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水の聖者~20の柱~  作者: 森川 悠梨
第一章 冒険篇、白の魔術師
3/33

出会い

 穏やかな春の日。

 三人の少年少女たちが、森の中を走り回っていた。

 魔物に追われているのではない。獣に追い掛け回されているのでもない。ただ単に、彼らは森の中で鬼ごっこをしているだけなのだ。


「いーち、にーい、さーん……」

「よし、逃げるぞ」

「うん!」


 一人の少年ともう一人の少女が、そんなやり取りをする。

 そして、少年を先頭にして二人は走り出す。途中で彼らは二つに分かれ、やがて少年は森の木々の開けたところに出る。

 少年は思わず足を止めた。そこにあったのは、夏の空に浮かぶ入道雲の如く、冬に舞い降りる雪の如く、真っ白な花の大群。

 小さな花の集合で、隙間なく咲き誇るその花畑の中に、少年の目は奪われる。

 ……そう、花畑の中に、だ。

 白い花畑の中――少年とそれほど離れていない所――に、白く華やかなドレスを着た少女が座っていた。

 白い花に負けないほど目を奪われる、長く伸びた美しい白銀の髪。白い花の冠を頭にかぶり、日焼けのしていない白い肌と綺麗にマッチしている。ハッとこちらを見た、深海のように深く、そして透き通る宝石のような瞳が、清く、美しいものに見えた。

 その白く細い手にも、花畑で摘んだであろう白い花が握られており、花冠を作っている途中だったようだ。

 子供らしいつぶらな瞳は幼く、だがそれでいて美しいとすら表現できる。静かな海を連想させる、だが気配を感じない。そんな、不思議で可憐で、美しい少女だった。

 それは、"白髪に青い目を持つ子リ・ミ・レイヴァ・クラント"と呼ばれる存在だった。白銀の髪が象徴するのは希少な戦闘民族の末裔、レイヴァ。最高段階の魔力量を持つことを証明する、青い目。

