友情とは
息抜きです。すみません。内容は薄くベタなやつです。それでも良ければ…。
いつもと変わらない日常の中、いつもと変わらない光景にため息をつきたいが何とか堪えて飲み込んだ。
化粧によって赤らめた頬にバサバサの睫毛。計算しつくされた上目遣いと甘えるような声色。少々、というかかなりキツい香水の匂いを漂わせ、女性誌等で評されているプルルンだかブルルンだかしている唇が忙しなく動いている。
強調され過ぎな感がある胸元と足下は、正常な男子高校生には刺激的に写り、あらぬ妄想を抱かせる事だろう。
俺には全く効果はないが。
場所は体育館裏か屋上、たまに空き教室なんかもある。今日は体育館裏だった。…そして定番の苦行…告白という名の我慢タイムへと突入する。
そう我慢、俺にとってその言葉以外当てはまらない苦行だ。
どれだけ俺が好きなのか、聞いてもいないのに切々と語って聞かせ、自分こそが貴方に相応しいと自信満々に声高々に宣言する。
それを、ただただ黙って耐え抜き聞き流す俺。
何の修行をしているのかと思ってしまう。だいたい自ら望んだならどれだけ辛い荒行でも耐えようものだが、これは違う。俺はそんなの全く望んでいないのだから。それなのに相手に気を使い、文句ひとつ言わず耐える俺を誰か誉めてほしい。
この苦行、ある意味嫌がらせに近いと俺は思う。実は俺、虐められてるんだろうか…。
友人の1人にそう相談したら、「死ね」と半眼で死の宣告を受けてしまった。
…解せない。何故俺がこのような理不尽な苦行をさせられるのか。なぜ友人から死の宣告まで受けなければならないのか。人生とはままならないものだとはよく聞くが、全くその通りだと深く同意した。
***
俺はモテているらしい。『らしい』というのは俺自信に自覚がないからだ。これはモテるというのではない。虐めだ。
同性からは羨ましいやら紹介しろ等と言われる事多数。
何が羨ましいのか…。事ある毎に悲鳴とも奇声ともいえる叫び声を上げられ、昼休みや放課後といった気を休められる時間に苦行を強いられている。ストレスとはこういうものである、と手本のような感情が常日頃つきまとう。
終始イライラと気分が大きく波打っている。
羨ましいなら替わってくれ。本気でそう思った。
その事をまた同じ友人に言ったところ、「お前、背中に気を付けろよ」と殺害予告をされてしまった。
やはり解せない。殺害予告を受けるような事を俺は言っているのだろうか?
***
そんな苦痛の日々の中、ひとつの光明を見出だした。
「そんなに嫌なら誰かと付き合えばいいんじゃないか?そうすればそれを理由に断れるし、告白の回数も少しは減るかもしれないぞ」
「知らない奴と付き合うなんて気持ち悪くて出来ないから困ってるんだ」
「なら、適当に話を合わせてくれる子を見付けて頼めばいいだろ」
「偽の恋人ってことか?」
「そうそう」
そうか、その手があったかと目から鱗だった。
友人からのアドバイス通り偽の恋人となってくれる人物を一生懸命探した。今後の安寧のためだ。気合いを入れて相手を探した。
まず三つの条件の下、願いを叶えてくれそうな女子生徒を探した。
一つ、恋人が居ない人物。二つ、容姿がそれなりである事。三つ、これが一番重要で、俺の事を好きじゃなくその気持ちを維持できる人物。
一つ目の条件にハマる人物は簡単に見付かった。
二つ目の容姿云々は、友人に付け足されたもので、理由を問うと、女の世界は厳しいんだとの一言。意味は分からなかったが、対策を考えてくれたのは彼だ。間違いはないと考え、理由の一つに付け加えた。
そして、その条件をクリアする人物となると、かなり人数が減った。
