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水の聖者~20の柱~  作者: 森川 悠梨
第一章 冒険篇、白の魔術師
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武闘大会 予選編

「……二人とは、当たらなくて良かった」


 密かに安堵の息を吐くのは、アラン。隣で壁に寄りかかっているルートスが、そんなアランに向かって口を開く。


「まあ、幼馴染みを舞台から落としたくはないよな。そうでなくても、枠の中から本戦に出られるのは三人だから、他に俺たちより強い人がいれば、三人が一緒になったらみんな一緒には残れないし」


 はあ、とため息を吐くアラン。未だ自分の実力に、いまいち自信が持てないままでいるのだ。

 アルの訓練は上達するし、話も分かりやすい。だからこそ成長しているということはなんとなくわかるのだが、アルがアラン達の成長に合わせて加減を変えているため、自覚がない。自分がどこまで成長できているのか、わからない。


「ともあれ、今回は個人で奮闘するだけだ。油断さえしなきゃ、無様な戦いにはならないだろうよ」


 ルートスの言葉に、アランも微笑んでうなずく。相変わらず緊張した様子だったが、幾分かは落ち着いてきたらしい。

 アランは両手で自分の頬を叩く。気合を入れ直し、準備運動を開始した。時間的に、そろそろ開会式が始まった頃だからだ。

 若手の男子二人がこのような大会の控室にいれば、絡んでくる調子者はいるだろう。だが、彼らの近くには一人の男が伸びている。

 これは、アランとルートスに絡もうとした……いや、絡んだ男だ。自らを〝森炎魔〟の弟子と名乗った体格のいい男は、アランとルートスを若者だからと馬鹿にした結果、ルートスによって挑発され、動きがなんだか鈍いように見えた男の腹をアランが殴って鎮圧させたのだ。

 まあ、この程度のことは村の外に出てからでも何度かあったために、特に気にすることはなかった。

 だが、これだけ体躯の良い男を一撃で沈めたアランと、それと一緒にいるルートスには、他の者は絡む気はなかった。

 他の、腕の立つ者に至っては、アランとルートスの佇まいからそれなりの腕があるということを察して、注目していたのだが。


「にしても、まだかな。やっべ、また緊張してきた……」

「まだまだだろ。だってお前、Iブロックだろ?」

「良いよな、お前は。Bブロックでも同時進行で初戦だもんな」


 コペル王国の王都にある闘技場の舞台は四つ。面積もそれなりに広いため、闘技場だけでもかなりの敷地を占領していることになる。

 だが、闘技を最大の娯楽としている国民にとって、大きな敷地を保有している闘技場の存在は、喜びこそすれ苛立つようなことはない。

 四つの舞台で四つのブロックの試合が同時進行で行われ、最後はIブロックとJブロックの二つが同時に行われる。

 つまり、実質アランは最後なのだ。だからこそ、この緊張が長続きするのが嫌で、ルートスを羨ましがっているのだ。

 ちなみにルートスはBブロックで、ミーシャがDブロックである。


「Aブロック、Bブロック、Cブロック、Dブロックの方、準備をお願いします」


 しばらくすると扉が開かれ、ルートスや他のBブロックの者が呼ばれる。


「じゃ、行ってくる」

「おう、頑張れよ」


 何人かの選手が控室から出ていき、係員の者はまた別の部屋に控えている選手を呼びに移動していった。




「さて、どうかしらね」


 ステージに立った少女が小さく呟く。ただ、丈の長い外套を着込み、頭巾を目深に被っているせいで顔は見えないが、整った口元と顎はしっかりと見える。

 華奢な体型と整っているであろうことがわかる小さな顎から、絡んできた男たちは何人かいた。

 だがその度に返り討ちにしているお陰で、それ以上話しかけてくる者はいなかった。

 とはいっても、それは男性に限定されていた。女だからという理由で馬鹿にされたもう一人の女性参加者が、その少女に話しかけたのだ。そうしたら、意外にも話しやすい相手だったということが分かり、今では同じ所を行動するようにまでなっていた。


