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君と僕の内部統制3

 外の温度と教室の温度に差が出てきたのか、ガラスが曇り始めていた。外を眺めると相変わらず灰色の世界が広がっていた。

「コントロールって、なんかあれか。制御するとかそういう話っていうこと?」

 僕は、よくわからなかった。なかなか簿記の話からかけ離れてきている気がしてきた。

「まぁ、そういうことだよ。内部統制の本質っていうのは、リスクを未然に防ぐことが重要なんだ。そして、リスクが発生した時の対処法もね。じゃあ、さっきのゲーム機の話で考えてみてよ」

 進は、黒板の前にたって外を見た。ポツリと「寒そうだなぁ」とつぶやいた。


 さっきまで話していたのは鈴木家のゲーム機の買い方である。

 鈴木家では、お母さん、お父さんの順に承認を得ていく必要がある。僕自身がお金をもっていたとしても、すぐには買えない仕組みになっている。僕は何かに気がついた。

「進」

 僕は、外を見ている進に声をかけた。進は「あ。もしかしてわかったのかな?」と嬉しそうに聞いた。

「コントロールは、お母さんとお父さん」

「ズバリ正解だよ、イチロー」

 進は、指をパチンとならして僕の方を指差した。


 進は、黒板のチョーク入れから何種類かのいろのチョークを取り出して、黒板のシルバーの台に置いた。そして、進はすらすらとゲームを買うまでの流れを絵にした。

 ゲームを買うためにお伺いを立てる僕。

 それを聞いて悩む母、そして父にお伺いを立てる父。

 了承をする父。

 念願のゲーム機を手に入れることができて、飛んで跳ねて喜ぶ僕。

 一連の流れの絵が、あまりにも巧かった。まるで漫画のキャラクターのような絵だったのでびっくりした。

「進、絵がうまいね」

 僕が褒めると、進は照れた。彼にこんな才能があるとは僕は思ってもいなかった。彼が頭がいいのはこういう部分が影響しているのかもしれないと思った。普通に勉強しても楽しく無い。だけれど、可愛らしいキャラクターやかっこいいキャラクターを描きながら覚えたら、記憶の定着力が良いのかもしれないと思った。


 僕は、改めて進が書いた絵を初めからまじまじと見た。そして、この絵を見る限りダブルチェックになっていることがわかった。お母さんとお父さんが僕がゲーム機を買うことを承認している部分だ。これは、鈴木家の家計的な範囲を超えていないだろうかということをお母さんとお父さんがチェックしているのだ。僕にゲーム機を買わせたくないのではないということだ。慎重に慎重に考えているのだ。

「これが内部統制」

 僕はつぶやいた。

「そういうことさ。でもまぁ、本当に簡単な簡単な内部統制だよ。内部統制なんて硬い言葉を使うとすごい言葉!って思うかもしれないけれど、全然違う。一般家庭でも日常的に行なわれていることなんだよ」

 進は、うなづきながら僕の方を見た。

「でも、だからといって【内部統制をする】という動詞的な表現を使うことは間違っているんだよ」

「なんで?」

 僕は、またしても現れる難しい話に首を傾げた。もはや会計の話でもないし、僕の財布に対する意識は太平洋を渡って、西海岸あたりに流れ着いている気がした。

「内部統制はあくまでも名詞。さっきのゲーム機を買うための一連の流れの名前を内部統制っていうんだ。もし、内部統制をするとか言ってる人がいたら注意してあげないとね。ちなみに、内部統制をするって言い方をしている人はたぶん、牽制とかチェックとかそういうことを言いたいんだけど、語彙が乏しいことにそんな話になってしまっているんだと思うんだ」

 

 僕は、あることに気がついた。

 進のキャラクターたちが、黒板の中で動き出したのだ。飛び跳ねる僕。中間管理職のごとく家の中で動くお母さん。一家の大黒柱で、株式会社鈴木の社長的存在のお父さん。この中で、一人だけ自由な人がいることに僕は気がついてしまった。気づいてしまったのは僕の頭がいいからでは無い。進の絵が巧いからとてもわかりやすかったのだ。

「進、僕、気がついちゃったよ」

「なにが?」

 進は、初めからわかっているかのような顔で僕の方を見た。どうやら、この「気づき」を僕が自主的に行うことを望んでいるような顔だった。

「さっきのゲーム機の話の中で一人だけ自由な人がいるよね」

「お。いい線ついたね。その通りだ」

 僕は、黒板の前に歩きはじめたのだった。

 

 

 

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