森ノ中
ポツンと、雨粒が鼻の頭に落ちてきた。
「あ、雨」
少年はふっと天を仰いだ。曇天の空から細かな雨がぽつぽつと降ってくる。それが木の葉を伝い、少年へと落ちてきた。
「デュオ、どこかに雨宿りできる場所はないのか?」
不機嫌な声が少年の耳元で聞こえた。デュオと呼ばれた少年は、自分の肩にのっている鴉の頭にぽんっと手を置き苦笑した。
「こう森の中だと家も無いよ。どこかに洞の空いた木でもあれば、そこで雨宿りできるんだけど」
鴉はぶるっと体を震わせて水滴を払った。
「こう毎日毎日雨だと嫌になる」
「しょうがないよ、今は雨季だもの。ほらネロ、鞄の中に入って。ここならまだ濡れないだろう」
デュオが肩から提げている鞄を開けると、ネロと呼ばれた鴉はすぐさまその中に入り込んだ。そこから顔だけ外に出す。
さて、どうしようか。デュオは近くにあった太い木の幹にもたれかかった。木の陰に入れば木の葉のおかげで少しは雨をしのぐことができる。だがいつまでもこうしているわけにはいかない。雨に濡れた体からどんどん体温が奪われていく。早くどこか温かい場所に行かないと風邪をひいてしまう。
デュオは困ったような表情で空を見上げた。雨は徐々に激しさを増し音を立てて地表に降り注ぐ。しばらくは降り止まないだろう。どうしたものかとデュオが思案していると、ふいにネロがぴくりと動いた。
「…人の声が聞こえるぞ」
「ほんと?」
デュオはほっと胸をなでおろす。うまくすればその人の家に一晩泊めてもらえるかもしれない。
「どこから聞こえてくるの?ネロ」
「あっちだ」
ネロは顔を声が聞こえてくる方へ向けた。
「それじゃちょっと行ってみよう」
デュオは木の幹から離れると、雨を避けるように木の陰を伝って歩きだした。
「ねえ、ほんとにこっちから聞こえてくるんだよね」
しばらく無言で歩いていたデュオは、ふと疑わしそうにネロに顔を向けた。
「ああ、こっちから聞こえてくるぞ」
デュオに疑われたネロはむっとした声で返す。
「でも、全く人なんて見当たらないよ。というより、どんどん森の奥へ向かっていく気がするんだけど」
不安気にデュオは周りを見回した。先に進むごとに木々の緑が濃くなっていく。地表の至る所にうねうねと木の根が這いだしとても歩き辛い。
「もしかして森に棲む魔物とかじゃないよね」
デュオが苦笑しつつ冗談めかして言うと、ネロはにやりと笑った。
「それも面白そうだな。お前の魔法がどこまで通用するか戦ってみるのもいいんじゃないか」
「やだよ。僕の魔法は戦いには向いてない」
「よく言う。師匠に散々仕込まれていたくせに」
そこまで言ってネロは言葉を切り、警戒するように左右を見回した。
「おい、人の声っつうか歌が聞こえるぞ」
「ほんとだ」
デュオの耳にもか細い声が聞こえてきた。途切れ途切れにしか聞こえないのでよく分からないが、旋律にのせて歌っているように聞こえる。先に進んでいくごとに、その歌声ははっきりと聞こえ始めた。
「綺麗な歌声だな」
ぽつりとネロがつぶやいた。
「うん」
デュオも同意して頷く。森に響き渡るその歌声は、思わず目を閉じ聴き惚れてしまうほどの美しいものだった。透明感のある歌声は直に心へ触れてくる。
「でも、切ない歌だね」
その歌は、遠く旅立った恋人を思う歌だった。美しい歌声と切ない歌詞が相まってデュオの心に響く。束の間デュオは目を閉じ、その歌声に酔いしれる。
「おい、なにぼーっとしてんだ」
急に立ち止ったデュオにネロはしかめ面を向ける。
「とっとと進むぞ」
「わかってるよ」
