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水の聖者~20の柱~  作者: 森川 悠梨
第一章 冒険篇、白の魔術師
19/33

港街エイスク

 昼間の短い時間でアルの珍しい態度がいくつか見られたアラン達一行だったが、今、彼らは野営の準備をしていた。


「アル、お前は怪我人なんだから休んでろ」

「は? なんでだよ。左手が使えないくらいで何もしないとか、こっちがなんだか申し訳なくなるだろうが」

「いいんですよ。昼間のオーク肉が残ってるんだし、アルさんこの中で一番歳上でしょ? 堂々と、どーんと構えてていいんですよ?」

「……だから、歳上云々はやめろって言ってんのに」

「あ、ごめんなさい」


 アルは歳上を敬えという習慣が嫌いだと昼間に言っていたことを思い出し、反射的にレイは謝る。

 だが、それは紛れもない事実だ。昔からずっと彼の傍にいた水狼達にしても、アルによって生み出された存在だ。そうである以上、アルよりも長く生きているということはあり得ない。

 他の面子は言うまでもないだろう。

 ともあれそんな感じで会話をしていると、次に割り込んできたのはウォル。


「皆様のおっしゃる通りです。アルスレンド様はお座りください」

「…………」


 ウォルにそう言われては、アルも諦めて用意された椅子に座る。

 これが、他にアラン達だけしかいなかったのなら、もう少し頑固だっただろう。だが今はアルファ達もいるのだ。

 これだけ人手があれば、自分は必要ないだろうと判断したのだ。


「……ん?」


 不意に、アルが声を上げた。そして収納魔法でしまっていた水晶型の魔道具……《連絡用魔水晶コーリングクリスタル》を取り出す。


「アル、それは?」


 気になって、料理を運んできたアランが問うた。アルは、魔力反応を起こして明滅している水晶に魔力を通しながら答えた。


「《連絡用魔水晶コーリングクリスタル》。遠くにいる人と話ができる道具だ」

「へえ」


 すると、アルの持っていた拳大ほどの水晶に景色が映る。それを見て、アルの眉が少し顰められた。と、次の瞬間には……


『ばああ!』

「うおっ!」


 その声に驚いたのは、アルではなくアラン。


『ははっ、驚いた?』

「……いや、驚いたのは俺じゃないけどな」


 呆れたように呟くアル。我に返ったアランは、父さん? とアルへ視線を向けて尋ねた。


「こいつは次男のリオンだ。まあ、仲良くしてやってくれ」

『ん? 父さん、その人は?』

「いつか世界に出る冒険者だよ。アランだ、覚えておけ」

『うん、わかった。よろしくね、アランさん』

「え? お、おう。よろしく」


 人懐っこく笑みを浮かべてくるリオン。アランが改めて水晶を覗き込んでみると、そこにいたのはアルと同じ白銀の髪に赤目を持つ少年だった。見た目の年齢はアルと同じくらいのようで、アルと同じ狼の耳をぴくぴくと動かしているその様子は愛らしさすらあった。

 女顔とも表現できるその顔立ちはアルにとても似ていて、人懐っこく元気なまなざしはどこか親しみやすさすら感じる。


『父さん、今度武闘大会あるけど、帰って来る?』

「ああ、そのつもりだよ。今そっちに向かってる。ああ、『皓月千里』もそっちに行くから、楽しみにしとけ」

『え!? 本当!?』


 リオンは水晶に顔を近づけ、尻尾を左右に思いきり振る。


「ああ。今一緒にいるんだけど、話をしてみるか?」

『ううん、良いよ。今ユイがいないから、俺たちだけ話なんかしたら怒られる』

「ははっ、そうか。で? 用事はそれだけか?」

『あ、待って。ちょっと父さんに訊きたいことが……』


 訊きたいこと? と首を傾げるアルだが、リオンが自分の後ろにいるアランを気にしているのを見て納得の表情を浮かべる。


「わかった。なら、ちょっと待っていてくれ」


 そう言って、アルは席を立った。


「悪い、ちょっと話をしてくるから、先に食べていてくれ」

「え? あ、ああ。わかった」


 アルは一つうなずくと、水晶を手にしたまま茂みの中に入っていってしまった。


「アラン、アルはどこに?」


 そんなアルを見たアリュスフィアが、そう尋ねる。

 それに対して、アランは首を傾げるだけだった。




「悪い」


 しばらくして、アルは戻ってきた。食事は既に始まっていて、そろそろ食べ終わる人が出てくる頃だった。

 彼の表情は少し深刻なもので、アラン達のように付き合いが短い者では話しかけにくい雰囲気があった。だが、付き合いが長ければどうということはなく、不思議そうな声でレイが尋ねた。


