第7話 スキャンダル2
噂の広がりは早いものだ。
などと、考えてから自分が4日間眠っていたことを思い出して、それを修正する。
現代の情報技術の発達から考えれば一週間という期間は、情報が広がるのには十分だ。
「やばくない?」
ニュースを見ながら響は呟く。
報道される内容は花音に恋人が出来たのでは?といった内容の物。
「うわ、お兄超有名人じゃん」
呆れたように呟くのは妹の灯、東都魔法高校の付属中学校に通う彼女は、兄と同じ黒い制服に袖を通している。
「灯ちゃん、もうちょっと服装正してから出てこようね?恥じらいって大事だとお兄ちゃん思うな」
「うわ、きっも・・・妹に欲情するの?」
「そうは言ってないでしょ・・・灯ちゃん可愛いんだから、警戒しなさいって言ってるの」
「ふーん、ならいいじゃん。今、ここには私とお兄しかいないんだし」
「そういうことじゃないんだよなぁ」
ワイシャツの胸元のボタンを開けている灯の服装は兄とはいえ、異性のいる前でする格好ではない。
とはいえ、あまり言い過ぎるのもそれはそれで兄妹としてどうなのかと思い直して、それ以上は何も言わない事にする。
それに、現状、響にとって灯の服装よりも目の前で報道されるニュースの方が、優先度が高かった。
♢☆♢☆
「おはようございます」
「おは・・・疲れてるな」
響の前に立つ花音はいつもに比べると元気が無い。
同情するような声音で響が告げると、彼女は恨みがましい視線と共に抗議の声をあげた。
「貴方は随分と元気ですね」
それに対して響は何も言えない。
と、言うのも、彼女がやつれている理由は完全に自分に非があるからだ。
彼女はここ数日、実家にテレビ会社、果てには彼女がモデルを務めた雑誌の編集部にまで文句を言われ続けている。
『七星剣』を代表するアイドル、そういった立ち位置にいた彼女が彼氏を作るというのはいろんな意味で都合が悪いのだろう。
とはいえ、花音としても本気で響を責めるつもりはない。
あの場で響が庇わなかった場合、『鎌鼬』が襲ったのは彼女だったからだ。
だから、疲れた分の怒りを軽くぶつける程度でそれ以上は言わないし、言外に響もそれを理解している。
二人はそれ以上、無駄な言い争いをする事は無く、学校へと向かった。
学校に着くと、二人にとって更に居心地は悪くなる。
好奇の視線に晒されるのは、何だかんだで多大なストレスなのだ。
「響、花音、大丈夫?」
心配そうな様子で尋ねてきたのは音色である。
「問題ない・・・とは言い難いな」
「肉体的には全然ですけど、精神的に参ります」
自分の机の上に身体を投げ出した響と、女性としてのプライドか、はたまた『七星剣』としての意地か、正しい姿勢で座る花音が吐き出すように呟く。
授業道具を出すことすら諦めて、顔を突っ伏す響の様子はとても授業開始5分前とは思えない。
響の隣の席に座る音色はケータイを弄りながら、今期のアニメの話をしだす。
彼女だの、世間の目だのでその手の会話にうんざりしていた響が音色とダラダラ会話のような事ーお互いに脊髄で話しているために会話が噛み合っていないーをしていると、響のポケットに入っているケータイが鳴る。
「何かあったんですか?」
「さあ?まだ見てないし」
ケータイを開くと、そこには差出人不明のメールが。
嫌な予感と共に開いてみれば、案の定花音と別れろという旨のメールが届く。
響は何も見なかった事にしてケータイのメールを消しつつ、顔を花音の方に向けた。
「イメージ回復の為にテレビとかには出演しないのか?」
「ふふ、この状況で冗談ですか?面白いですね、私も最近覚えた冗談があるんですよ。息を2分くらい止める魔法をかけるっていう」
「悪かったから、辞めてくれ」
うんざりした様子で呟く響に、ニコニコしたまま恐ろしいことを言い出す花音。