 少年はただ目を奪われる。彼女のサラサラな髪が風になびき、前髪を躍らせ、裾を弄ぶ。


「ぁ……」


 少年には、その声を発するのがやっとだった。

 だが、声を出すことができたのは、幸か不幸か。


「っ……!」


 少女はそんな少年の声で我に返り、小さく声を上げてから慌てて走り去ってしまった。


「ちょっ、まっ……!」

「アラン君、つーかまーえたっ」


 声をかけようとしたアランだったが、その声によってそれは叶わなかった。


「み、ミーシャ……」


 アランと呼ばれた少年が、後ろの少女――ミーシャを振り返る。


「……どうしたの、ぼーっとしちゃって?」


 ミーシャは首を傾げながらそう尋ねる。だが、アランの背後にある白い花畑を見て、目を見開く。同時に、アランが何故ぼっとしていたのか、それで察することになる。


「わあ……! 綺麗だね! これ、なんていう花なのかな?」

「……さあ、わからない」


 名も知らない白い花と、名の知らない美しい少女。

 その少女の姿はもうとうに消えており、まるで自分の見た少女は幻覚だったのではないかとも思う。

 白い、美しいと言った形容詞が似合う幼い少女は、十一歳の少年の中に深く刻まれる形となって残った。


「ねえ、私、ルートス君を呼んでくるね! この景色、ルートス君にも見せてあげたいから!」

「え? あ、うん」


 ミーシャはそう言って、もう一人の幼馴染みを呼びに森の中へと走っていった。


「……名前だけでも、聞いておけば良かった、な」


 そう呟きながらも、アランはおそらくは無理だろうと半ば確信していた。だが、それでも、せめて声をかけていれば、と思ってしまうのは、仕方がない事なのだろう。

 一目惚れ。

 そんな言葉が、アランの頭の中を過ぎった。


「……一目惚れ、か」


 アランは苦笑を浮かべる。

 上空を見上げると、白い花の花びらが散って、風がそれらを巻き上げえていた。それはまるで、春に散る白い桜にも、はたまた、冬に舞い降りる雪にも見えた。


「いつか……いつかまた、会えるかな」


 小さく、誰にも聞こえない声で、初恋を経験した少年は呟いた。

 そのしみじみとした少年の声は、穏やかな春の風に乗っていき、静かに溶けた。


 *


 三年後の夏。

 名も知らぬ白い花の大群の中に、一人の少年の姿があった。

 その少年は、夏の空を連想させるような空色の髪を持っており、同じ色の虹彩の目は静かにただ花の大群を見つめるだけだ。

 呆然とその中心に立ち、何かを求めるかのように、ただ、その場に佇んでいた。


「ああ、またここにいた。アラン!」


 そう言って森の中から飛び出してきたのは、肩より上まで切りそろえられた赤髪を持つ少女――ミーシャだった。

 幼い顔立ちは整っており、中性的とも表現できる彼女は村の中でも若い男たちに人気のある爽やかな少女だ。


「アラン、みんな心配してたよ? ここに来るのも良いけど、お昼には戻ってきてよね?」

「は?」


 空を見上げたアラン。太陽は真上から傾き始めてきており、午後に突入していることがわかる。


「……それに、最近はここら辺も魔物が出てきてるんだから、気をつけてよね?」

「ああ、悪い。すぐ戻るから」


 そう言って、アランは立ち上がった。


「アラン! まったく、またこんなところに……」


 そう言いながらミーシャの後ろから現れたのは、同じくもう一人の幼馴染みであるルートス。

 村の中でも珍しい黒髪の持ち主であり、目の色は日焼けした肌の中では目立つ銀色。

 目の色は、一般的にその人の魔力量を示している。銀色は、まったく魔力を持たない然濃族ねんろぞくの透明色の一つ上で、ほとんど魔力を持たないが、少しだけ持っているということの証だった。

 ちなみにミーシャは紅色であり、平均より少し上といったところだ。アランの空色は、平均より遥か上の数値を持つ。一番上は青色だが、その下に鉛色と翡翠色がある。つまり、空色は上から四番目の魔力量の数値を持つのだ。

 ……だが、ほとんど教養のない田舎育ちである今の彼らが、そんなことは知る術もない。それこそ、彼らが憧れている都にでも行って学校に通わなければ習わない事なのだ。


「ほら、とにかく戻ろ? 畑の仕事、午後からシフトでしょ?」

「ああ、そうだな。戻ろうか」


 マイペースなアランだが、仕事はしっかりこなす。村でEランク冒険者として活動している彼らだが、やはり村に暮らす者としてそれ以外もこなさなくてはならない。

 それは、家の家事だったり、畑の仕事だったり、山菜や薬草などの採集だったり……と様々だ。

 今日は彼らは依頼には出なかったので、午前中にアランはこの花畑でゆったりとした時間を過ごしていたのだ。


「おーいアラン! こっち手伝ってくれ!」

「はーい!」


 元気よく返事をしたアランは、父親のいる畑の中へと飛び込んでいった。

 この村の名前はカル村。ラトス皇国に存在するドムリスラ山脈の麓にある、村にしては大きめの規模を持つ場所だ。

 ドムリスラ山脈最寄りの村として、危険な山脈の中を探索し国へ定期的に状況報告をするという役割を負っているため、その度に多額の報酬をもらっているからだ。

 ほとんど毎日高ランクの魔物の潜む山脈へ潜るため、腕利きの冒険者が数人だが存在しており、村は彼らのお陰で安定した生活を送っていた。


「父さん、そろそろ収穫じゃないか?」

「ああ、まあな。だが今年はちょっと遅いから、もう少し待て」

「お、おう」


 そんな会話をしながら、アランは水属性の魔法で水を撒いていく。

 アランは魔術師の領域を行く魔力量の持ち主だ。そんな才能を持つ少年をこんなところで燻ぶらせていいのかと村長を始めとした村の人たちは言う。アランの父親……ファランもそう思っている。

