第一話 虫カゴからの精霊さん
「もう、歩けるんだ」
「みたいだな」
あの事故から5日程。
俺は持ち前の自己治癒力でありえない速度の回復を見せた。
医者が超ビビってた。
「雷人ー!元気ー!?」
親だ。うるさい。
「そう毎日来なくていいし、俺にばっか親来てたら親いねぇこいつがアレだろ」
そう。少女はあの事故で親が死んだのだ。
「あ、その事なんだけど……」
母さんが話し出したのは、誰でも「ナニソレ!?」って反応をしそうな話だった。
端的に言うと、少女がウチの家族になりました、だって。
「その子、輝って言うんだけど、事故で親族が居なくなったって言うから私たちが引き取ったのよ」
「じゃこいつは今日から俺の妹か」
「そう言う事になるね!お兄ちゃん!」
「受け入れ早っ!?」
こうして輝は「八岐輝」に。
俺の妹になりましたとさ。
──3年後。
大学行く気の無い俺は夏休みの自由研究を行なっていた。
「ヒトデって……うわ!マジで胃袋出した!」
そこへ、同級生との間でブームになっているという虫取りをしていた輝が帰って来た。
最近の中1ってそういう事やるのな。
「お兄ちゃんお兄ちゃん!何が獲れたと思う!?」
「カメムシ」
興味の無い俺は適当に知っている虫の名前を上げる。
「もう!そんなんじゃこんな喜んで帰って来ないでしょ!」
「確かになぁ……。じゃアトラスでも獲れたのか?」
「そんなのいないよ……。もういいよ、これ!」
輝が虫カゴを突きつけて来た。
その中にいたのは。
なぜか正座をしている薄い膜のような羽を持った精霊だった。
「いやー、飛んでたらいきなり網被せられるんだから、災難だったよ、ほんとに」
「大きさ自由自在なのな」
自分でも、会話が噛み合ってないと思う。
でも、こいつ体の大きさが自由自在なのだ。
「範囲は決まってるけどね」
「で、……バムだっけ?お前は何の用でこんなとこに?」
俺はバムと名乗る精霊に尋ねる。
「世界を救って欲しいんだ」
「は?」
「いやだから世界を救って欲しいんだって」
「キレイに言い直さなくていい。世界を救うてどういう事だよ」
無理だろ。俺ら一般人ですが。
「もちろんタダでとは言わないよ?君たちには力もあげるし、無事世界を救えたら報酬もあげる」
「救う必要があるって時点で無事じゃ無い気がする」
「そういう意味じゃない」
なるほど。じゃあ、ああいう意味か。
「ち、力!?力って何くれるの!?」
中1のくせに厨二病に絶賛感染中の輝が尋ねる。
「ち、近いよ!例えば……魔力とか?」
「魔力!?ま、『魔法少女ミリカ☆ルリカ』ちゃんみたいな!?これはやるしかないでしょうよ!お兄ちゃん!!!」
地味にアニメの題名叫んでる。
ウチの妹はオタクです。
「ちゅ、抽選なんだけど……」
「いいや、私の運なら当たる!!きっと!!!」
結局、輝の熱意に押され、世界を救う旅に出る事になった。
「じゃまずはこの水晶に手をかざして」
「うん……何が当たるかな……」
「『魔力』……ほんとに魔力が当たってるよ!」
「ほんと!?」
輝は魔力を引き当てたようだ。
「ほら、雷君も!」
「へいへい」
「『身体能力微上昇』……あ……微妙」
「ですよね名前からして分かります」
「で、でも!全ステータスアップだから、そこまで悪くは……!!」
励ますな。みじめになる。
「じゃーこの力でちゃっちゃと世界救っちゃいましょー!!おー!!」
なんで俺の妹はこんな気楽なんだろう。