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欲望の趣くままに

作者: からは

 勇者や悪役令嬢はたまた脇役なんかの話が事欠かない異世界転生物。まさか自分の身に起こるとは思ってもみなかった。

 前世の自分が何で死んだのかなんて思い出せないからきっと突然あっという間もなくその人生は終わったのだろう。新作という程新しくはないけど評判のよかったゲームに手を出しつつ次のゲームの発売を心待ちにしていたOLだった。

 まああの時点で死んだのなら家族は悲しんだろうなとは思うが今となってはどうしようもない。

 今を生きる私には所詮取り戻せない過去のことである。

 それでこの世界である。前世を思い出した瞬間に諸先輩方のような華々しい活躍も恋物語もないことを悟りました。

 だって既に初老に差し掛かった老婦人だったんですもの。

 

 

 長年連れ添った旦那様が亡くなって悲しみにくれてくれてやっとのことで葬儀を出したところでした。

 既に子供が孫を作っていて家督も譲り済み。身分がそこそこ高かったお陰でそれでも暮らしに事欠かない。夫婦でのんびり余生を過ごそうとしていた矢先のことでした。

 明日から一人でどう過ごせばいいのかと嘆いていてふと「ゲームしなくちゃ」と呟いた。それを切欠に怒涛の如く前の人生のことを思い出しました。

 そしてこれが記憶にある間際までやっていた乙女ゲームの世界と一致すること。しかしながら舞台となった時代より20年は前であることを認識しました。

 呆然とましたよね。それが確かなら主人公たちはまだ生まれていないし、それよりも何よりも舞台となった学園が存在していないことに。

 それはそうです。一応騎士の養成機関はあるが純粋な学び舎ではない。あのゲームは西洋ファンタジーな世界感でありながら学園物だった。そのに入学してくる主人公。そこには既に皇太子や宰相の嫡男等といった顔ぶれがいてってのはどうでもいい。

 貴族の子女は大体自家で教育されるのが常であった。一応女性にもそれなりの教育をされていたが男女ではその内容が大きく違う。 そこまで思い出して、どうして転生したのが神とあがめる一番好きなゲームではないのかとかいうちゃちな嘆きなんか吹き飛びましたよね。

 私がやらねばならぬのでしょう。

 ないのなら作って見せようホトトギス。

 開拓精神に溢れたマイナージャンル信者を舐めるなよ。

 

 

 その一心で作りましたよ学園。

 それやぁ並大抵のことではありませんでした。まずは学校教育に理解がないから生徒が集まらない。それ以前に教師がいない。幸いお金と地位があったからコンコンと一人一人口説いていきました。

 教師は各家庭に出入りしている家庭教師に何とかお願いして皆が貴族の子弟が一同に学ぶ学び舎には半信半疑でしたがお給金が出るのならと何人かが協力してくれて、懇意に付き合いのあった家から後継ぎ以外の子供を何とか生徒として来て貰って、初めは本当に小規模で開始しました。

 初めの授業の時に不覚にも泣いてしまったのは当時の教師たちにも生徒にも内緒にしてもらってます。

 5年くらいでなんとか学校の体裁を取れるところまで漕ぎ着け。騎士志望の子の一般教養の授業は引き受けることになり。10年くらいで完全男女別の校舎だったのを校舎拡大のどさくさに紛れてぽーんと一緒にしちゃいました。

 その後本当に王族の血筋の子まで預かれるようになるまでになりました。

 ギリギリ間に合いましたよ20年。

 よく私長生きしたよね。

 

 

 もしかして同じく前世の記憶とか持ってて私が置かれている状況が分かっている方がいたら何で自分が関わることも出来ない物語の為にそこまで一生懸命になるのかと疑問に思うかもしれない。

 しかし同胞なら分かっていただけるでしょう。

 『生粋の乙女ゲーマーは自分が主人公になってなんて夢想しないんだよ。義兄妹物なら家の天井になりたいし、学園ものなら教室の棚になりたい。そして紡がれる恋物語を特等席で見たいだけなんだ』

 だから欲望の趣くままに校舎横にでっかい木を植えたし教会も作った。妖精の像も目立つところに置いた。誰もがあれ何?と首を傾げたが良いんだ単なる験担ぎだ。そしてそれを眺められる場所に自分の仕事部屋を作ってもらった。

 ないなら作れ。今はそれっぽく空と海の神様と外から来た樹の女神の神話を捏造した本を執筆している。多少うろ覚えだけど指摘するものは居ないから良いんだ。

 くそう。なんでこの世界には魔法が存在しないんだ。

 

 

 『学校教育の母』とか巷じゃご大層なキャッチフレーズが付いているそうだがそんなたいした物じゃない。

 今は伯爵令嬢と騎士科の男の子の恋の行方の方が私には重要だ。

 伯爵がいいところに嫁がせたいと手塩にかけただけあって、そりゃあもう教養高く優しく美しい娘さんなんだ。騎士科の実直を絵に描いたような凛々しい男の子と目線だけ絡ませて互いに溜息を付くのが堪らない、いやいや切ないよね。

 チャンスは作ろうホトトギス。

 ちょうど皇太子が学園にいるから騎士科と一般科との合同で授業を設定しましょう。なんとか彼と親密になれれば伯爵令嬢も夢じゃないかもよ。

 今日も自力で再現させた双眼鏡もどきで学校の様子を伺う。

 おっと、あの皇太子はそういえば主人公の相手だった。忘れてないですよ。ちょっと後回しだっただけで。

 そろそろ主人公が入学する頃合だったとは思う。

 しかし私は忙しい。

 そもそもですね、私は同級生より幼馴染物の方が好きなんですよね。

 だから一時期は幼等教育に手を出そうとしたけど流石にこれは理解が得られず実現しなかった。

 私が預かっているのは前世で言えば中学生の年齢の子達。それより上の年代になると騎士科は実務に尽くし、女生徒は結婚しだすからこの世界では到底無理だった。

 だから苦肉の策で将来入学を予定している子達の学校見学を企画した。年に三回。今日はその日だ。

 幼稚園くらいの年齢の子供を集めて将来の学び舎と先輩方を見て回るんです。殆ど初対面だから人見知りしてあんまり打ち解ける子は少ないけど人数を集めればその中の一握りはお気に入りの子を見つけて手をぎゅっと握って離さなかったりする。

 溜まらんですね。ボク達その積極性を伯爵令嬢と騎士科の朴念仁に別けてあげて欲しいです。

 こうしておけば何年後かに彼らが入学してきた時に再会系幼馴染が誕生するって寸法さ。いやいやこれを気に交流を持って共育系幼馴染になるかもしれない。どちらも美味しくいただけます。おぬしも悪よのう。

 だから主人公の物語にだけ注視している暇は私にはない。

 盛り上がってきたら教えて欲しい。毎日観察、いやいや見守らせてもらおう。

 困難が立ちふさがったら助言も助力も惜しまないよ。

 お陰さまで毎日楽しく過ごさせてもらっているからね。

 じゃ!

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