「ねえ、勝てると思う?」

「余裕ね。この程度の相手、私が負けるはずがないわ」

「本当に実力者は余裕でいいわよね。羨ましいわ」

「あら? あなただってそれなり以上の実力を持っているのではないの? いえ、持っているでしょう? それなのに、どうして?」


 心底不思議だ、といった様子で、少女は女に話しかけた。だが、女は肩を竦めるのみ。

 今回この女が大会に参加したのは、自分の実力がどこまで通じるかを確かめたかったからであって、商品や名声が目的ではなかった。

 あくまでそれはできたら、であり、最大の目的は自分の実力の再確認だった。

 女はCランクの冒険者で、そこらにいる冒険者よりは圧倒的に腕が立つ。それでもこうして緊張しているのは、世界的にも注目される有名な大会に出場したのが、これが初めてだったからだろう。


「ともあれ、私は勝手にやらせてもらうわよ。敵も味方も、関係ないからね」


 釘を刺すように告げられた言葉に、女はうっ、と声を漏らした。

 図星を突かれたのだろう。

 おそらく、自分と組んでほしいと言おうと思っていたのだろうと容易に想像できた少女は、ため息を吐いて言った。


「言っておくけど、私は弟と妹意外とは組む気がないの。ごめんなさいね」

「あら、弟さんと妹さんがいるの?」

「ええ、いるわよ。弟とは、しばらく会ってないけど」


 寂しげに呟かれる少女の言葉。今、どこで何をしているのかすらわからない愛しく愛すべき弟。長い間探し続けているにも関わらず、まったく居場所すら掴めないのだ。

 故郷に帰る手段を持たない彼女は、妹と共に弟の行方を捜している。戦闘の才能と血筋を持ち、戦いに身を置き、何度も怪我をしつつも戦いを娯楽としている彼なら、このような大会に参加するのではないか。そう思って、こういった闘技の大会には毎回参加するか、観戦しに来るのだ。だが、それにも関わらず、見つからない。

 それでもまだ参加しているのは、こういった場所にいつか姿を現すのではないか、といった希望が捨てられないからだ。

 本戦に出て弟がいないと判断したら、相手に実力を見せないまま退場する。妹は会場内を動き回っており、兄の姿を今も探しているだろう。

 そんなことを考えながら、少女は変わらず周囲を見回す。ステージに立っている今でも、弟を探すためだ。


「ま、そろそろ始まるみたいだし、行くわ。じゃあね」


 笑みを浮かべて手を振る少女。口元だけでも整っているだろうことがわかる少女の笑みを想像して、女は息を呑むのだった。


 *


「……よし」


 頬を叩いて気合を入れ直すルートス。槍を携えて、武器の最終チェックをする。アルにもらったばかりの性能の良い魔槍だ。滅多に壊れるといったことはないだろうが、念のためという意味合いもある。

 案の定武器に異常はなく、石突を地面について周囲を見回す。舞台の近くにはアルとリア、そして従者であるウォルの姿もあった。

 しかし手を振るといった行為はすることなく、再び参加者の方へと視線を向けた。

 体躯の良い男、華奢な体型を持つ女、絞られた筋肉を持った男、まだ若い、ルートス以外の少年。様々な選手がいる中で、ルートスは妙に緊張していなかった。

 それは、自分たちを鍛えてくれた、自分たちの慕う師が、近くにいてくれているからなのだろう。

 手を貸してくれることはなくても、近くにいるだけで不安などない。見ていてくれる、また、試合が終わったら、新しいことを教えてくれる。

 それを楽しみにしているだけでも良かった。

 そして、響く司会の男の声。


『選手の準備ができたようだな。じゃあ、試合、開始だ!』

『始めっ!』


 司会の男の声に従い、同時にかかる四人の審判による開始の合図。

 すると、ほぼ同時に飛び出していく選手たち。ルートスは、待つことにした。間合が大事になってくる槍を武器とする彼にとって、選手たちが入り混じって混雑しているところへは行かない方が良いと知っているからだ。