森の木々はいよいよ密度を増し、獣道さえ見当たらなくなった。木々が密集しているおかげで雨に濡れることはなくなったが、夜かと疑うほど辺りは薄暗くなっていた。
「だいぶ暗くなってきちゃったね。これじゃ歩くのに危ないな」
そう言うとデュオはパチンと指を鳴らした。するとどこからともなく淡く輝く光の球体が、ふわりと宙に現れた。光の球体は森の中を明るく照らし出す。デュオが歩くと光の球体もふわふわと後をついてきた。
そのままデュオは歌声に導かれるように森の奥へ奥へと進んでいった。森は歌声とデュオの靴音以外何も聞こえない。しんと静まり返り、息を殺してデュオ達を監視しているようだった。
「あ」
突然前が開け、大きな屋敷がデュオ達の目の前に現れた。デュオは立ち止り屋敷を見上げた。屋敷は二階建てで、屋根には2本の煙突がのびている。屋敷の周りにはデュオの背丈の2倍ほどの高さがある塀が囲っており、デュオの正面には黒い扉がついた門があった。門の扉は不用心にも開け放たれている。
デュオは一歩進み出た。デュオを誘う歌声はこの屋敷の中から聞こえてくる。
「…中に入る?」
「当たり前だろ。ここまで来て怖気づいたのか?」
「いや、なんかこれ罠みたいだなって思って」
「罠?」
ネロは小馬鹿にしたように笑った。
「誰が何のために罠を仕掛けるんだよ?」
「分からないけど、でも何でこんな所に立派な屋敷があるんだろう?誰がこんな所に住んでいるの?ネロが言ったように魔物かもしれない。よく物語に出てくるじゃん。道に迷った旅人を美しい声で誘う魔物が。この歌声だって、魔物のものかもしれない」
「もしそうだったとしてもだな、お前はこの歌声の正体を突き止める義務がある。そうだろ?女王の使いさん」
ネロに言われデュオはたじろぐ。
「女王に報告しなくていいのかよ」
「…わかったよ」
デュオは諦めたようにため息をつき、用心しながら門をくぐった。門をくぐると広い庭が広がっていた。庭の芝は丁寧に刈り込まれている。庭の真ん中には池があり、清らな水をたたえていた。屋敷の前には花壇がおかれ、白、赤、黄、紫などさまざまな色の花が植わっていた。ここが森の外にあったのならこの見事な庭に見惚れていただろう。しかし薄暗い森の奥では、この美しい庭はあまりにも異様だった。
「この暗い中よく花が綺麗に咲くね」
「魔法だろ」
デュオの疑問に間髪入れずネロが答える。
「やっぱりそれしかないよね」
「魔物じゃなく、悪い魔女が棲みついてるかもしれないぞ」
そう言ってネロはデュオを脅すように悪い笑みを浮かべた。
足早に庭を横切り、デュオは屋敷の入り口で立ち止った。入口の扉にはライオンの頭部を模した金のノッカーが付いており、それは鋭い牙で金の輪を咥えていた。デュオはその輪に指を掛け、2、3度扉を打った。数秒待ったが反応は無い。もう一度ノッカーを鳴らしたが人が出て来る気配は無かった。
デュオは試しに扉を押してみた。すると扉は難なく動き、デュオ達を中へ導く。デュオはするりと中に入り込み後ろ手に扉を静かに閉めた。屋敷の中は真っ暗で、デュオが出した光の球だけが唯一の明りだ。玄関の左右に廊下がのびていたが、闇に紛れ奥の方は見通せない。デュオは束の間ネロと顔を見合わせると、歌声が聞こえてくる右側の廊下を選んで歩き出した。
歌声は森にいたときよりもずっとはっきり聞こえてくる。デュオが歌声に近づくほど、その歌はデュオの心の奥へと入り込んできた。先へ進むにつれデュオは表情を険しくしていった。歌に共鳴し、心が震える。それはとても心地よく全てを忘れてずっとこの歌を聴いていたいと思ってしまうほどだ。だが理性がデュオに警告を発する。この歌に身をゆだねてはいけないと。しかしその警告も次第に薄れていっている。デュオは必死に心の中で歌声と戦っていた。自我を失わないように。