「アルさん、どうかしました?」

「いや、なんでもない。続けてくれ。ああ、申し訳ないんだけど、今は食べる気分じゃないんだ。片づけてもらって、構わない」


 そう告げる彼だったが、その様子はどう見てもなんでもないといった雰囲気ではない。

 水狼エクロスと白夜、極夜の三匹を呼んでアラン達から少し離れた場所に向かうと、ウォルも――主より先に食事を開始するのは失礼だと言って食事はまだしていない――主の後をついて行った。

 だが他の者が口を出せる状況ではないと思ったのか、アルファ達は小さくため息をついてそのまま食事を再開した。


「……あの、良いんですか? アルをあのまま、放っておいても?」

「ああ。むしろ、放っておいた方が良い。ああいう雰囲気になったアルは、一人で考えたいと思っている時だ。必要ならその内話してくれるだろ」


 ルートスの問いに、アルファはあっさりとそう返すのだった。

 その言葉に納得はできなくとも理解はしたので、アラン達三人も不承不承ながらも食事を再開した。




「……アルスレンド様」

「ああ。急がないといけない。ウォル、アラン達をアルファに一時的に任せて、先に行くぞ」

「かしこまりました」

「アルさん、先に行くって……?」


 テントの中に入ってきたレイが、そう告げる。


「悪い。俺たちは先にコペルへ先行する。その間、アラン達を任せられるか?」


 ちょうどいいとばかりにそう尋ねたアルだったが、レイは水臭いと呟いてから問い詰めるべくアルに歩み寄っていった。


「何があったか教えてくださいよ。何かあるなら、俺たちも協力しますって」

「いや、今回は俺たちの問題なんだ。悪いけど、今は教えられない。アルファには伝えておいてくれ。ウォル、行くぞ」

「はい」


 そう言って、アルとウォルの二人は走り出し、本来の姿に戻った水狼と白夜にそれぞれ跨り、極夜も水狼や白夜と同じくらいのサイズになって、飛び立っていった。


「ちょっ、アルさん!」


 レイが叫ぶが、彼らはそんなレイの言葉さえ気にせずコペル王国がある方向――東の方向へと向かって行ってしまった。


「もう、本当に水臭いんだから」


 拗ねるように呟くレイだったが、内心ではアルとウォルを心配していた。アランが、アルと彼の息子が連絡を取っていたらしいと言っていた。もしかすると……というか確実に、それが関係しているだろうとレイは思っていた。


「アルの奴、また一人で行きやがったな。……ああ、ウォルや水狼エクロス達もいるから二人と三匹か」


 そんなレイに、アルファが近づいて行く。

 なんとなくこんなことになるだろうというのは本能で感じ取っていたので、特に驚きはない。


「まあ、向こうに行ったらきっとわかるさ。ゆっくり行こうぜ」

「……そっすね」


 小さく返事をし、レイはアルファと共にアラン達へとアルの件を伝えるのだった。


 *


「うおー……す、すげー……」

「あまり乗り出しすぎるなよ。落ちるからな」


 初めて船に乗るというアラン達に、アルファが注意する。

 アルと別れて数日後。アラン達一行は、ラトス皇国の港街からコペル王国への直航船に乗っていた。

 現地へは八日程らしく、その間はそれなりに退屈するのだとアルファが言っていた。

 海の上に立つということが初めてなアラン達にとって、それはないだろうと思っていたのだが……数日後には、アルファのその言葉を体で理解することになる。

 最初の感動が大きく、これまでに体験したことのない退屈だっただけに、三人にとってこの船旅はとても……そう、とても退屈で長いものとなった。

 みんなでゲームしたり雑談したりして時間を潰し……ようやく、コペル王国が見えてくるのだった。


「や……やっと着いたああ!」

「長ったあああ」

「うー……」


 三者三様の反応と言ったところで、コペル王国のある東大陸を見て喜んでいるルートス、これでやっと退屈から抜けられると笑みを浮かべるミーシャ。アランに至っては、もう船は勘弁とばかりに甲板の手すりにぐったりとしていた。