 アラン本人もいつか村を出てルートスやミーシャと共に都へ行くつもりだったので、全会一致でアランの都行きは決定していた。


「アラン、そういえばお前、昨日ジャノンに勝ったんだって?」


 畑仕事が終わった時、家の庭で休憩をしながらファランが尋ねる。

 ジャノン、というのは、村で一番の腕利きの冒険者だ。ランクはBで、ほとんど毎日山に潜っては土産を持って帰ってくる。

 人柄も良く、村では子供たちの憧れの存在の一人でもあった。

 そんなジャノンに勝ったと言われているアランはしかし、首を横に振った。


「魔法の勝負で勝っただけだ。純粋な戦闘能力では、ジャノンさんの方が圧倒的に上だ。……日々精進だな」

「はははっ、まったく。もっと胸を張れ。純粋な戦闘力じゃなくても、お前は村一のジャノンに勝ったんだ、それに変わりはねえ」

「いや、やめてくれ、父さん。本当に……」

「……ま、そこは本人の気持ち次第、か」


 ファランは苦笑いを浮かべ、息子の頭を乱暴に撫でた。


「お前は世界に飛び出す男だ。いつか純粋な戦闘力でジャノンを倒せるようにならなきゃ、白の魔術師目指すなんて言ってられねえぞ?」

「ちょっ、父さん……!」


 アランには夢がある。

 都に行って名を上げるというのもそうだが、それ以上に、世界的に有名で唯一のSSランク冒険者"白の魔術師"に届く実力にまで自分を磨きたいという夢だ。

 幼馴染みのルートスやミーシャと共に、困っている人を助けたい、そんな思いからの夢だった。

 五十年前に起こった一万年ぶりの暗闇戦争で、その"白の魔術師"の名はさらに広がった。

 もともと世界でその名前は少しずつ広まってはいたのだが、滅多に表舞台に立つことがなく、知っている人も少なかった。

 噂では、彼は"才を持つ子(シャラスト)"と呼ばれる希少な長命種族で、今でも現役らしい。だから、子供のころから聞かされてきた生ける伝説に、いつか会ってみたいという夢も、アランの中にはあった。


「へえ、その話、ちょっと詳しく聞かせてほしいな」


 そんな風に、二人で話をしていたアランとファランに割り込んできたのは、若い男の声だった。

 アラン達がそちらに視線を向けると、そこにいたのは旅人らしい四人の男女。

 紺色の髪に赤い目を持つ若い男に、同じ色の髪と目を持っており、項の辺りで一房に髪を縛る女。そして白金色の髪をショートカットにしている魔法使いの女と、エメラルドグリーンの髪に金色の目を持つエルフの男だった。

