「密輸船は日本軍に捕まったんだけど、その時僕は・・・」

 「ストップだ、トゥーラ。これ以上話せば、貴様を殺す」

 「おっと、すまないね」


 武器を突きつけられて、アルトゥールは口を閉ざした

 その眼から炎は既に消えており、表情も疲れたようなものに戻っている。


 「無駄話をしすぎたね。本題に移ろう・・・現在、君は犯罪者なんだが、その自覚はあるかい?」

 「何?」

 「君は捕らえた捕虜を殺害した、これは立派な国際条約違反だ」

 「は?・・・そういうことか」


 言われて、ようやく響は思い出す。

 どうやら、あの時点からこれは計画されていたらしい。


 「さて、そんな君に提案だ。このまま、おとなしく死ぬのであれば、君の社会的立場を守り、一般人として死なせてあげよう。抵抗するのであれば、君はこの平和を乱す『悪』として、処刑される。残された妹ちゃんも人間らしい生活はできないかもね」

 「・・・一つだけ聞かせてくれない?」

 「なんだい?」

 「これは最初から、俺を・・・『カミカゼ』の張本人、黒崎玄三の孫である俺を殺すためのものだったのか?」

 

 私怨で行われたものか?と、言葉には出さないが、そのニュアンスは伝わったようで、アルトゥールは口を三日月の形にすると、響の頬を思い切りぶん殴り、激高した。


 「ああ!そうだよ!あのクソジジイさえいなければさあ、こんなみじめな生活を送らなくても済んだんだ!僕を拾ってくれたあの人から『カミカゼ』の情報をもらった時から、ずっとずっとずっと、あのジジイとその家族を殺してやりたかったさ!・・・ただ、これでも僕は義理に固い男でね・・・あの方は黒崎の一族がいなくなってしまうのを望まなかったから、煮えくりかえる気持ちを抑えて、あの方に尽くしてきたんだ。そして・・・ついに僕の献身は報われた・・・あの方から、一ノ宮花音を殺せという指令が下り、その護衛にお前がついた。これならば、多少の不幸があっても作戦行動中の事故で済まされる」

 「なるほどね、花音が狙われているはずなのに、直接的な攻撃が俺にばかり向いていた理由が分かったよ」


 思い返せば、あの薬物によるドーピングをしていた強化人間も、その後のドールズの暴走も花音ではなく、響を狙ってきていた。

 まさか、それが私怨によるものとは予想もしていなかったが。


 「さて、話も終わったことだし、選択の時だ。黒崎響!」


 全方位を囲まれ、その全員が戦闘用の武装を持つ魔法使い。

 対する響は丸腰。

 どれほどの魔法使いであろうとも、逃げることなど不可能。

 それを理解したうえで響は魔法を発動した。


::::::::::::


 それは一瞬だった。

 響の周囲に無数の光球が浮かび上がったかと思うと、異変に気付いた兵士たちが引き金を引くより早く、光球から死の閃光が放たれた。

 次の瞬間、10以上の兵士は命を落とし、命を落とさなかったものも持っている武器を破壊されて、無力化される。

 だが、それでも全員の完全な無力化はできない。

 響は姿勢を低くしながら『高速移動スピード』と、自分に向かってくる弾丸の移動ベクトルを打ち消す『遠距離防御シルドオブマギア』を起動、弾丸の嵐の中を駆け抜けた。

 響が走り去った直後、響の魔法により、腹部を撃ち抜かれたアルトゥールは怒りの形相で腰の通信機に怒鳴りつける。

 

 「ターゲットが逃走した!ハンターは全員出撃、研究所内の『ハウンド』も全員出撃だ!」

 「トゥーラ、こちらに。あなたにはまだ生きてもらう」

 「ああ、わかっているさ」


 アルトゥールは腹に風穴が空いているにもかかわらず、平然と歩いて医務室に向かう。

 彼は服こそ、血が滲んではいるもののそれ以上の流血はない。

 高度な魔法による止血と内蔵の位置の固定、痛みで遠のきそうになる意識を無理やり引き留め、魔法を使い続ける彼の精神には常人ならば発狂してしまいそうなほどの負荷がかかっている。

 だが、それでも彼は楽しそうに笑って、呟いた。


 「待っていろよ・・・響、最期に手を下すのは私だ」



 研究所内を走る。

 ベクトル停止による防御はほとんどの弾丸を防いだが、流石に魔法で強化された弾丸を止めることはできなかった。

 現在、響の脇腹には鉛玉が一つ埋まっており、魔法で止血をしてはいるものの走るたびに魔法が崩れかけ、激痛が走る。

 

 「いたぞ!」

 「くそ!」

 

 背後から声が聞こえた瞬間、後ろを見ることなく魔法を発動する。

 結果を確認することはせずに角を曲がって、適当な部屋に駆け込む。

 こういう広い研究所は、部屋の間取りまでは正確に把握していないはず、希望的観測であることはわかっていたが、一度ちゃんと治療しなければ本当に死んでしまう。

 せめてもの抵抗だと、扉を元素変換で崩して、壁と一体化させる。

 その後、響は無機質な壁に背中を預けると、腹に手をかざして再度『元素変換』を発動、腹に埋まった弾丸を光に変化させて、消失させた。

 腹筋で無理矢理出血を抑えた響が周囲を見渡してみれば、そこは物置部屋、とでも言うべきか。

 研究の資料であったり、使われなくなった機材などが置かれており、本来の部屋の面積の半分以上が埋まっている。

 適当な機材、金属を多く使われている物をいくつか壊して丁度いい大きさの金属板を取り出すと響は、いつも持ち歩いているライターでそれを加熱、銃弾で撃たれた傷口を焼き潰した。

