第零話 事故?いいえ大事故です。
3年前のあの日。
「映画観終わったらゲーセンでも行かねぇ?」
「そうすっか」
それは、何気ない休日。
──の、はずだった。
耳をつんざく大轟音が、平和な交差点を揺るがした。
車と車の、衝突事故だ。
「なんだあれ……」
「事故ったのか……」
周りの大人は見ているだけで、何もしない。
車から巻き上がった炎の隙間から、人が見えた。
俺より少し幼い感じの女の子だ。
「おい、日向、消防車と救急車」
「分かってるよ!……って雷人、おまえ何する気だ!?」
その場にいた、全員が慌てる。
「ちょっと、行ってくるっ!!」
俺は、炎に向かって駆け出した。
車に近づくも、予想以上に火の勢いが強い。
「クッソ……。どうにかなんねぇのか!?」
急いで辺りを見回す。
鉄の破片があった。
事故で吹っ飛んだのだろうか。
何にせよ、ちょうどいい。
「あ、結構重いわ」
俺は鉄の破片を持ち上げ、力まかせに大きく降る。
風が生まれ、炎に少し隙間ができる。
俺は迷わず鉄の破片を投げ捨て、そこに飛び込んだ。
「おい!どこだ!?誰かいんなら返事しろ!……あ、いた」
返事してもらう前に見つけた。
「おい、起きろ、すぐ逃げるぞ!」
少女が、顔を上げる。
息を飲む程の美少女だった。
実際俺も少し見惚れてしまった。
……こんな状況で。
「お兄ちゃん……誰……?」
少女が小さな口を動かし、尋ねる。
「今はどうでもいいだろそんなこと!!周り見えねぇのかお前は!!」
俺の言葉に少女は一生懸命に首を回し、辺りを見回す。
「……何……これ……」
「恐らくお前の乗ってた車が事故ったんだよ!! ほら行くぞ!!」
「うん……」
俺が背中を向けると、少女は大人しく乗っかってきた。
少女は、見た目通り、軽かった。
「さーてと、こっからどうやって出るかだな……」
改めて辺りを見回すと、一面火だ。
その中に折り重なった二台の車があるくらい……。
待てよ。
車に近づいて、その高さを見る。
いける。
俺は車のボンネットに飛び乗った。
「何やってるの……?バクハツしちゃうよ……?」
「その前に逃げるんだよ、アホ!!」
実際は火事場で車に飛び乗った俺の方がアホだろう。
でも今は。
こうするしか無い。
遂に、登車登頂成功。
だが、目的はここじゃ無い。
結構な高さがあり、火をも超えている。
「行くぞ……しっかり掴まってろよ!!」
俺は叫びながら飛び降りた。
空中で体勢を整えると、しっかりと着地する。
「ふぅ……助かった……」
「いや、まだだ……逃げるぞ……」
俺は火を凝視したまま言う。
ついさっき。
俺が車から飛び降りた時。
ガソリンに火が近づいて行っているのが見えた。
爆発する。
俺は……。
「ヤッベ……足折れたかな……」
逃げるぞ、って言っておきながら、自分の足が折れている。
「え……じゃあ、私が……うん、むっ……くぁ……はぁ」
少女が、その華奢な体で俺を引っ張ろうとしている。
いや、無理だろ。
まず年の差があるし、俺には結構筋肉がついてる。
無理だろ。
「ちょっと待て、お前は逃げろ」
「なんで!?」
「なんでじゃねぇだろ!?バカなのかお前は!!お前が死んだら俺はどうなんだよ、火に飛び込んで手にしてきたものが死体でしたって事になるのは嫌だぞ俺!!」
少女を逃がすために、暴言を吐く。
これくらいしか、方法が思いつかなかった。
「分かったよ……じゃあ、生きて戻ってきてよね……」
少女はそう、呟くように言うと、走って行った。
次の瞬間。
大爆発が起き、俺は吹き飛ばされた。
生きていた事は良かったものの、吹き飛ばされ、電柱に背中から思い切り衝突し。
──気を、失った。
近づいてくるサイレンの音で目を覚ます。
「良かったぁー。おいお前ら!雷人起きたぞ!!」
「マジで!?」
大和の言葉に、日向や建人も走ってくる。
「全く……何やってんだか……人助けようとして自分が死んだら元も子もねぇだろがよ……」
「まぁな、確かに……いって!」
もう、どう形容したらいいかわからない痛みが走る。
「お兄ちゃん……さっきは、ありが」
「気にすんな」
即答する。
「ちょ、なんで止めるの!?」
「いや、めんどくさいなと」
「相変わらずだなお前は」
「感謝くらい素直に受け止められねぇのかよ」
「られねぇのだよ」
「「「なんだお前は」」」
俺と少女は同じ救急車に乗った。
数が、少ないんだって。