七話
7・火蜥蜴の尻尾の末路
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トントン拍子に進んで二階層へ辿り着いた瞬間、先程自分達がくぐり抜けて来た転移門が突然閉まりロックされた。
再び開けようと門に手を掛けるが、押しても引いてもピクリともせず完全に退路を断たれたことになる。
「サム……これはまずいわね……こんな罠があるなんて聞いた事も無いわ。それによくよく考えれば、F級迷宮の【苔の洞窟】に転移門がある事自体を疑わなければならなかったのに、私達は順調に進みすぎて浮かれてその事を失念してたようね……」メルシーが冷静にそう分析する。
「ああ、此処は【苔の洞窟】じゃねえな。もっとランクの高い迷宮だろう。それに見ろよこの瘴気。この階層にアンデッドがいやがる証拠だ。【苔の洞窟】はゴブリンとスライムしか存在しない筈だからな」ボーシュも額に汗を浮かべながら、そう告げる。
「よし、皆急いで脱出路を探そう。戦闘は出来るだけ避けて体力を温存しよう。食料も1日分しか用意して来なかったのが悔やまれるな……」
サムがメンバーに指示を出す。
日帰りの予定だったので食料は少ししか持っていない。
何故日帰りなのに少量ではあるが食料を持って来て居たのか、それは師匠である姉のサーシェとその相棒ラボックのベテラン冒険者2人に念の為に持って居た方が良いと言われたからだ。
「そうですね、早急に出口を探しましょう」とミールも同意する。
松明であたりを照らしながら進むとまた広場に出た。
奥の方は暗くて見えないが、何かがいる事は確認出来たので、全員武器を手に取り身構える。
するとスケルトンの大群が現れた。
「なっ!?スケルトンだと!しかもあの数!やばい逃げるぞ!」とサムが叫びメンバーもすぐさま来た道を引き返そうとするが、ミールが「待ってください。此処までは一本道でした。なので引き返しても追い詰められるだけです。此処は一か八かあの群れを突破しましょう」とミールが強気に提案して来た。
「ちっ、わかった。俺が突破口を開くぜ」とボーシュは大剣を構える。
「いえ、私が魔法でまずは攻撃しますので、攻撃で空いた穴を広げて下さい」
「わかった」
「よし、なら僕が殿を受け持つよ」
「なら、私がミールを援護するわ」
作戦が決まり行動に移す。
まずはミールが魔法攻撃をする。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜『ファイアーランス』と突破力に定評のある呪文を唱えた。
作り出された長さ2メートル・太さ5センチものファイアーランスは一直線にスケルトンに向かい、正面のスケルトンを焼き貫き爆ぜた。
その空いた空間にボーシュが突っ込んで行く。
メルシーも弓を射ながらその後に続き、ミールも急いで追いかける。
殿を務めるサムも腰に普段は下げている小さな盾を構えて追いかける。
「オッラァ!どきやがれ!このっ骨野郎共が!」と横薙ぎに大剣を振るう。
2、3体が吹き飛ばされるが、その後ろのスケルトンはしっかりと盾を構えて受け止める。
「ちっ!流石にランク3の奴らだ。そう都合よく倒れてくれねぇか!」と更に腕に力を込めて吹き飛ばす。
火蜥蜴の尻尾のメンバーとランク3の魔物であるスケルトンは大体同じ強さである。
その為に数が多いスケルトン達に苦戦を強いられている。
それにスケルトン達には斬撃よりも打撃の方がダメージは大きいが、ミールの杖以外打撃武器を持っていない。
杖にしても魔法の補助が大きな役割である為に、矢鱈滅多に振り回してら折れかねないのであまり使えない。
ミールはボーシュに可能な限り支援魔法をかけて行く。
メルシーは的確にミールと進路の邪魔になるスケルトンだけを狙って倒して行く。
サムは後ろから迫るスケルトンを抑えて、必死に3人の後をついて行く。
数分、数十分、もしかしたらもっと経っているかもしれない時間をかけて、何とかスケルトンの大群を突破する事に成功した。
すぐにミールが振り返り残りの魔力を振り絞って『ファイアーウォール』を作り足止めを行う。
その隙に4人はダッシュで前へと駆け出す。
ある程度距離がひらけた所で腰を下ろして休息する。
「はぁはぁはぁ、何とか巻けたかな?」
「た、多分はぁはぁ、でもまだ油断、で、出来ないわよ」
サムの問いかけにメルシーも息を荒らげながら何とか返事を返す。
ミールは地面に突っ伏してもう一歩も動けそうになく。
ボーシュも重い大剣を背負っているのと、先頭で死力を振り絞り疲れ果てていた。
皆所々に傷を負いこれ以上進むのは無理があった。
◆◇◆◇
そんな【火蜥蜴の尻尾】のメンバーの様子をこのダンジョンの主人である、イニティウムが玉座に座りモニター越しに眺めて居た。
