君と僕の内部統制5
「つまり、内部統制っていうのは有効に機能しているように見えるけど、その統制を設計した本人による無視を防止することは困難ということ?」
橋本は進に尋ねた。
「そういうこと。限りなくゼロに近づけるように、相互牽制という方法を用いて、統制の設計者を監視する方法があるけれど、それでもやっぱりリスクはゼロにはできないんだよね。だから、不正はおこってしまうんだ。」
二人は、やっぱり頭が良いと僕は思った。羨ましい限りである。
進が黒板を黒板消しで拭いて書いていた絵を消し始めた。僕は、なんだか勿体無いなと思ったが、明日も授業があることを考えると消さなければならないと思い、口を塞いだ。
橋本は、教室の窓から外を見ていた。外はすっかり暗くなっていて、学校横の道路を車が走りさっていくたびに、ヘッドライトが次々と流れていっていた。
「そろそろ俺帰るよ」
進は、学生カバンを肩にかけて僕らに挨拶をした。
「うん、また!」
教室には、僕と橋本のふたりきりになってしまった。でも、僕はずっと自分の席の引き出しの中を探していた。財布が見当たらなかったのである。財布はどこだどこだと探す僕であったが、その姿は特に興味がないようで、やはり橋本は外をずっと見続けていた。
「まだ見つからないの?」
「あるとしたら、引き出しに入れたはずなんだけど……でもやっぱり机に置いた気がするけれど」
「ロッカーじゃないの?」
僕は、ロッカーを調べていないことに気がついた。なんとも初歩的なミスである。僕は、「調べてくる」と橋本に告げて、教室を出た。廊下に設置されているロッカーを開けて中を調べた。
ロッカーの中には、今日の体育で使った体操着とジャージが良い感じの匂いを発しながら鎮座していた。僕は、ぐっと何かをこらえて、体操着とジャージをロッカーの中から取り出して、床にそっと置いた。
簿記の教科書と、原価計算の教科書、現代文の教科書、科学の教科書……僕は、ひたすらロッカーから物という物をほじくり返した。
すると、ロッカーの中から何かがボトっと落ちた。落ちたモノを確認するとそれは、僕が探しに探していた財布であった。財布を拾い上げて、僕は中身を確認したが特に何かが盗まれているような形跡はなかった。僕は、安心して息を吐いた。ロッカーの中に、取り出した物を無造作に入れ戻して教室に僕は戻った。
「あったの?」
橋本は、僕の席の近くに座っていた。
「あったあった!」
僕は、大変嬉しそうに橋本の問いに答えた。
「それはよかった。うんうん」
橋本は深くうなづいていた。すると、橋本は何かを思い出すような仕草をして僕に質問をしてきた(たぶんあれは、わざと思い出すような仕草をしていたんだろうと後で思った)
「今度の25日って暇?」
25日?25日とはなんだ。12月の25日といえば……ああ。いわゆるカップルたちがデートをする年末屈指のイベントデーではないか。僕は、頭の中の手帳をひっくり返して日程を調べたが、残念ながら空白で、とっても暇であった。
「暇だねぇ」
僕は、残念そうに返事を答えた。
「なによ、その誘われてしまったみたいな返事の仕方は」
「そんなつもりはないけど。で、なんかあんの?」
「そう何かあるのよ。ちょっと見たいものがあるの。一人で行ってもつまらないのよね」
「しょうがない。行ってあげるよ。ケーキくらいおごってね」
「はいはい」
こうして、内部統制の話は終わった。しばらくして、ニュースで内部統制がどうとかいうニュースを僕は見た。内部統制がどうとか。会計士がどうとか。きっと、お父さんがゲームを買ってあげるかあげないかみたいな問題だろう。
話をややこしくするから話は難しいように聞こえる。僕は、コーヒーを飲みながらそう思うのであった。
−外伝・君と僕の内部統制 おわり−