「おい、ここに階段があるぞ」
ふいに耳元でネロの声がした。はっと我に返り、デュオは階段の方を見やった。廊下の右側に壁に挟まれた細い階段が上へと続いている。歌声は階段の上の方から聞こえてくる。光の球の明かりは上部までは届かず、暗闇に覆われて先が見えない。デュオは足を掛け階段を上り始めた。木で出来た階段は、デュオが上る度にギシギシと音をたてた。デュオが階段を上り切ると2階の廊下にでた。廊下は左右にのび、歌声は左側から聞こえてくる。
「ねえネロ、やっぱりこれ魔物が歌っているんじゃない?だってさっきからこの歌途切れることなく続いてるよ」
デュオは左へ向かって歩き出しながらネロに声を潜めて恐々と言った。ネロも同意して頷く。
「だな。少なくとも人じゃなさそうだ」
ネロは気持ちを引き締め廊下の先へと進んだ。
無言のまま歩き続けると、ふと光の球に照らし出された扉が目の前に現れた。歌声はこの扉の奥から聞こえてくる。デュオはノブを掴みゆっくりと回した。
扉はギィと低い音をたて開く。
「え…」
デュオは扉を開けたまましばし固まってしまった。あまり広くない部屋の中に、青年からお年寄りまで幅広い年齢の何人もの男達が床に座りこんでいた。皆一斉に窓際の方へ顔を向けている。デュオが窓際の方へ視線をやると、一人の少女が窓に背を向けて歌っていた。少女の歌声は今まで聴き続けていたものと同じものだった。
「この子が歌っていたのか」
デュオはしばし少女を見つめた。月の光のような銀色の長い髪を背に広げ、少女は瞳を閉じ両手を前に掲げて歌声を響かせていた。
「おい、こいつら変だぞ」
男達の頭上を旋回しながらネロが言った。
「こいつら死んだ魚の目をしてんぞ。どうやら正気を失ってるみたいだな」
「えっ」
デュオは急いで男たちの前に回りこみその顔を見た。男たちは締りなく口を半開きにし、虚ろな双眸を少女に向けていた。そして皆一様に痩せこけている。頬は落ち窪み、鎖骨がくっきりと浮き出ていた。
「こいつら、いつからここにいるんだ」
デュオの肩に飛び乗ると、ネロは険しい目つきで男達を見た。
「昨日、今日ここへ来たわけじゃなさそうだね」
デュオはつと少女の方を見やった。
「あれの歌に誘われてきたんだろうよ」
ネロが呟き、デュオは少女からそちらへ視線を移した。
「あれの歌声から魔力を感じる。魔力があいつの歌に変な力を持たせてんだ。ここにいるやつらは、魔力をもった歌声を聴いて正気を失ってしまった。あの歌が続く限り、ここにいるやつらは死ぬまでずっとこのままだ。…彼らを正気に戻すにはあいつを壊して歌を止めねーと」
「え、壊すって…」
デュオは驚いた表情でネロを見た。
「あいつは生きているもんじゃない。あれは絡繰人形だ」
デュオは大きく見開いた目をさらに大きくし、少女の方を見た。
「信じられない。生きているかと思ったのに」
「ああ。ほんとに生きているみたいだな。これほど精巧に作られた人形は見たことない。だが、これを作ったのが魔法使いっていうのは質が悪いな」
ネロの言葉にデュオは頷いた。
「魔法使いが何かを作ると意図しようとしまいと作られた物に微量の魔力が流れ込んでしまう。流れ込んだ魔力はどんな作用をもたらすか分からない。だから魔法使いは物を作ってはいけない。作ったとしてもすぐに壊さなきゃいけない。…って師匠から散々言われた」
「ああ。ちゃんと覚えてるじゃないか」