 声にならない声が食いしばった歯の間から漏れる。

 後処理が面倒になるが、出血を止めるにはこの手が一番早い。

 荒い息を吐きながら立ち上がった響は、壁に耳を押し当て、周囲に敵がいないことを確認してから、扉を元に戻して通路に出る。

 現状、響には2つの選択肢がある。

 一つは元来た道を戻り、来るときに使ったケージを使う。

 もう一つは他のケージがある事を期待して、どれだけ広いかもわからない研究所を走り回る。

 どちらにしても現実味が薄い、であるならば、ゴールがあるとわかる選択肢を響は選ぶ。

 覚悟を決めて、来た道を響が戻り始めた瞬間、背後から視線を感じて振り返る。

 だが、そこには誰の姿も無い。

 その次の瞬間、響の耳に風切り音が届く。

 咄嗟に前方に転がれば、頭上を何かが通り過ぎる音が聞こえる。

 転がった勢いのまま、起き上がり、視線をやるが、やはりそこには誰もいない。

 響は目を閉じて、周囲の音と、肌を伝う空気の流れに意識を集中させる。

 そして、響は感じた。

 背後から彼の頭部を狙って放たれた何かを。

 響はそれをかわしつつ、何もない空間に閃光を放つ。

 すると、苦しそうな声が聞こえ、数秒も経たないうちに突然、190センチはあろうかという大男が現れた。

 響の魔法は男性の肺を貫いていたようで、彼は苦しそうな表情をしている。

 響がそんな彼の首を蹴りでへし折って絶命させると、鈍い音と共に、男の体は倒れ伏した。


 (まさか、『ハウンド』が完成している?)


 『ハウンド』、光学迷彩魔法以外の魔法を一切使えない上に、寿命もほんの30年ほどしか生きられない代わりに、戦闘時ですら、光学迷彩魔法を続けられると言われている実験部隊。

 光学迷彩魔法は光を屈折させて、周囲の目を欺く魔法だが、止まっているものにかけるならまだしも動く物にそれを掛け続けるのは容易ではない。

 すぐにボロがでる上に、光学迷彩魔法に使われる脳のキャパシティが大き過ぎて他の魔法すら使えなくなるという欠点がある。

 それを改善して、戦闘中にも常に光学迷彩魔法を使い続けられるようにする。

 その目的のために造られようとしていたのが、『ハウンド』という部隊だ。

 ただ、それは余りにも大きすぎる副作用や寿命の問題から20年前に非人道的だとの事で凍結させられた研究のはずだった。

 しかし、今襲いかかって来たのはどうみても、『ハウンド』の兵士としか思えない。

 きな臭さを覚え始めた響は、微かに聞こえる風切り音と衣擦れの音から、咄嗟にその場を飛び退いた。

 その直後、背後から強い衝撃を加えられ、吹き飛ばされる。


 (油断した)


 『ハウンド』が完成しているとすれば、当然、一人な筈がない。

 立ち上がった響は心の中で自分を叱りつけながらも、周囲の音に意識を集中させる。

 先程、確かに響の背後には一人いたはずだ。

 にも関わらず、飛び退いた先で攻撃を食らった。

 つまり、敵の数は最低でも二人以上。

 音と空気の流れ、その二つから響は自分の頭部を狙う攻撃と足元を狙う攻撃が来ていると判断、敢えて一歩前に出ながら、彼は自らの身体が水平になるように跳躍、その二つを回避した。

 そして、攻撃をすれば、必然的に大きな音がたつ。

 二人の敵の位置を把握した響は、敵がいるであろう位置に向かって蹴りを放つ。

 当然、地に足も着かず、適当に放った蹴りは大した威力も出ずに相手の何処かにぶつかっただけだが、光学迷彩を破るだけならそれで十分だ。

 少しだけ、歪んだ景色は綺麗に人型になっており、響は相手の身体にぶつけた足に力を込めて、体を水平から足が高くなるようにする。

 そして、地面に掌を着くと倒立のような体制から直接の相手の頭部に足を絡めて、首の骨を折った。

 そのまま、腕の力と移動魔法を併用して、飛び上がると、身体を捻りながら、空中で体勢を整えてもう一人の敵がいるであろう位置に蹴りを放つ。

 帰って来たのは固い感触、そして、浮かび上がった人型はどうやら、響の蹴りを腕でガードしているようだ。

 彼が響の足を掴んで得意げに笑った瞬間、響の放った先行が彼の胸を貫く。

 腕の力が緩み、足を解放されると響はそのまま男性を足場にして、バク転、距離を取りながらもう一発、今度は頭に向かって閃光を放ち、絶命させた。

 そして、響が立ち上がりながら、身体を横に倒し、蹴りを放てば、鈍い音と共に、一人の男性が何もない空間から現れると、そのまま倒れた。

 意識を失ったその男性の腰から、ハンドガンとコンバットナイフを取り出し、頭に一発銃弾を撃ち込む。

 そこで、周囲の気配は無くなった。

 響が疲れたように歩き出すと、前方から足音、響が構えた瞬間、数人の兵士が顔を出して、弾幕が響を襲う。

 響が『遠距離防御シルドオブマギア』で防ぎつつ、5つの光球を作り出すと、そこから閃光が放たれ、兵士達は全員が無力化される。

 一瞬で死んだのは三人、残りの二人は脚を撃ち抜かれ、倒れたところで響がハンドガンを打ち込んだ。

 全員の無力化が終わり、歩き出す響。

 頭の中で何かが弾け飛んでいるのでは無いかというほどの激痛に、彼は顔を歪める。

 魔法の使い過ぎが原因のそれは、これ以上、魔法を使い続ければ命に関わるというサインでもある。

 ハンドガンのマガジンを切り替えて、ベルトにコンバットナイフを引っ掛けた響は、ゆっくりと来た道を戻っていった。

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