「やあっ!」


 若い冒険者風の少年が、剣をルートスに振り下ろしてきた。動きに無駄が多く、ルートスからすれば、それはもう遅いと表現できるスピードだった。

 ルートスは槍を滑らせて剣の攻撃を受け流す。そして相手の剣を弾き飛ばし、素早く少年の首に突きつける。

 一連の流れは体が無意識に動いていたということに気がつき驚くルートスだったが、油断はしないまま隙を見せないよう、平静を装っていた。


「ま、参りました」


 その言葉を聞いて、ルートスは槍を戻す。少年は剣を拾って、舞台の下に降りて行った。

 この頃になると、すでに降参以外での脱落者も出てきていた。担架に乗せられて運ばれる怪我人から、肩を借りて移動する者、その場で手当てを受ける者。

 ルートスはひたすら向かってくる選手たちの相手をしていた。槍を武器としているので、慣れていない者は取り回しが難しい。だが、ルートスは幼い頃から槍を使っていた。そのため、慣れていないといったことは決してない。

 ましてや、アルに鍛えられて更にレベルアップしている彼に、予選で敵う者は少なかった。……いや、選手全体で見ればルートスに勝てる者は何人でもいるのだろうが、少なくてもこのBブロックにはいなかった。


「そこまで!」


 やがて最後の一人を舞台の外へ押し出すと、そんな審判の声がかかる。周りを見回すと、舞台の上に立っているのは自分とメイス使いの女、そしてもう一人の老人だった。


「……刀使い、か」


 所謂、和服と呼ばれる着物を着た老人は、その手に剣を持っていた。だが、それは一般に広まっているような剣ではなく、剣身の沿った、細い刀だった。

 曲刀よりは沿っておらず、見た目も美しいその刀は、秀亀王国で打たれたものだ。

 独特の製法であり、外国には一般的に広がることはない。


「へえ、刀か」


 感心したように呟いたのは、舞台の近くでルートスの戦いを見守っていたアルだった。やはり彼でも刀使いというのは滅多に見る物ではなく、珍しいということに変わりはないのだろう。

 もっとも、アル自身が愛用している双剣の形は半ば刀に近いものがあり、刀と剣の間にあるような形態をしたものであるため、刀自体は珍しいように思えないのだが。


「お疲れ」


 舞台から降りてきたルートスに、アルが話しかける。

 リアも笑みを浮かべて労いの言葉をかけており、ルートスも嬉しそうに微笑んでいた。


「うん。……アル、アドバイスをくれ」


 戦いに身を置くことを仕事とする者にとって、一つ一つの戦いはすべて経験値となる。もちろん、自分よりも格上の存在に的確な指摘を貰うことも全て含めて、だ。


「そうだな。まず、槍をやたらと滑らすな。攻撃までの時間が長い。体の動き全体のスピードはともかく、今回は大人数での個人戦だ。あまり時間をかけているとやられるぞ」


 アルの厳しい言葉にルートスは厳しい表情をしていたが、アルもマイナスの言葉だけを告げるつもりはなかった。故に、最後に笑みを浮かべてプラスの部分を口にした。


「ただ、全体的には良かった。槍の弱点を理解している。間合に関してはその調子でいいから、その感覚を忘れるな。あと、格闘の使い手には十分注意しろ。向こうも自分の体を武器としている以上、間合を詰めようとしてくるはずだ。うまくやれば有利なのは、間合が広い槍なんだからな。けど逆に言えば、下手にやったら一気に不利になるってことを決して忘れるな」