「そりゃことあるごとに言われもの。すでに作られた物に魔法をかけるのはいいが、自分で何か物を作ろうとはするなって。でも、あの子を作った魔法使いは…」
「壊せなかったみたいだな」
デュオは悲しそうな顔を少女に向けた。
「これほどの物を作ってしまっては、壊せないのも分かる気はする。でも、あの子を作った魔法使いはせめて世に出さないようにあの子をこんな森の奥に隠したんだね」
「だな。で、どうやら自分もここに住んでいたみたいだな」
人形を置いておくためだけだったらこんな大きな屋敷を建てる必要はなかっただろう。ましてや、庭を整えたり屋敷に生活家具を置いたりする必要はない。
「この子を作った魔法使いはどこにいるんだろう」
「死んだんだろうよ」
「え、でも、まだ魔力は残っているよ」
「強い魔法使いなら自分が死んだ後もしばらくは魔力を残せる。…もし魔法使いが生きていたとしたら、こいつらをここへ来させるようなことはしなかったはずだ。人に見つからないようにするために、あいつをこんな森の奥へ持って来たんだからな」
座り込む男たちを見まわしながら、ネロは言った。
「あいつは魔法使いが死んだ後も歌い続け、猟や木を切りに森へ入ってきたこの男達は運悪くこの歌声を聞いてこの屋敷まで誘われちまったってことだろうよ。デュオも誘われた内の一人だってわけだ」
そう言って耳元で笑うネロに、デュオはむっとして言い返す。
「先に歌声に気づいたのはネロじゃないか」
「そうだったか?」
けろりと言うネロにデュオはため息をついた。
「んじゃデュオ、あの絡繰を壊して早くあいつらを正気にさせろよ」
「はいはい」
デュオは男達の脇をすり抜けて少女の目の前に立った。そっと腕を伸ばし少女の喉元に手を当てる。
「この子の核は、たぶん喉だと思う。喉を壊せば魔力が外に発散されて、魔力の効果が消える。そうすれば、この人達も元にもどると思う」
そうは言ったがデュオはなかなか動こうとはしなかった。
「でもやっぱり壊すのは何だか可哀想だな。この子には罪ないのに。ねえネロ、壊す以外に方法ないかな?」
ネロはあきれたとでも言うように肩をすくめた。
「お前はとんだ甘ちゃんだな。お前の魔法でこの魔法を打ち消せるならいいが、そんなことできないだろ?」
「…うん」
デュオは力なく肩を落とす。
「なら壊すしかないだろ」
デュオは無言で頷くと少女の喉に指先を当て神経を集中させた。指先は徐々に熱をもっていく。指先から黒く細い煙が出る。デュオは指先の熱で少女の喉を焼いていった。少女は喉を焼かれながらも美しい声で歌い続けている。
デュオは唇をかみ顔を歪めた。ふと、自分のしている行為に寒気を感じた。その寒気を抑えこみ、デュオは指先に集中する。とその時、デュオの手に何か冷たいものが当った。驚いて指を離し少女の顔を見る。少女の両目に涙が浮かんでいた。いつの間にか歌が止まっている。デュオがあっけにとられて少女を見つめていると、少女はふっと両目を開いた。紺碧の瞳がデュオを見据える。
「死にたくない」
僅かに唇を震わせ、少女は呟いた。
「ネロどういうことっ?この子人形じゃないの?」
デュオは驚いての肩に乗るネロを見やる。
「人形だよ。…驚いたな、魔力が人形に命をもたせたんだ」
ネロも予想外だったらしく、ぽかんと口を開けて少女を見ている。
「死にたくない」
先ほどよりもはっきりと、少女はデュオに言った。デュオは痛みをこらえるように顔を歪め、少女と向き合った。
「君は、ずっと歌わないでいられるかい?」
デュオの問いに少女は何も答えずじっとデュオを見つめる。
「君の歌声には魔力が秘められている。だから君の歌声を聴いた人は正気を失ってしまう。彼らのようにね」
