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かみこい~光の神と陰陽師~  作者: せらひかり
1 陰陽師と出会うこと
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「それは、残念だったねえ」

 しんみりした様子で、御手洗が息を吐いた。

「加西がヤモリ型の神を食べた可能性が高い、にしても証拠が揃っていないからね。しばらく、数人をあてて様子を見よう。六葉くんは、本件についてはいったん、終了でいいよ」

「ではそのように」

 六葉は御手洗に、報告書は後ほど、と返してから、場を辞する。

 六葉の後ろをついて歩きながら、日和は辺りを見回した。

 今日は一緒についていったが、相変わらず不思議な建物だ。仕組みも変だが、あんなふうに変な置物があったり、楽器が天日干しされていたり、実に珍妙である。

「あのまま置いてて、傷まないの?」

 日和は六葉の袖を引いたが、六葉は嫌な顔をする。

「六葉、どうしたの? お腹痛いの?」

「腹痛ではない。胃は痛いが」

「胃?」

「場所が悪い」

 場所――。楽器が、干してある。

 見たことがある。この光景。

 日和の胸が早鐘を打つ。

 まさか、もしかして。

「ここって、あの、変態のところ? また来ちゃったの?」

「変態とは何と胸を引き裂くような言葉!」

 芝居がかった叫びが聞こえる。

 どちらから聞こえたか分からなくて、日和はぐるぐると六葉の周りを回った。隠れるところがない。落ち着け、と六葉に首根っこを掴んで止められる。

「だって、」

 怖い、と言いかけたとき、視界が開けるようにして、芝居がかった声の主が現れた。

「ほら、そこの。小さい可愛らしいもの。なんと呼べば許されようか!」

 僧形の男、東西四季が、快活に笑う。まとっている紫を帯びた黒の衣、黄色の帯は、どれも光沢があって豪勢だった。

「何か、ばかにされてる気がする」

「している。そういう男だ」

 六葉の相づちにもめげず、日和は毅然と言い返した。

「私、何に見えますか。言っておきますけど、物の怪じゃありませんから」

 東西は、きょとんとした。

「ははっ、女は皆すぐにそういうことを言う。どこで覚えてくるのかねえ。いくつに見える? どう見える? なんてな。歳なんて数えりゃ分かることなのに。仏なんざ何億年も彼方に迎えにくるぜってくらいなのに、十年二十年がそんなに大事かね」

「女性に年齢を聞くの? 姉様とかも、求婚者にそれをされて、すっごい笑顔で赤い毒の実を山盛り贈ってたけど」

「お前のねーちゃんはいったいいくつなんだ? 神も魔も規模が違うから、長い奴は長くて短い奴は一瞬だろうが」

(この人、私が神って分かるのかなぁ)

 それにしては、態度がぞんざいすぎる気もする。怪訝そうな顔をしていると、東西は雑な仕草とは裏腹にごく優雅に一礼をした。

「ま、そういうことが言えるのも、お前さんらが許してる間くらいだな。調子乗ってる人間がどれっだけ醜いか、よおく知ってるぜ。調子に乗りすぎぬよう気をつけるゆえ、心広く、許されよ!」

「は、はは……」

(何この人……)

 日和は乾いた笑いを漏らして、六葉を見てみる。彼は無言だ。普段官僚相手に張り付けているよそゆきの笑顔も、心なしか非常にうろんである。

「ともあれ、葦野の件はどうだった?」

「それでしたら、御手洗様に報告してあります」

「この俺が、いちいち手続き踏んで、術司と喋りに行くかよ。隣人のよしみで、話して行け、俺が許す!」

 六葉が、何度目かのため息をついた。

「神の恋慕を、葦野がたまたま複数回阻んでしまい、呪い殺されたようです……ただし、加西が関与している」

「加西かぁ」

 うんうんと頷いてから、東西は少女の方に顔を向けた。

「それでは、その小さいのは、かなり恐ろしい思いをなさったのでは? 一ノ瀬なんぞにひっついてないで、うちにおればよいものを」

「ここにいろってこと? 冗談じゃないよ」

「文句が勇ましいわりに、震えて、陰に隠れてんじゃねえか」

 東西がおかしげに笑う。見かねたのか、六葉が口を挟んだ。

「あまりからかわないでやってください。珍妙な物の怪とて、うちの式神です。お仕えすることはできない」

 東西が目を丸くした。

「式神ねえ……? あっはっは! こりゃ大変だ」

「私は物の怪じゃありませんったら」

 遅れて日和が文句を言うと、東西は疲れたような顔をした。

「お前もいちいち律儀だなあ」

 まぁ頑張れよと、雑な社交辞令が渡されて、それが最後だった。辺りの景色がぐにゃりと変わる。気づけば、建物の入口に立っていた。

「ほんっと、変な人だね」

「同意する」

 衛兵に挨拶してから、六葉の家に歩いて戻る。疲れたと文句を言ったら、背負うかどうか迷われた。六葉もかなり歩き回っているはずで、悪いなと思ったので、日和は自分で歩いた。

 彼が車を使わないのは、都の異変の調査をしながら歩きたいためと、時間の節約のためらしい(貴族はたいてい牛などに車を引かせて、それに乗るという)。

 六葉の家に着くと、紙の人達が顔を拭いてくれて、着替えもさせてくれた。ご飯も食べて、眠たくなってきた日和は、頭から布をかぶって転がる。

「おやすみ~」

 疲れからか、あっと言う間に眠りに入る。

 適当に生返事をしながら、六葉は報告書の作成に取りかかった。


「ん……?」

 文机に向かって書面を書き上げた六葉は、違和感に首を傾げる。

 室内に、寝息があった。

 生物型の式神はこれまでにもいたが、それは蜘蛛や小鳥であって、自宅の床に寝転がっていることはなかった。

 では、これは何だ?

「忘れていた……」

 契約を解除しそびれた、新しい式神が、近くの床に敷物を敷いて、ぐっすりと眠っている。

 役に立ったのか何なのか。手のかかる式神だった。

 その、健やかな寝息につられて、六葉にも睡魔がやってくる。

「まぁ、いいか」

 寝ているところを起こすのもかわいそうだ。

 契約を解除するのは後回しにして、六葉は自分も寝ることにした。

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