「わかった」


 アルのその言葉を聞いて、ルートスは嬉しそうに笑みを浮かべながらうなずいた。


「次は個人戦だぞ、頑張れ」


 ルートスの肩を叩きながら、アルはそう言った。頭巾を深く被っているせいで目元は見えないが、それでも嬉しさからか笑っているのが分かった。普段から表情を変えないアルだが、実際に鍛えた相手が予選で勝ち残ったのは嬉しいのだろう。

 素直な性格をしているアルだけに、特にそれを隠しもしない。

 小柄で華奢な体格を持つ師は、いつでも自分たちを心がけてくれ、気にかけてくれる。

 村から飛び出すきっかけをくれたのも、都にて、都会のことを教えてくれたのも、戦いについて教えてくれたのも、アルだ。

 今では感謝の念しか湧かない。

 そんな彼に少しでも恩返しをしたいと、ルートスは思った。この大会でいい成績を取ることが、その一つに値するだろうと思った。

 もしくは、アルや自分たちが目標としている、三人で、世界で名を上げるということが、アルへの恩返しになるかも知れない。

 だからこそ、今回のこの武闘大会でも、暗黒大戦でも、勝たなければならない。試合には負けても、自分には負けてはいけないと心に誓った。アルが以前に教えてくれた言葉だ。


「ほら、もう時間だろ。行け」

「わかった。じゃあ」


 ルートスの言葉にうなずき、アルとリアは控室に向かっていくルートスを見送った。

 残りの舞台では、Dブロックの試合はすでに終わっており、AブロックとCブロックは、だいぶ数が減ってきてはいるもののまだ試合は終わっていなかった。




「アラン。突き」

「……はい」


 アルにそう言われてしょぼんとするアラン。ルートスとミーシャに続きIブロックを勝ち残った彼だったが、今回の試合でも悪い癖が出てしまい、アルに怒られた形だった。


「……どうしたもんかな。さすがに困った」


 アランの指導をしているのは主にユアだ。だが、彼でもアランの癖は直せないと手を上げていた。

 アルにしても、ここまで悩むのは珍しい。

 やはり最初の型が悪かったのだろう。時間をかけて直していくしかないが、アランの突き方はいずれ肩と腕を痛める。

 攻撃の角度が中途半端で、攻撃力が格段に下がってしまうからだ。相手へのダメージも少ない、変な角度をつけてしまっているせいで肩と腕に負担がかかるといったデメリットしかない。

 腕の立つ者は、アランのその弱点を突くために、彼の突きを繰り出させるよう誘導してくることすらあるだろう。

 それを防ぐためにも、練習を積み重ねるしかない。

 まあ、今ではだいぶ直ってきた方ではあるのだが、それでも駄目なものは駄目だ。


「まあともあれ、予選は勝ったな。儲けさせてもらったぞ。それだけは褒めてやる」


 にやり、と笑みを浮かべて言ってくるアル。儲けというのは、毎回大会で、試合とは行われる賭けを指している。選手自身は賭けることができないので、アルがアラン達全員に金貨十枚ずつをかけて儲かったということだ。

 こう見えて親しい相手を弄ることを面白いと感じるアルだ。アランを多少弄ることで、面白そうに笑うのだった。


「……まあ、それは素直に受け止めるけど」


 あまり乗り気ではないアランは、それだけに留めてしまった。それが面白くなかったのか、アルは頬を少し膨らませる。


「面白くないぞ。もう少し笑わせろ」

「お前、俺を何だと」

「可愛い可愛い雛鳥だな」

「おいっ!」


 思わず叫ぶアラン。それに対してアルは、ようやく元気になったかと笑い声をあげる。

 アランは恥ずかしくなり、顔を赤くしてうつむいた。


「まあまあ、いいじゃないか。次は個人だぞ、頑張れよ」

「……ああ」


 そう、最後には励ましの声をかけるアルだった。


急いで書き上げたので、ミス等多いかも知れません。遅れてすみません。

今回は少し短め……です。


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