横で見ていた音色が疲れているなー、と二人にいうが、最早返事をする元気も残っていないようだった。
♢☆♢☆♢☆
授業が終わった後、帰るために準備を始める二人に音色が質問した。
「二人は部活って入る?」
「部活・・・どうするんだ?花音」
とりあえず、護衛が終了するまでの2ヶ月間は彼女と同じ部活に入らなければならない。
「部活・・・ですか、私は入るつもりは無いですよ」
「だ、そうだ。俺も入らん」
「そう、なら私もいいかな」
二人に同調する形であっさりと部活を諦めた音色は、響と同じくすっからかんな鞄を持ち上げると、思い出したように呟いた。
「それなら、今日、みんなで近くの喫茶店に行かない?」
「いいですね、どうせ家に帰っても謝罪するだけですし・・・響さんもですよね?」
「んー、ちょい待って」
響はケータイを操作してから、「おっけー」と軽い調子で返答する。
「灯さんですか?」
「あったりー」
「呼んだの?」
「いや、喫茶店に行くって伝えただけ」
だから、夜ご飯を減らしておいて、といった旨を伝えたのだが、そこまで彼女らに教える気は無かった。
「じゃあ、行きましょうか。四人分でいいですか?」
「そうだね」
「は?いや、別にそういう意図で灯に伝えた訳じゃないんだけど・・・」
「まあ、来なかったら来なかったでいいじゃないですか」
予想外の言葉を口にした彼女達に訝しげな視線をやりつつも、響は彼女らにそれ以上なにかを言うことはなかった。
♢☆♢☆♢☆
喫茶店『ラグーン』、砂洲などで作られた浅瀬を意味するその店は、一見すると草木に隠れた民家にしか見えず、この店の存在を知っている者にしかわからないように見える。
木製のドアを開けて、店内に入るとベルの綺麗な音が鳴って、響等の来店を店内に伝えた。
「あ、マスター。四人で」
音色が勝手知ったるといった様子で入って行く。
ここを紹介したのは彼女であるが、随分前から行きつけのようだ。
「音色さん、ここにはよく来るんですか?」
「ん、週七で来ている」
「毎日ですか!?」
「いや、冗談でしょ・・・音色は結構そういう所あるから」
響が花音にそう言うと、店の隅に大量の本が重ねてあるのが見える。
そして、音色はその席に迷わず座ると、本を取って二人に来るよう手招きしだした。
「来ないの?」
「あの・・・それって、全部音色の?」
「当然、なにを言っているの?」
訳がわからないといった様子で首を傾げる音色に、響が質問する。
「え、もしかして毎日来てるのってマジなの?」
「ん?・・・ああ、冗談だと思った?残念、私はいつでもユーモラスな冗談を言うけど、これは本当でした」
「いやー、その生活スタイルがユーモラスなんだよなぁ」
響は呆れたような、それでいて楽しそうな声で返答しつつ、音色の前に座った。
そんな響に続いて花音も席に座るのと同時に、音色が手元のベルを鳴らす。
チリンと、ともすれば店のバックグラウンドに消されてしまいそうな音が聞こえるのと同時に、髪を金色に染め、全身を真っ黒に焼いたファンシーな老人が水を人数分持ってやってきた。
「ご注文は?」
「ん、紅茶とケーキを人数分プラス1で」
老人は水を置いてから軽く腰を折ると、店の奥に戻って行く。
響は彼の姿が見えなくなるのと同時に、音色に顔を寄せた。
「あの爺さん何?めちゃくちゃファンシーなのに、口調が丁寧ですげー違和感あるんだが」
「マスターは、マスター。本当の名前を教える事は無い」
「そ、そうか」
彼女の返答からして、それ以上の答えを期待できないと悟った響は早々に諦めて、水を飲む。
「音色さん、何を読んでるんですか?」
「ん・・・『狂騒の夜に』っていう小説。2年前にアニメ化してる」
「ああ、CMだけ見たんですけど、結局見なかったんですよね。どうなんですか?」