三つ目の条件…これに手を焼き、時間を無駄にした。
しかし、何とか二人候補に残ったので早々にお願いに行く事にした。
まず1人目…。簡単に言えば駄目だった。声を掛けた迄は良かったが、秘密の交渉であるため人目の無い場所に誘ったところ、今までの女子の様な態度をとってきたからだ。早々に別れを告げ、次に向かった。
二人目は…トラウマとなった。
この人物は、人気の無い場所に連れて来たまでは良かったのだが、そのあとの記憶を消してしまいたいと思う程の衝撃を俺に与えた。
まさか自分より華奢で小柄な女子に…。今後、性別に限らず人と二人きりになるときは無防備に壁に背は向けまいと誓った。
顔の横につかれた腕、目前に迫る相手の顔…と突き出された唇。
…壁ドンってこんなに怖いモノだったのか…と理解した出来事だった。
そんな感じで、偽の恋人候補が居なくなった。
…行き詰まってしまった。
***
「それは残念だったな」
放課後の教室で─真顔、棒読みで友人は語った。
俺の頑張りを伝え、気力体力共に限界だと訴えたら数分の溜めのあと溜息をつき、机に伏す俺の頭をグシャグシャと掻き回した。
「……」
「…まあ、その内周りも飽きてくるさ」
「幼稚園の頃からこの調子だ」
「…スゲーな」
「スゲーくない。…もう俺はストレスで死ぬんだ。そういう運命だったんだ。まず、ストレスで禿げ、歯が抜け落ちる。そして胃に穴が開いて癌となり、更に血便なんかも出たりして大腸も癌に侵される。その上、手術で治そうとしてもヤブ医者にあたり、手術を失敗され最後は出血多量になって手の施しようが無くなって死ぬんだ。ははははははは、どうだハゲで歯抜けで癌で手術失敗で大出血で死亡だ、参ったか」
「……」
「拝むな。まだ、死んでない」
「…いや、思わず」
「……」
「大丈夫だ。俺は故人の悪口は言わない事にしている。安心しろ」
「何故葬式での俺との思出話のネタの内容の心配をしているとお前に思われているのかが俺には分からない」
「……」
「……」
…俺達は、暫し見つめあった。
ここで互いに視線は反らさない。何故なら、お互い負けず嫌いだからだ。反らせば、負け…敗者だ。何のかって?それは分からんが…。
視線の先には半眼で見返してきている友人。こいつも俺と同じ事を考えていると付き合いから判断できる。
知り合ってまだ一年程だが、こういうモノの考え方は俺と似ている。良くも悪くもつるんでいて飽きが来ず、この友人の側を居心地良く思っている自分がいるのを最近頻繁に感じている。
…そういえば、今迄の人生の中でそんな風に思えた友人は居ただろうか?
そこまで考えて俺はふと思い付いた。
「…お前でいいんじゃね?」
「…は?」
そうだ、彼で良いではないか。この際性別なんて拘ってはいられない。それに校内に条件に合う女子生徒は居ないと確定している。
彼なら一緒に居ても苦痛はないし条件にも合う。恋人が居なくて、容姿も問題ない。そして、絶対俺の事を好きにならな…
…何故か一瞬ムカついたような気がしたがどうしてだろう…
「お前、何考えてる。何が俺でいいんだ」
「……」
「おい、聞いてるのか?」
顔を歪め口を開く友人が視界に入る。そう、友人は俺を恋愛対象として見ない。
…心の中で繰り返すと、ドス黒い靄がかかった。
だから、何なんだこの感情は…
「おい?」
いやいや、そんな事より今は今後の事を考えて計画を練らねばなるまい。心の中で広がった黒い靄を追い払う。
どうやって友人を恋人に、あ、偽の恋人か…に仕立てあげるかだ。
…………。
…恐らく友人は、素直に頼んでも首を縦には振らないだろう。面倒臭い─の一言で…。
俺が彼の立場ならそう思うしな。そこをどうするか…。
……………