デュオは後ろを振り返り男達の方を見やった。少女もデュオの後ろへと視線を移す。少女は目を見開いてはっと息をのんだ。その様子をデュオは同情のこもった眼差しで見つめた。
「君が意図してやったわけじゃないことは分かっている。だけどね、君が歌い続ける限り彼らは元に戻らない。…でも君は、歌うことを止めることはできなよね。歌うために生まれてきたんだから」
少女はうつむきこくりと小さく頷いた。
「壊れるまでずっと歌わないなんて耐えられない。…歌うことは、私が存在する理由だもの」
ふっと息をつき、デュオは少女から目を離した。
「どうすんだ?ますます壊せなくなったな」
ネロの言葉にデュオは頷いた。
「うん、やっぱり無理だった」
「それでどうすんだ?このまま放っておくつもりか?」
ネロに言われデュオはにっと笑った。
「それなんだけど、ネロ、良いこと思いついたよ」
デュオは少女に向き直ると優しく声をかけた。
「ごめんね、もう壊すなんて言わないよ」
びくっとし、少女は顔を上げデュオを恐々と見つめた。
「ほんとに…?」
か細い声で問う。
「うん。そのかわり、今まで歌っていた歌とは違うものを歌ってほしいんだ。もっと、明るくなれるような歌を」
「明るくなれる歌…」
「君を作ってくれた人は、君に一つしか歌を教えてくれなかったのかな?」
少女は大きく頭を振った。それから目を閉じると唇を震わせ、先ほどとは違う歌を歌い始めた。サクラは歌を奏でる少女の喉元にそっと手をのせる。しばらくして手を離すと、赤く焼けただれていた喉が元のきめ細かい白い肌へと戻っていた。
少女の歌声は部屋に満ち溢れ、男達の間を流れていく。温かく勇気を与えてくれるその歌は、ゆっくりと男達の心に染みこんでいった。
「おい見ろ」
ネロに言われデュオは男達の方を振り返った。虚ろな目をしていた男達は夢から覚めたように、目をしばたたかせてぼんやりと辺りを見回していた。
「よかった」
デュオはほっとため息をついた。
「どうして…?」
少女は歌を止め、驚いた顔で男達を見つめた。
「歌がいけなかったんだよ」
デュオは少女に微笑みかけた。
「悲しい歌が彼らの心を失わせていたんだ。だから明るい歌を歌ってマイナスに働いていた魔力をプラスにかえ、彼らの心を取り戻したんだ。魔力も使いようだね」
少女は戸惑った表情で、デュオを見つめた。
「私、歌い続けても良いの…?」
「うん」
デュオが頷くと少女は初めて笑みを見せた。春の日差しのような、温かな笑顔だった。
「でも、あんまり悲しい歌は歌わないでね」
デュオの言葉に少女はクスリと笑って頷いた。
「さてと、それじゃ彼らを森の外まで連れて行かないと」
デュオが男達の方を振り向こうとした時、ふいに窓から光が差し込んできた。今まで薄暗い場所にいたため一瞬目がくらんだ。デュオが目を開けると部屋は明るく日差しに照らされていた。
「あ、青空だ」
窓から空を見上げ、嬉しそうにデュオは叫んだ。
「ほんとだな」
ネロも窓辺から空を仰ぐ。木々の間から薄い蒼色の空が見えた。雨上がりの空はいつにもまして煌めいて見える。振り向くと、男達も眩しそうに目を細めながら窓の外を見ていた。
少女は窓を開け放ち、高らかに歌い始めた。サクラはその歌声に静かに耳を澄ませた。
「一件落着だな」
「うん。…あの子に命が宿っていてよかった。もしただ歌を歌い続ける人形だったら、本当に壊すしかなかったから」
そう言ってデュオは微笑みネロの頭を撫でた。
「今回はお前の納得するかたちに納まってよかったな」
「うん」
デュオは満足そうに微笑むと、目を閉じ少女の歌声に身をゆだねた。