「ほう、まさかあのスケルトン共の群れを突破するとは予想外だったな」と少し感心を含んだ声色で呟いた。
「だが、そろそろゲームも終わりにしてDPを稼がなくてはならないからな」と呟きスクレットに思念を送る。
『スクレット聞こえるか?』
問いかけるとすぐに返事が返ってきた。
『ハッ、キコエテオリマス』
『お主に勅命を下す。スケルトン共を率いて4人の侵入者を速やかに排除せよ』
『ハッ、カシコマリマシタ。スミヤカニハイジョイタシマス』
♢♦︎♢♦︎
暫く休憩をした後4人は再び出口を目指して歩き出した。
すると目の前に鉄の扉が現れた。
此処までに分岐点は幾つかあった。
「どうする、引き返すか?」
サムが3人に聞く。
「ん〜。進みましょう。どうせ戻った所で正解とは限らないんだから」とメルシーは扉を開けて進む事を提案する。
「そうだな。はっきり言って、もうそろそろスケルトン共の大群が追いついてくる頃だ。引き返しても鉢合わせでもしたら目も当てられん」
ボーシュも進む事に賛成する。
「私は、何だか嫌な予感がします。なので引き返して別の道を探しませんか?」とミールは否定する。
「そうだね。引き返すのも───「ガチャ」
サムの言葉を遮りガチャっとした音と、ともに扉がひとりでに開いた。
4人は瞬時に身構える。
それと同時に今来た道が上から落ちて来た鉄格子により封鎖される。
「へっ、逃すつもりはねぇってか?」吐き捨てるようにボーシュが良い、それにサムも同意する。
「そのようだね。皆注意して、先へ進もう」
部屋は薄暗くほんのりと異臭がする。
部屋の中程まで進むと突如室内が明るくなった。
そこに、"それ〟は居た。
全身を赤黒い鎧甲冑を見に纏い身長は2メートル程、右手にはシミターを左手にはカイトシールドを構えた偉丈夫が。
兜の隙間から覗くその素顔は髑髏であり、目の部分の空洞には生者を憎む憎しみの炎が灯って居た。
更にその怪物の後ろには今までのスケルトンよりも立派な鎧に身を包んだスケルトン達だった。
騎士のようなスケルトンに戦士のようなスケルトンが三体ずつ、合計六体を従えたスケルトンジェネラルが口を開いた。
「キサマラノメイウンモココマデダ。オノガウンメイヲウケイレロ」と酷く聞き辛いがその声を聞いた瞬間背筋に言い知れぬ恐怖の波が迸った。
「や、やばいな。あの先頭のスケルトン。それに、後ろの奴らも今までのスケルトン達と違うな」ボーシュが冷や汗を大量に流しながらそう告げる。
ミールは己の知識の中から目の前のスケルトン達の正体を言い当てる。
「た、多分ですけど……あの先頭の赤黒い鎧のスケルトンはスケルトンジェネラルで騎士の格好をしたスケルトンはスケルトンナイト、戦士の格好をしたスケルトンはスケルトンウォーリアーか、その上位種のスケルトンキャプテンだと思います」と震えを堪えて告げる。
Level:1 〈スケルトンナイト〉
名前:ノーネーム
職業:騎士
性別:男
所属:ダンジョンモンスター
ランク:13
HP:850/850
MP:430/430
STR:745
DEX:490
VIT:510
INT:108
AGI:260
MND:110
LUK:150
-スキル-
剣術LvIII
盾術LvIII
格闘LvII
Level:1 〈スケルトンキャプテン〉
名前:ノーネーム
職業:戦士
性別:男
所属:ダンジョンモンスター
ランク:12
HP:800/800
MP:310/310
STR:760
DEX:440
VIT:485
INT:97
AGI:285
MND:105
LUK:132
-スキル-
剣術LvII
弓術LvⅠ
格闘LvII
「僕の記憶が確かなら、スケルトンジェネラルはランク16でスケルトンナイトはランク13、スケルトンウォーリアーならランク10、スケルトンキャプテンならランク12だった筈だけど間違いないよね?」合ってるか?と聞いてはいるがそれが自身の記憶違いであって欲しいと、微かな希望を抱いてこの中で一番知識の豊富なミールに問いかける。
ミールは首を横に振り「残念ながら、その通りです。私達では到底かないっこない化物達です」と告げた。
入って来た鉄の扉はいつの間にか閉まっており、多分開かないだろう。
「で、どうするみんな?あいつらの後ろにしか多分出口はないと、思うけど……」メルシーは覚悟を決めた貌をしてこのパーティーのリーダーを務めるサムを見る。
「皆すまない。僕の判断ミスだ。そのせいでこんな目に合わせてしまって…「おいおい、そりゃないぜ、サム。これは皆んなで決めたことだろ?」とボーシュがサムの言葉を遮って告げる。
それにメルシーとミールもこっくりと頷き肯定する。
「ありがとう皆。力を合わせてこの状況を乗り切ろう」と目に力を取り戻す。
それを眺めていたスクレットが再び口を開いた。
「モウ、イイカ?」