「小説は普通、アニメはめんどくさかったから見てない。響は見た?」
「俺も小説だけだな」
ゆっくりと時間が流れていくのを感じる。
何だかんだ言いつつ、響も花音も最近の世間の声にうんざりしていた為に、こういう時間は嬉しかった。
「そういえば、響はどんな魔法が得意なの?」
ふと、音色が尋ねる。
「どんな魔法・・・といっても、『黒』を冠する家の魔法はわかってるだろ?」
「それでも、実際に見た事は無いから・・・だめ?」
「いや、いいけども」
可愛い子の上目遣いに男は弱い。
響は机の上のナプキンを持つと、それを畳んで手の中に握る。
すると、手の中からナプキンは消えて、握った手から水が溢れてきた。
それは木製のテーブルの上に落ちても何故か、水滴のままで、木の中に染み込むという事がない。
そして、それらの水滴は響が指を振ると、空中に浮かび上がり、響の掌の上に集まって大きな水の塊になった後、再びナプキンに戻った。
「『黒』の家系の持つ魔法適正は、物質の『移動』と、『元素変換』だ」
響の語る『元素変換』は、科学的に言うところの元素変換と意味合い的にはだいぶ違う。
核反応や放射性崩壊によって、原子核を別の元に置き換えるのではなく、原子を『魔力』で覆って、別の物に書き換えるものだ。
覆って書き換えるという性質上、元の原子より小さい原子に変える事は出来ないのでは無いか?という問題が浮上した事はあるが、実際のところ、鉄を水素に変えることなども出来ているので、そこは現代魔法学の三大不思議現象に数えられている。
「実際に見てみるとすごい。魔力のブレとかが一切無くて、綺麗に魔力が動いているのがわかる」
「ま、この二つに特化した『一族』だからな」
興奮した様子の音色は花音にもナプキンを手渡す。
「花音も見せて」
「ええっ!?」
救いを求めるように響を見る花音であったが、響は「やろうか」と、いい笑顔で言ってくる。
「はあ・・・わかりました」
ため息をつきつつ、彼女はナプキンを畳んでから軽く宙に放った。
すると、自然落下するはずのそれは彼女の頭の上あたりで止まったまま降りてこない。
「『一ノ宮』の魔法は『停滞』です。魔法をかけられた物は物質であろうと生物であろうと、世界から切り取られたように動きを止めます」
彼女が指を鳴らすと、魔法が切れてナプキンが机の上に落ちる。
「じゃあ、折角ですし、音色の魔法も見せてもらいましょうか」
「いいよー」
花音が音色にナプキンを渡す。
音色はあっさりと了承すると、手渡されたそれを机の上に置いた。
その次の瞬間、ナプキンは糸に操られたかのように持ち上げられると、空中で勝手に様々な形に変わる。
「『灰』は『操作』の魔法だよ」
「おしまい」、と音色が告げれば、ナプキンは勝手に折り畳まれて、机の上にゆっくりと置かれる。
それは全ての動作が彼女の支配下に置かれていたということであり、彼女の技量の高さを示していた。
三人がそれぞれの魔法を見せ終わり、そろそろ注文した物が来るという頃、店内に来客のベルが鳴る。
まさかと思いつつ、響がそちらに目をやれば、案の定そこに居たのは灯だった。
「あれ、灯ちゃん」
「ライン見たらたまたま近くだったから・・・」
「あ、そうなの」
言われてみれば、確かにここは中学から自宅までの帰り道にある。
部活をやっているとの事であった灯は部活終わりにラインを見たらしい。
「ごめんなさい、先輩方。もしかして、迷惑でしたか?」
反応の無い響以外の面子に、灯は萎縮気味であったが、音色は突然立ち上がると、灯の両手を自らの両手で包んだ。
「ナイスツンデレ」
「へ?」
「リアルツンデレ・・・しかも、こんなに可愛いとは、少し感動物」
「えーと・・・ありがとうこざいます?」
