部活動を決めよう
「ただいま」
僕は、玄関で靴を脱いで、2階の自分の部屋に向かおうとした。
「おかえり。どうだった、学校」
母さんが、今から玄関までやってきた。
「んー。まあまあかな。なんか、想像していたよりもやることが多そう」
「そうなんだ。食堂は行ったの?」
「行けなかった。残念ながら。まぁ、明日以降に期待かな」
「さいですか。ところで、お昼ご飯はなにがいい。昨日買ってきた天ぷらのお惣菜が残ってるから、揚げ直して蕎麦に載っけって食べようかと思ってるんだけど」
「それでいいよ。蕎麦好き」
「了解です」
母さんは、サムズアップをして台所に戻っていった。なんとも若い母である。さてさて。わたくしは部屋に戻ってゲームでもしよっかな、と思いつつ階段を上っていったのだった。
入学して、1週間が経った。
簿記の授業もやり、仕訳や貸借対照表、損益計算書、試算表、などなど簿記の基礎的な部分を学んだ。いろいろ難しい単語が並んでいるという印象だった。少なくとも、高校生でこんな単語を聞いてるのは商業科の学生くらいであろうと思った。
情報処理は苦戦した。パソコンのタイピングがこれほどまでに難しいとは。タイピングがものすごい奴がいたので、「どうして早いのよ」と聞く「オンラインゲーム」と返された。なるほど。タイピングの上達にはオンラインゲームをやるのが良いらしい。僕は、ゲームはやるもののもっぱらオフラインのRPGかサッカーゲームだった。FPSも好きだったけど、オンラインはやっていなかった。
しかし、1週間経って気づいたのは、商業科目は面白いということだ。間々に普通科目もあったが、中学校の延長で、歴史の授業では縄文時代から始まるし、英語は意味不明なSVOなる文法用語も登場してきた。(英語については、僕の知識不足だった感はある)退屈であった。
商業科目は、すべてが新鮮な内容だったし、何より他の普通科で勉強している人たちは学ばないことだし、大学生が学ぶような内容を勉強しているんだと思うと、少しだけ優越感があった。僕にぴったりかもしれないと思った。
「あのさ、部活の件は考えてくれた?」
進が、話掛けてきた。そういえば、そうだ。すっかり忘れていた。
「えっと、簿記部だっけ?」
「そうそう。簿記部。なんかね、簿記部先輩たちがいなくて、5人いないとできないんだってさ」
「どういうことよ」
確かに、簿記部という部活はあるらしかった。僕も彼に言われてから気になってネットで調べていて、そういう類の部活はあるという情報は仕入れていた。しかし、この伝統校で簿記部がないとは。
進曰く、簿記部自体はあるにはあるが、正式な部員はいなく、ほぼ休部状態だったらしい。優秀な生徒が簿記1級を取得したり、1級を取るレベルの奴が簿記大会に出るときに登場する部活とのことだった。まさに、学校の広報部的な都合の良い部活なっていたらしい。
「なにない、なんの話してるの?」
元気な声で、僕らに話しかけてきたのは橋本さんだった。
「部活。橋下さんはどっかはいるの」
「あたし?んー。特に決めてないけど。あんまり、興味なくてねぇ。バイトとかしたいし」
「商人としては、バイトはするべきだね。経済活動とはなんたるかを身をもって教えてくれるからな。しかし、簿記も重要だ。簿記こそが経営活動の根本だ」
気がつくと、先生が僕らの後ろに立っていた。
「先生」
3人は口を揃えて言った。あまりのシンクロぶりに、その後笑いあうくらいであった。
「じゃあ、簿記部入ります」
開口一番、口にしたのは橋本さんだった。どうして、入ろうと思ったのかはわからないけど、彼女は簿記部に入ったのだった。
「もちろん、俺も」
進は、絶対に入りますというような自信満々の表情を浮かべていた。
彼らは、親が税理士や会計士。いわゆるサラブレッドだった。しかし、自分はどうだ。商業科目に興味を持ちつつあるも、たんなる食堂が好きで入って来た近所のアホンダラである。彼らとは違う。運動部にでも入って、バラ色の学園ライフを送っていた方がマシである。
「僕は……僕も入ります」
自分でもわからないが、思考とは反対の言葉を口から発していた。進は、とてもよろこんだし、なぜか橋本さんは勢い余って、僕に抱きついてきた。
「みんなで頑張ろうじゃないか!わははは」
先生は、とても嬉しそうにしていたのだった。