「さ、コペルについたらまずは馬車を借りて王都まで行くぞ。エイスクの街から他の街に行く場合、山脈、山、森が壁となっているから、それなり準備が必要だぞ?」


 コペル王国の港街エイスクは、周りを海、山脈、山、森に囲まれている。そのためか、昔は他の国に攻められにくい地形からかつて王都だった。

 そのため街というよりは都市の規模があるが、街の人間が港街として機能したいのだと主張し始め、今は都市ではなく、港街としてコペル王国で機能していた。

 港街で捕れる魚は、エイスクと同じく森や山に囲まれたラーリングの街以外は転移門を使って王都近くまで運んでいる。

 漁業が盛んなのは、主にこのエイスクの街なのだ。


「うあー!」

「やっぱり、地面の上が良い……」

「新鮮だなあ」

「父さん! 父さん! 串焼き、串焼きだよ! 買って!」

「待て待て、落ち着け」


 ロイもやはり子供なので、船の上は退屈だったのだろう。いつも以上にはしゃいで父親であるレイに串焼きを買えとせがむ。

 レイがアルファへと視線を向けてみると、間もなくうなずいた。それを見て許可をもらったと判断したのだろう。息子を連れて串焼きを売っている屋台へ、ロイに引っ張られていった。


「串焼き、か。船にもそれなりに食べ物が売ってるところはあったけど……」


 そのほとんどが、海で捕れた捕れたて、新鮮の魚だった。もちろんそれらも美味しかった。美味しかったのだが……さすがに八日も連続で食べていれば飽きてくるというのもある。

 そのため、魚というイメージを持つアラン達は港街での食事があまり進まなかった。


「ほら、宿を取ったら食材と、馬車を借りてこないといけないんだからな。食材はこっちが持ってるやつ以外、アルが全部持って行ってしまったからな」

「それだけ慌ててたんでしょうけど。にしても、珍しいわよね?」

「確かに。アルさんなら、どんな時でも冷静ってイメージがあるんだよね」

「まあそれは俺も否定しないかな。だって、あの人いつもは無愛想じゃん?」


 串焼きにしゃぶりついているロイを連れたレイが戻ってきており、彼らの会話に割り込む。

 普段のアルは感情をほとんど表には出さない。それ故に無愛想だと思われがちだが、実際は本当に何も感じていないのだ。

 アルは感情の起伏が激しいのだが、感情も感じなければ表には現れない。急に笑い出す人間がおかしいのと同じようなものだ。

 レイもそれは理解しているのだが、ここにはアルとの付き合いがまだ短いアラン達三人がいる。アルのことは自分たちで感じ取れた方が良いだろうと、敢えてそれを教えないだけなのだ。

 ともあれ、アルファが他に何か買いたい物はないかと確認を取ったが誰もいなかったので、彼らは宿を探しに街の中へと繰り出した。

 元々王都だったということもあり、その名残は当然ある。

 例えば、中央に聳え立っている城跡は歴史の一ページにも刻まれた宮殿の名残だ。今もしっかりと掃除までされて管理されている。

 実は、王族がこの街を訪れた際にはあの城跡を寝泊りの場所として使っていたりする。


「まあ、一泊するだけだし、そんなに高いところじゃなくてもいいよな」


 アルファ達はSランクパーティとして活動している。そのため、金銭にはかなりの余裕があるのだ。

 それこそ、このメンバーで一生遊んで暮らせるだけの財産を持っている。……もっとも、その一生というのはあくまで人間の寿命で、なのだが。

 だからアラン達三人の食費や宿代を代わりに出すくらいは痛くも痒くもないのである。


「ここが良いんじゃない?」

「そうだな、じゃあ入ろう」


 アリュスフィアが適当に宿を見つけ、アルファがそれに従って中に入っていく。

 それなりには高めの宿だが、それだけに十分寛げそうな宿だった。

 その後手続きをして馬車を明日の朝に予約すると、それぞれ分かれて担当になった食材を買い溜めていく。それなりに多めに。

 普通なら干し肉や焼き固められたパンなど最低限のものしか買わないのだが、アラン達の場合はユウキの収納魔法と高い戦力揃いということもあり、旅の道中でのんびり食事をするといった真似が可能だ。