困惑している灯に助け舟を出すべきか響が迷っていると、隣に座る花音は「私の言った通り」と言った様子で、響にウィンクをしてきた。
「お嬢さん方。座ってください」
そんな声が聞こえたかと思うと、いつのまにかファンシーな爺さん、マスターが人数分の紅茶とケーキを持ってきていた。
「あ、どうも」
「えーと、理解が追いつかないんですけど・・・」
「まあまあ、とりあえず灯ちゃんも貰いましょう」
何事も無かったかのように受け取る音色に、困惑している灯。
花音に言われるがままにケーキを受け取った灯は響の斜め前、音色の隣に座る。
「きっと来ると思って、四人分頼んでおいてよかった」
「ですね」
「?、お兄、二人は何を言ってるの?」
「あー、俺が灯に連絡した段階で二人とも、灯が来るっていう想定で動いてたんだ」
なるほど、と呟きながら、紅茶に口をつける灯。
それにつられて、というわけでは無いが、響も紅茶を飲むと、紅茶の香りが鼻をつく。
ストレートのようだが、渋みは殆どなく、かといって、甘過ぎない。
決して高級なわけではないのに、美味しいと感じさせるのは淹れた人物の腕前が良いからか。
「美味いな」
響が素直に賞賛を口にすると、花音と灯もそれに同意、音色は「でしょ?」と自慢げに言った。
「マスターが言うには、淹れる時に魔法を使うらしいんだけど・・・私は上手な淹れ方とかわからないから」
「俺も知らないな・・・花音はどうなの?」
「別にお嬢様だからって、そういうのを習うわけじゃ無いんですよ?」
「いや、別にそういう事を言った訳じゃ・・・」
響は言葉を訂正しようとして、言葉を切る。
「灯ちゃん、花音の事頼める?」
先程とは一転、真剣な表情に変わった響が灯に告げれば、灯は無言で頷く。
「敵ですか?」
「わからない、とりあえず確認だけしてくる」
「響、私も行く」
「音色・・・わかった。よろしく頼む」
音色もまた『カラーシリーズ』の一人、だとすれば、戦闘経験もあるだろうと判断する。
響は女性は守られなければならないなどといった考えは持たない。
いつだって、その場での最善策を模索する。
二人で店の外に出ると、店の前には一人の男性が居た。
帽子を被り、コートを着たその姿は今の季節に、不自然というわけでは無いが、その雰囲気は決して一般人のものではない。
「何してるのかなー?」
響が軽い調子で尋ねる。
決して答えを期待してのものでは無い。
そして、相手はその返答代わりに、ナックルダスターを装着した拳を響達に向けた。
「任務を開始する」
機械的な呟きの直後、男の巨体がぶれて、その体躯に見合わぬ速度で間合いを詰めてきた。
振り抜かれる拳を紙一重で響が回避、バク転するのと同時にサマーソルトの要領で相手の顎へと蹴りを飛ばす。
だが、相手も即座にバックステップして、ギリギリそれを躱した。
そして、それとほぼ同時に、音色の魔法『武器操駆』が発動。
音色の制服の袖やスカートの裾から飛び出した58の黒い針が無軌道に男性を襲う。
しかし、男性もまた即座に魔法を起動。
地面を滑るような挙動で後ろに下がった。
『武器操駆』の射程距離は音色から30mまで、男性を追いかける途中で止まり、彼女の元に戻る。
近づくのは危険と判断して、男性が新たに遠距離攻撃用の魔法を起動しようとした瞬間、響が掌を男性に向ける。
放たれる魔法は必殺の閃光、それは初見であれば躱しようのない一撃、だが、男性は響の挙動を見た瞬間、即座に魔法を中断して、掌の延長線上から飛び退いた。
「何!?」
口では驚きつつも、響は状況を冷静に把握する。
彼相手には見せてないとはいえ、『中国』の刺客を一度、その魔法で退けたのだ。
魔法自体の解明はされていないだろうが、その『結果』を知られてしまえば、回避されて当然。
