異世界人、美容室行く
裏切京子は人間ではない。
「…………髪、伸びましたわね」
それでも彼女は地球という星で、人間をやっている。
その姿は確かに可愛らしさと恋する乙女も兼ね備えた、姫カットって言うには髪伸びすぎな女子高生。腰に二丁拳銃を掛けていなけりゃ、恐さというものはない。
自宅の等身大の鏡にて、前髪の長さを気にする。
人の姿を手に入れて、こうして同じ人の群れの中に混じることで、身嗜みというこれまでにない部分を意識するようになる。
自分に可愛いやキレイだなんて、表現を口にし、抱くことを人の姿が教える。
私はどう思われているだろう。人がそう思うのかって、人ではない裏切には考えさせることだ。
「広嶋様は私を見てくれますかね」
「裏切ちゃんも髪に切りに行こうよー!」
「ぎゃああぁっ!?」
突如、自宅に現れた。女友達というか、仲間にして、恋のライバル。
「ミ、ミムラ!!いきなり現れないで!!背後をとるな!!」
「裏切ちゃん。前髪伸びてて鬱陶しいでしょ??私は纏めているけど」
そんなことを言うミムラのツインテールは腰から下まで伸びた、特長な髪である。似合っているが、この子が言うかいって感じ。
「一緒に美容室に行こうよ!可愛くなっちゃおー!」
「び、美容室……?」
◇ ◇
そんなわけで裏切京子ちゃんの、沖ミムラと美容室に行ってくるお話である。
「こ、ここが美容室ですね。日本にはどこにでもありますわよ!」
「そーだね」
お店の前に立って思う言葉はそれでいいのか?
「ミムラはこちらによく来られるのですか?そのツインテールですし、整えるのは大変でしょうに」
「半年に一回くらいかな?髪をちょっと切るために来るよ。膝ぐらい伸びたら、腰ぐらいまで切ってもらうのはここでやってもらっている!」
「半年に一回しかその髪を切らないの!?」
その事実に驚きながら、自動ドアを開けて入る。そこはもう外からでも分かっていたが、オシャレな店内。自分は恥ずかしくないだろうか?それを問われる。
「あら、ミムラちゃんじゃない」
「どーも」
「9か月ぶりじゃない。髪伸びた?」
「えー?まだそこまで伸びてないと思うんですけど」
そう言いながら、ツインテールの二つを手に取りながら、言葉をかわす。
ミムラに任せて良かったのだろうか?
「?その子は」
「友達でーす!今日はこの子の付き添い!可愛くして、どーぞ!」
「ミ、ミムラ!」
押される感じで席に座らされる。初の美容室に緊張中だというのにだ。
柔らかく深い椅子。
一方でミムラは待合室の椅子にドーンッて腰掛て、慣れたように女性雑誌をラックから取り出して読み始める。
「マスター、最新号ですねぇ」
「ミムラちゃん、タダ読みですねぇ」
「私は裏切ちゃんが終わるまで待つので。あ、でも。これ以外にも読みたいので、何時間でもどーぞ」
「君はその髪を切りに来たんじゃないのかい?結局……」
まぁいいか。そんな溜め息をつく、美容師さん。
早く始めなさいよと、裏切。こんなところ初めてでよく分からないからそう思っている。
髪を切ると言うので、何気ない事で美容師にとっては、どう驚いていいのか。
「それじゃあ……」
「ちょっと待ちなさい!!」
「ん?」
裏切。一発目で気付く!
「わ、私の背後をとるんじゃありません事!!そんな事をしていいのは、広嶋様だけです!!」
「あの散髪マントをつけてあげるだけなんですけど」
「ミムラ!説明!!私は何をされるの!?」
ミムラは最新号の雑誌をパラリと捲って読みながら、
「美容師さんが裏切ちゃんの後ろから、刃物で髪を切って、結って、整えてあげる人のことだよ」
「は、刃物を持った男に後ろをとられるというのですか!?さらに髪を弄られるとは!屈辱の極み!!」
「……あの、気付かないフリしてるけど。モデルガン(?)を腰につけている子の散髪をするのは、私も初めてなんだけど」
「これは本物ですわよ!!下手な真似したら撃ち殺しますわ!!いいんですか!?知らぬ男が、刃物を持って!自身の髪を預けるなんて事!」
確かに怖いものだ。よく考えたらそうだろう。
だが、美容師さんからしたら、裏切の言っている事の方が恐ろしい。手元が狂いそうだ。
しかし、口先。客商売においては、伝える表現がとても重要な事。それから自分の腕が相手に伝わってくれる。なぜ、お客様の後ろをとるのか。
さらに思えば、幼少期。母さんに初めて連れられて来た床屋にあったゴルゴ13、その時の全巻。読破に頑張って、時間かけてくれと頼んだっけ?。そして、デューク東○は、一体どのように髪を切っているんだろうか。そんな思った疑問をこんな子から掘り起こされた。
「確かにお客様の後ろをとってしまうのは、不安にさせてしまうかと思います。しかし、前の鏡を見てください」
「!」
「こちらで自分の髪型が綺麗に整われていくところを見て頂き、どのように変わっていくか。変わって欲しいか。お客様自身の言葉も欲しいのです。私があなたの前に立っては、それを確認できません。可愛くなりたい。させたいのですから、このような行為をお許しください」
そして、私はなんでこんな事を言うのだろうか。
精一杯に、仕事をしますよと言えた気がした。
「……わ、分かりましたわ」
裏切はこの馬鹿丁寧な言葉を正直に受け取って、自身が感じた屈辱を受けた。
まぁ、これで可愛くならなかったら、……射殺するんだろう。今度は腕が震える。
けれども、奮ってやろう。
「あ、マスター。すみませんけれど」
「なんだい、ミムラちゃん」
「裏切ちゃんを私より可愛くさせないでください。恋のライバルなんで」
「だったら君もあとで相手してあげるから。ここは立ち読み場じゃないよ」
「ミムラ!なんですのそれ!!私の方を可愛くお願いします!」
「分かった分かった!平等にやるから」
面倒だから二人共、坊主頭にしてイーブンにしようか。
でも、殺されちゃうね。
懲りずに挿絵です。
というか、こっちが自分のメインかな。
裏切っぽく描いてみたけど、仮のデザインって事で。
もうちょっとは上手くなりたいものです。