(乙女心500万円ほどで売ってくれませんか?)
外は北からなだれ込む寒風が温度を下げている。気象庁の発表によれば今年一番の冷え込みが予想されている。
そんな寒さを感じさせないほどあったまった部屋で男は一人唸り、悶えていた。
男の名は美濃和金時、市場の支配者美濃和財閥の御曹司で最年少天才投資家。
「わからん」
金時は執務室の机に伏せ込み考えていた。
女だからか、それとも伊吹莉乃だからなのか……
自由を選ばず、仕事を欲した 望めれば何でも手に入ったというのに何故だ......
「自由を与えたのに働きたいなんて、あいつはバカなのか?」
考えれば考えるほど女という生き物は何を考えているのかさっぱりだ......
「女の子がどうかしましたか......?」
ッ!?い、いつから居た!?
今来たばかりですよ、金時様が唸り越えをあげていた辺りからです。
「最初から全部じゃないか!」
「大丈夫です、何も聞いていませんし誰にも言いませんよ」
「頼むぞ......」
「だ、そうですよ。伊吹さん」
「......」
金時と伊吹はお互い見つめて動かない、正確にはその方向をお互い見ているだけで思考は麻痺し状況把握を拒み、何も見えてなく、何も考えていない
「あはは、なんかすいません」
真由子は愛想笑いで誤魔化すように笑って扉の裏から現れた。
暖房が部屋をより一層温度を増して温めた、しかしこの場の誰もが嫌な汗を流していた。
「金時様、どうですか?伊吹さんの初メイド服姿」
「どうって、似合ってるんじゃないか?」
「ふつー、ていうか質問を質問で返さないでくれますー?」
「ありがとう......ございます......」
莉乃は俯いて少し気恥ずかしそうに言った。
「さて、金時様」
「なんだ?」
「少し困った事がありまして」
「だから何なんだ?」
「メイドは足りています故にこの子にやってもらう事はありません」
「何だと、仕事なら何かあるだろ」
「あるにはありますが......」
「それをさせろ、僕は忙しいんだいちいち許可を求めるな」
「わかりました。よかったですね伊吹さん、あなたの仕事はこれから金時様の身の回り全てのお世話です、よろしくお願いしますね」
「はい、メイド長、私頑張ります」
「では今日は部屋の案内なども一通りしたいので明日からお願いします」
「金時様、では失礼します」
「失礼します」
二人は執務室を後にすると、部屋の温度は少しだけ下がったような気がした。
夜はまだまだ終わらない......
♦︎
執務室を出ると莉乃と真由子は薄暗い廊下を歩きながら部屋を確認した。トイレ、厨房、寝室......
都心から離れ、南西に位置する高級住宅街が立ち並ぶ都市、羽生町
「こんな大きな御屋敷......フィクションの世界だけだと思ってました」
「ごく普通の一軒家に住む人や、高層マンションに住む人、ここみたいな豪邸に住む人もいます、人それぞれですね」
「そうなんですね、知りませんでした、今まで遊んできたおじ様方もこんな家に住んでいたのかしら......」
「それは......ごめんなさい、私は考えたくありません」
「雑談はここまで、ここが最後の部屋、ここは空き部屋でしたが今日からあなたの部屋です」
「と言っても寝るとき以外特に使わないと思いますが、自由に使ってください」
小さく莉乃が頷くと真由子は納得して話を続けた。
「これで一通り紹介しました。トイレとお風呂、金時様のお部屋は優先的に覚えてください、さて明日からの仕事ですがまずーーーー」
真由子は莉乃に仕事を説明すると、部屋を後にする、ゆっくりと扉は閉まり静寂だけが残る。