 もちろん、万が一ということも考えて干し肉や焼き固められたパンも買うのだが、おそらく食べる機会はないのではないかとも思う。


「ま、こんなもんか。戻ろう」

『はい』


 アルファと買い物をしていたアランとルートスが短くそう返す。

 彼らの担当は肉であり、魚はもちろん、魔物の肉なども買ってしまった。

 肉はパンや野菜などと比べても傷みやすいので、買ったらすぐにユウキの下へと持って行った。

 アルファは然濃族ねんのぞくなので魔力がなく、魔法どころか魔道具すら使えない。だから収納魔法も使えないので、さっさと持って行かないとそれだけ味が落ちてしまう。

 だから、アランやルートスを伴って急いで持って帰るのだった。


 *


「……高いな、馬車って」

「そりゃあそうだ。本当は買った方が良いんだろうがな。前に使ってたのはシノ……じゃなかった、アルのだし」


 思わず、シノン、という名を出しそうになり慌てて修正するアルファ。だがそれを聞いていたアランとルートスは疑問に思うわけで、首を傾げてルートスが尋ねた。


「シノ?」

「いや、こっちの話だ。気にするな。それより、武器の状態は確認したか?」

「ああ、はい。まだ使えそうです」

「そうか。一応お前たちの予備の武器をアルから預かってるんだが……どうする?」

「どうする? って言われても」

「……まあ、ちょっと心許なかったら言えよ。今のがまだ使えそうだったら、無駄に持っててもな」


 苦笑いを浮かべてそう告げるアルファは、まだ使わないのなら持っていても意味はないだろうと判断する。理由は、アルに預けられたそれぞれのにあった。

 彼らの戦い方にそれぞれ合うものをアルが直々に選んだものだ。それを見て、アルファは驚いたものだ。

 Sランク冒険者として活動している以上アルファにも三人のために用意されたその武器を一つや二つ買うことは難しくない。

 だが、さすがに三つ……ミーシャのいくつかの短剣も合わせると全部で三組、と言った方が良い武器のセットは、さすがにアルファの個人の金ではとてもではないが買えないような……いや、正確に言えば買えるのだが、余裕がなくなるような代物だ。


(さすが、SSランク冒険者ってか)


 彼らにアルが用意したのは、魔道具――つまり魔剣や魔槍だった。

 アランは魔術師で、まだそれを使いこなせていない。ならば今のうちは魔剣を使ってそれを補えばいい。上手くいけば魔術剣士になれる。

 ルートスは魔力量は少ないが、属性の適性はしっかりと存在している。だから、アランと同じくその適正属性……命属性の効果のある魔剣を彼に用意した。

 ミーシャは、闇と風の適性があった。だが、それを活かすなら盗賊としての技量次第だ。そこは後に自分が鍛えるつもりだったので、今は投擲した後に自分の下へ戻ってくるという効果を持つ短剣三本を用意した。

 これだけの代物を、アルは一人で、短時間で用意したのだ。そこはやはりSSランクとしての伝手か、あるいは腕か。

 さすがにここまでの武器を全部、アルファは自分の金で買えるような気は全くしなかった。やはりパーティで活動している以上、依頼の報酬をみんなで分け、更にパーティ全体の金としていくらか残しておかなければいけないということも関わってくる。

 対してアルはほとんどソロだ。ウォルもいるのだが、彼は技量はともかくランクはBだ。どうしても一緒には行けない依頼があるだろうし、その場合は高い報酬が丸々アルのものになる。

 そうなれば、アルの儲けはアルファたち以上になるのだろう。

 そう考えれば、このくらいはそれこそ痛くも痒くもないのだろう。……まあ、最初から武器を渡して武器ばかりに頼らないようにとしたのは、世界に飛び出させるための教訓だとも取れるのだろうが。

 ともあれ、明日ようやく目的地である王都へ旅立つ一行は、英気を養うために宿で休むのだった。


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