 彼らは顔立ちの整った一行で、そのせいか妙に違和感を感じるが、人の良さそうな集団でもあった。


「……えっと、あんたらは……?」

「ああ、失礼。さっきこの村に到着したんですけど、そうしたら今の会話が聞こえてきまして」


 紺色の髪を持つ男が、代表して口を開いた。


「初めまして、アルファ・メルリアンという者です。こっちは妹のアリュスフィア、もう一人の女の子はユウキ、最後にエルフの男はユウキの夫で、レイ・ゴールデンです」


 彼らの名を聞き、ファランが驚いたように目を見開き、次の瞬間には立ち上がって頭を下げていた。


「初めまして、わたしの名はファランと申します。こっちは息子の、アランです。……ほら、立て」

「え、あ、えっと、初めまして」


 父親の雰囲気が変わったのに対して困惑するアランだったが、名字持ちであるためにどこかのお偉いさんだと思ったアランは、ファランに倣って頭を下げる。


「あ、あの、そういうの良いので、頭、上げてください」


 そう声をかけたのは、白金色の髪を持つユウキ。

 整った顔立ちが苦笑に歪んでいるのを見ると、すでにこの光景には慣れているらしい。

 Sランクパーティ、『皓月千里こうげつせんり』とは彼らのことだ。

 アルファ・メルリアンを筆頭として長命種族で組まれた彼らのパーティは、五十年前にはかの"白の魔術師"も所属していたという。

 今はどうなっているのかは不明だが、表舞台に立っている彼らの中には"白の魔術師"の姿を近頃は見かけないため、パーティを抜けたのではないかという噂もある。

 ファラン達親子が"白の魔術師"の話をしていて彼らが足を止めたのは、やはり親しい友人の名が聞こえたからなのだろう。


「は、はあ……」

「それで……あなたたちは今、"白の魔術師"の話をしていましたよね?」


 優しげな笑みを浮かべながらそう尋ねてくるアルファに、ファランはまた笑みを浮かべながら肯定する。


「ええ、こいつがいつか村を飛び出して、"白の魔術師"に会うんだ、って言ってまして」

「父さん! 恥ずかしいからやめてくれ……!」

「良いんじゃないか?」


 その時、声を発したのはエルフの男――レイ・ゴールデンだった。


「え?」


 声の主に視線を向けると、そこには嬉しそうな笑みを浮かべたレイの姿。


「俺もあの人には今でも憧れてる。今は仕事で俺たちとは一緒にいないけど」


 今は一緒にいないけど。

 その言葉を聞いて、ファランが反応する。

 あの"白の魔術師"は、今も『皓月千里』のパーティに所属しているのだ、と。


「……あの、もしよかったら、こいつも一緒に連れて行ってやってはくれませんか?」

「ちょっ、は!? 何言ってんの、父さん!?」

「無理ですね」


 即答したのは、パーティリーダーでもあるアルファ。


「彼は俺たちと一緒にいるべきではありませんし……もし今の彼が俺たちと一緒に来てしまったら、命の危険があります。確かに彼には才能はあります。ですが、まだそれだけです。まだ戦闘力を磨けていない子供を連れて行くわけには、行きません」


 言外に足手纏いになるからついてくるなと言われたアランは、悔しさから下唇を噛む。

 父親の態度やアルファたちの会話から、彼らが"白の魔術師"と何らかの関係があることは察した。だが、それでも、相手の実力を測れるほどの腕がないアランにとって、馬鹿にされたような気分になるのは仕方のない事だろう。

 そんな少年の様子を見て、アルファは笑みを浮かべる。


「よし、せっかくここまで来て冒険者(実力者)の卵を見つけたんだ、一度、俺と模擬戦をしてみないか?」

「は?」


 間の抜けた声を出したのは、ファラン。

 Sランクの冒険者に、息子には才能があるというのは告げられた。それは父親として嬉しいことではあった。だが、まさか模擬戦を申し込むとは思っていなかったのだろう。


「……お兄ちゃんの気まぐれが……」

「あ、あはは……」


 苦い笑みを浮かべるのは、アルファをよく知っている妹のアリュスフィアとパーティメンバーであるユウキ。レイは面白そうに笑みを浮かべているだけで、特に口出しをする様子はない。


「……わかった、やってやる」


 相手が有名人らしいというのはわかっている。だが、男として、皇国の都を目指す一人の冒険者として、ここで断るという選択肢は存在しなかった。

 彼らの会話を遠巻きに眺めていた村人たちも、何人かはアルファ達の正体には気づいている。だが、止める気配はない。

 アルファ達の評判がどのようなものなのかを知っているからこそ、アランが目指すべき壁はアルファ以上に高いので、彼との模擬戦は経験できるものなら経験しておいた方が良いという理由から、ファランもアルファ達の正体に関しては何も言わない。

 むしろ何も知らないまま戦って、後で彼らの正体を知った方がよっぽど学習になる。

 それを理解しているからこそ、村人たちは黙って見守っているのだ。

 ギルドの訓練場を借りて、彼らは向かい合う。


「じゃあ、いつでもいいぜ。……かかってこい」


 模擬戦用に用意された木剣を握り、アランは正面に立っているアルファを見据える。……そう、立っているのだ。木剣は右手に持ったまま、切っ先は地面へと向けられたまま、自然体のまま、アランが動くのを待っていた。

 その佇まいに隙は一切ない。だが、アランはその辺のことをまだわかっていない。ただ、アルファという男から感じるわずかな威圧に冷や汗をかいている。


(……父さんと話していた時から思っていたけど……本当に何者だ? というか、俺を馬鹿にしてるのか……!?)


 静かに苛立ちを募らせるアランだったが、それが良くないことだというのは理解している。だが、それほど変わらない年齢の見た目を持つアルファに馬鹿にされたように見えるのは、アランにとって許容できることではなかった。


(……よし)


 深呼吸をして落ち着くと、アランは一気に飛び出す。

 Eランクの冒険者をやっているだけあってかその速度は一般人に比べれば速い方だった。

 だが、その比べる対象が違う。

 アルファは世界でも有名なSランクパーティ『皓月千里』のリーダーだ。個人のランクも、S。

 Sランクというのは、その肩書きだけでも実力や経験は本物だ。冒険者になって二十年以上、所属ギルドの団長あるいはギルドマスターの信頼というのが、絶対条件だからだ。

 それは一般の人でも知っている事実であり、Sランクという肩書きが本物ならば信頼に値する。ましてや、アルファは世界トップクラスの冒険者所属ギルドである、ギルド・サニーズの出身だ。