(周囲の家の壁や屋根を走り、立体的な起動で襲いかかってくる相手には当てづらいか・・・『黒』の魔法のみでの戦闘は厳しい・・・とはいえ、もう一つを使うわけにもいかない)
響はそう判断して、魔法による攻撃は音色に任せる事にする。
そして、魔法を使う為に常に休ませている自分の『意識』を全て、自分の身体に回す。
それで身体能力が上がるわけではないが、反射神経と判断力は先程よりだいぶマシになる。
響が例の魔法を使ってこないと判断したのか、男性は姿勢を低くすると、ラグビーのタックルのように全速力で突っ込んできた。
響がそのタックルをギリギリで躱そうとした直後、男が不敵な笑みを浮かべる。
それを見て、響はすぐに大袈裟な、十分に距離を取った回避行動へと切り替えた。
アスファルトを転がった勢いそのままに立ち上がる響の視線の先では、男性の周りを囲うように張られた不可視の鎧がある。
ギリギリで回避していたら、あれの直撃を食らっていたところだ。
(ここまで見ただけでも『移動』に『操作』、それに『力場生成』の魔法を俺たちに近い技量で・・・恐らくは強化人間、それも薬物でのドーピング付きか)
『七星剣』や『カラーシリーズ』の魔法使い達は数多くある魔法の中、ほんの一部に特化した一族だ。
例えば花音は一般人に比べたら遥かに高いレベルで『移動』の魔法を使えるが、それでも『黒』には勝てない、などといったようにトップクラスの魔法使いであろうとも、全ての分野で頂点には立てない。
その筈なのに、目の前の男性はあらゆる分野の魔法を全て、響達に近いレベルで使っている。
恐らく、いや確実に命を削るタイプの薬物を大量に投与している。
(確実に殺りにきたということか)
男性の周りを覆う『力場』は恐らく、音色の針では破れない。
かといって、響の魔法は挙動でバレる。
響が足を少し動かせば、男も牽制するようにナックルダスターを動かす。
相手が子供だからといって決して、男性は油断はしない。
(腹をくくるか)
虎穴に入らずんば虎子を得ず、響は自ら男性相手に距離を詰める。
だが、距離を詰めたのは響であるにも関わらず、先手を取ったのは男性であった。
響は男性の拳をスレスレで躱しつつ、懐に入り込む。
男性はジャブのように打ち出した左腕を引く要領で、腰を回転させると右のショートフックを打つ。
響は左腕を上げてそれを防ぎ、お返しとばかりに右でジャブを打つが、フックを引っ掛けた際に、少しバックしていた男性には届かない。
後ろの左足つま先に力を込めて、半歩前に出る響を迎撃するように男性が左腕を伸ばした瞬間、それを見切った響は回避しつつ、右腕でその左腕を絡めとり、右膝で掴んだ左腕をへし折った。
「っ!!!」
腕の痛みで男性に一瞬だけ隙ができる、だが、響もまた片足を上げてしまっており、追撃は不可能。
一対一であれば、響が足を下ろす間に相手も退がれていたであろうが、これは二対一だ。
背後から強襲した黒い針が男性の背中に突き刺さり、針に仕込まれた筋弛緩剤が男性の自由を奪う。
「音色、ナイスだ。狙っていたのか?」
「ううん、偶然。でも、狙うとしたらあそこ以外ないと思った」
音色の言う通りであった。
相手は格闘技術も非常に高く、恐らく音色が初めから援護していれば、響と距離を取ってしまい、撃退こそ出来たものの、捕縛はできなかった。
響が一体どうやって情報を吐かせるべきかと、男性の方に視線を向けると、背後からプレッシャーを感じて、音色を押し倒す。
そして、次の瞬間、音色と響が立っていた位置と、倒れていた男性の胸に大型のナイフが突き刺さった。
響がナイフの飛んできた方向を咄嗟に睨むが、そこに人影は無い。
どうやら、最後の最後に詰めが甘かったのは自分達であったようだ。
響は音色に謝罪しながら、立ち上がると無言で歯を食いしばった。