…………
………
……
…いいか、もう…許可無くても。
許可もらうの面倒臭いし、勝手に恋人のふりしといたらいいや。
そう答えが出るとフッと心が軽くなった気がする。
うむ、俺って良い奴と友人になったもんだ。今迄感じてたストレスが半減した感じがする。
そうか、こういうのを─癒し─って言うんだな。
ひとつ賢くなったな。
ゆっくりと立ち上がり、俺より小柄な友人に近づく。
「じゃあ、そろそろ一緒に帰ろうか」
「何だ突然。俺の質問に対する答えはないのか。それに一緒?今迄一緒に帰った事なんてなかっただろ。それと、何で俺の腰を抱いてる?その崩壊している顔面はなんだ!」
フッ、楽しい奴だ。顔から湯気が上がりそうな程混乱しているな。
「可愛い」
「!!」
少し体を屈めて友人の耳許で囁いた。
じわりと涙目になった友人が、パクパクと酸欠金魚となってしまった。
それを視界にとどめ、ふわふわと浮かび上がるような感情が俺を支配するのが分かる。
…悪くない。
友人の腰を更に引き寄せ、もう片方の腕で背中を抱き寄せる。
「うぎゃっ!!」
カエルが潰れされたような声を出し、抱き込まれた友人は俺の制服の胸元でモガモガと何事か叫んでいるが、顔も胸元に押さえつけ腕に力を込めたら声が小さくなった。
両手で俺の胸を突っ張ろうとしていた様だがそれごと抱き締めてやった。
「お願い。一緒に帰ろ?」
腕の中の俺の癒しに再び耳許で囁くと、途端に友人は動きを止め無言となった。
「いい?」
もう一度問いかけると、微かに、僅かに頭が上下するのが見てとれた。
「ありがと」
わざと音を立てて友人の頭頂部付近に口付けを落とした。
ビクリと腕の中の友人は反応したが、反応はそれだけでまた動かず静かになった。
ああ気分が良い。
さっきまでの鬱々とした気分は何だったんだ。それもこれもみんなこの友人のお陰だ。俺は腕の拘束を解き、体を傾げながら友人の顔を覗き込んだ。
「今!…見ん、な!」
そんな俺に、友人はアイアンクローをかましてきた。
…地味に痛い。
でも、チラリと見えた友人の顔色と表情に…俺の目尻が下がり口角が上がる。
「ふふ…。耳まで赤いな」
「るせー!誰のせいだ!」
そうか、俺のせいか。
こいつはこれ以上俺を浮わつかせてどうしたいんだ。
「何なんだ、ったく」
ブツブツと文句を良いながら、でも何とかいつもの調子を取り戻した友人は自分の鞄を引っ掴んで教室の扉へと向かった。
「早くしろよ。帰んだろ」
それを黙って見ていた俺に、友人は振り向かず背中越しに声を投げて寄越した。
「今行く」
そう返した俺を、振り返って見た友人の顔が再び朱に染まった。
「!、その顔っ、っ何なんだよさっきからっ!」
「?、何が?」
「っ、何でもない!」
「?」
ドカドカと足音を響かせながら歩きだした友人の後を俺は慌てて追いかけた。
おお、後ろから見ても分かるな。耳まで真っ赤だ。
そんな珍しい友人の後ろ姿を見ながら、俺は足取りも軽く廊下を歩きだした。
***
『…なんだったんだ、あいつら…』
『…さあ…』
『ねぇ…何か…』
『『…だね』』
***
クラスメイト達が教室の中でそんな会話がされていた事など知る由もない俺は、傍らにいる友人を見つめていた。
「…~いい加減にしろよ!」
「何が?」
「お前のその顔!そんな視線向けてくんな!」
「俺の顔は生まれてきたときからこの造りだ」
「そういう意味じゃない!」
「ならなんだ?」
「~~~~…もういい!俺の事あんま見んな!」
「…努力はしよう」
あからさまに肩を落とした友人を眺め、俺は今迄味わったことがない程の幸せな気分を感じていた。
ああ、これから毎日が楽しくなりそうだ。