 それを知っている村人は、その肩書きが持つ信頼を頼りにして、アランを任せたのだから。


「はあっ!」

「甘いな」


 バキッ、と訓練場に響く音。

 攻撃を受ける直前まで構えていなかったアルファだが、アランが剣を振り下ろすと、彼の持っている剣と交わっているのはアルファの持つ模擬戦用の木剣。

 アランが両手で振り下ろしているのにも関わらず、受け止める側のアルファは片手。

 この時点で、彼らの差は圧倒的にあるというのがわかるだろう。

 アランにしても、最初からアルファ達が只者ではないというのはなんとなく悟っていた。それが幸いして冷静に油断ならない相手だと判断できたのは、アランにとっては幸いの中の幸いだっただろう。

 すぐに後ろへ跳躍し、距離を取る。アルファは追撃をかけず、ただアランの攻撃を受ける側になるらしい。

 アランの中には、もう馬鹿にされているような感じはなかった。むしろ、アルファからは強者の余裕を感じられるようになっていた。


(無理に攻めるのは愚策だ。力押しでも技術でも、あの人には勝てない。……勝てないなら、抗うだけだ!)


 そう内心で呟いたアランの口には、自然と笑みが零れる。

 強者と戦うことは、自分の成長に大きく繋がるというのを知っているからこそ、勝てなくても、少しでも自分の糧にできるように、相手から学ぶことが大切だと理解できる。

 アランはもう一度、地面を蹴る。

 負けてもいい。負けることは恥じゃない。だが、自分に負けるのだけは大きな恥になる。

 祖父から教わった言葉は、今でも胸の内に秘められている。

 幼いころから魔術や武術の特訓をして、才能を伸ばしてきたアランだったが、まだ年若い青年であることに変わりはなく、現役のSランク冒険者に勝てるはずがない。

 それは本人が一番理解していることだ。

 自分の実力をある程度把握しているからこそ、そう冷静に判断できていた。

 そして……


「へえ」


 激しく剣を交えてくるアランに対し、アルファは少し驚いた後に、感嘆の声を漏らす。

 だがそんな中でも、アルファの足はその場からほとんど動いていない。アランの動きには無駄が多く、アルファによって隙を突かれてカウンターされては躓きそうになる。

 そんな風にしばらく攻防が続いたところで、アルファが大きく一歩下がる。それを追おうとして、アランが前に出ようとすると……


「うぐっ……!」


 ピタリ、と動きが止まる。

 アルファの木剣が、アランの首筋にピタリと当てられていたからだ。


「どうする? ……まだやっるってんなら、この後訓練にでも付き合ってやってもいいが」

「……やります!」


 アランがそう言うと、アルファは笑みを浮かべて木剣を降ろす。


「いいだろう。気に入った。アラン、改めてアルファだ。よろしくな」

「……はい!」


 差し出された手を握り、アランは元気よく返事をした。


主な登場人物


○アラン

人族 十四歳 男

この物語での主人公。剣術の使い手であり、魔術をも使う。


○ルートス

人族 十四歳 男

アラン、ミーシャの幼馴染み。槍の使い手。


○ミーシャ

人族 十四歳 女

アラン、ルートスの幼馴染み。ポジションは盗賊シーフ


○アルファ・メルリアン

然濃族 六十六歳 男

レラン王国ギルドサニーズのSランク冒険者。Sランクパーティ『皓月千里』のリーダー。


○アリュスフィア・メルリアン(フィア)

然濃族 六十二歳 女

アルファの妹。Sランク冒険者で、『皓月千里』のメンバー。


○ユウキ・ゴールデン

ハイヒューマン 六十二歳 女

レイの妻。魔術師で、『皓月千里』のメンバー。


○レイ・ゴールデン

エルフ 六十三歳 男

"白の魔術師"に憧れるAランク冒険者。精霊魔法、弓、細剣レイピアの使い手。『皓月千里』のメンバー。

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