「待っててくれたのか?以外に律儀だな」とさも意外そうにサムが告げるのにスクレットは返答する。
「ナニ、タトテドンナサクセンナドヲカンガエヨウト、ソレガスベテムダダトオモイシラセテヤルダケダ」と強者の視点から告げる。
サム達はサムとボーシュが前衛にメルシーとミールが後衛に移動して戦闘準備を整える。
それに対してスクレット達は不動、最初に居た位置から動いて居ない。
スクレットが後ろに控えるスクレットキャプテンの一体に命じる。
「センメツセヨ」
そう命じられた一体は腰に下げた剣を抜きゆったりとした動作で【火蜥蜴の尻尾】の方へと進む。
4人は警戒して身構えるが次の瞬間ゆったりとした動作から、スケルトンキャプテンはサム達の目にも留まらぬ速さで眼前へと現れた。
ボーシュは咄嗟に大剣を盾にして繰り出されるスケルトンキャプテンの剣の一閃を受け止める。
しかし筋力に差があり過ぎて耐えられずにボーシュは後ろへと大きく吹き飛ばされる。
サムはボーシュが吹き飛ばされるのを見てやっと理解が追い付き、手に持った剣をスケルトンキャプテンに振るう。
それをスケルトンキャプテンは剣を斜めに構えて受け流し、サムの顔面に膝蹴りを叩き込もうとした時、スケルトンキャプテンは動作を変えてしゃがみこむ。
スケルトンキャプテンの頭上をファイヤーボールが通過していく。
更にスケルトンキャプテンは飛んで来た矢を左手の手刀で叩き落とす。
そしてサムはその隙に一旦距離を空ける。
「ボーシュ!大丈夫か!?」とサムが大声で問いかけると、ボーシュは大剣を杖にして何とか立ち上がり「ああ、まだやれる」と言い大剣を再び構える。
◆
「ほう、いつの間にかスケルトン共がランクアップしているな」さも、意外そうにイニティウムは呟く。
5日までは確かにスケルトンだった個体がランクアップして上位種に進化して居た。
どうやら素質のある個体をスクレットが自身のスキルと併用して鍛え上げた賜物らしい。
と、するとプフェルトナァに預けたスケルトン達もランクアップしているのだろうか?とふと疑問に思った。
だが、それはまた後で確かめれば良いかと一旦脇に置いた。
現在スクレットの部下であるスケルトンキャプテンと冒険者4人組の闘いに注意を戻そうとした時、再びこのダンジョンの入り口に新たな来訪者ーいや、侵入者が現れた。
こちらは5人組だ。
装備から見るにこいつらも新人冒険者だろう。
ふむ、こいつらの相手はプフェルトナァの奴に任せて見るのも一興か。
と考えているとどうやらそろそろ決着がつきそうだ。
■■■
サム達4人はすでにボロボロになって居た。
持って来て居た回復薬は使い果たし、ミールの魔力も枯渇し今にも倒れそうな程に顔は青白くなってい荒い息を吐いている。
「ぜぇぜぇ、くそ。強すぎる」とサムが愚痴をこぼす。
スケルトンキャプテンはそんなサム達に容赦なく襲いかかる。
最初の犠牲者はボーシュだ。
よく耐えたスケルトンキャプテンの攻撃についに自身の相棒である大剣が砕け散った。
「なっ!?ちくしょう!」と砕け散った大剣を放り投げ腰のショートソードを抜くよりも速く、スケルトンキャプテンの一撃がボーシュの喉笛を斬り裂いた。
喉から血が溢れ出てボーシュは倒れ伏す。
「ボーシュ!!」
倒れ伏したボーシュに駆け寄ろうとしたメルシーにスケルトンキャプテンは背中の弓を手に取りメルシーに狙いを定めて射る。
それに気づいたメルシーは腰に下げていた木の盾を構えるが、それを撃ち貫きその矢はメルシーの心の臓に突き刺さった。
口から血を流し胸から溢れ出る血を手で押さえながらメルシーも膝から崩れ落ちた。
「くそ!ミール僕が時間を稼ぐその隙に君だけでも何とか生き延びてこのことを姉さんや、ギルドのみんなに伝えてくれ!」とサムが叫びスケルトンキャプテンに突貫して行く。
この時サムは怒りや焦りで非常に視界が狭くなりスクレット達が不動で動かない事からこのスケルトンキャプテン意外手を出して来ないだろうと、半ば確信していたがそれはやはり間違いであった。
サムがスケルトンキャプテンに何とか食らいつき時間を稼いでいる間にスクレット達の後ろの出口へと回り込もうとしたがその眼前にスケルトンナイトが立ちはだかる。
ミールが諦めて立ち竦む間にサムはスケルトンキャプテンに胸を貫かれて絶命した。
サムから剣を引き抜いたスケルトンキャプテンはミールの方へと向かってゆっくりと近づいて行くが、ミールは逃げもせず腰の短剣を引き抜き半ばヤケクソ気味にスケルトンキャプテンに突貫して行った。
スケルトンキャプテンはすれ違いざまに一閃してミールを横に一刀両断にした。
こうしてニアサイドの冒険者パーティーの1つ【火蜥蜴の尻尾】は全滅した。
その数刻後、新たに侵入者して来た五人組の冒険者パーティーはプフェルトナァの率いる部下に全滅した。
To be continued.......