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君と僕の内部統制2

 空一面に、灰色の雲が敷き詰められて、昼間から明るいのだけれどなんか暗い日だった。良い言い方をすれば、冬らしいかった。

 進は「内部統制」なるかっこいい言葉を言い放ったが、僕のこころは消えた財布の行方が気になってしかたがなかったのだけれど。

「内部統制なんて言葉知らないよ。君は、かっこいい言葉をしっているんだね」

「まぁ、かっこいいことばだよね。この言葉は、分類的には監査論とかそういう類で聞く言葉なんだ」

 彼は、本当に仙崎進だろうか。一緒に勉強はしてきているが、監査論なんて勉強をした覚えはない。ああ、そうかわかったぞ。彼のお父さんは確か、公認会計士で、今は税理士登録をしていると聞いた事があった。

「それで、内部統制ってなんなのさ」

 僕は、窓の外を見た。やっぱり灰色の世界が広がっていた。教室内に設置された古い暖房器具が、ぼうぼうと重たい音を出していた。僕らの学校の暖房器具は、天井についているビルトインのかっこいいものではなく、窓際に置いてあるチンケなタイプのエアコンだった。そして、おそろしく古そうだった。

「イチロー、イチロー」

 進は、僕の視界に手を入れて注意をむけさせようとした。僕は、はっとして、彼の方を見た。

「内部統制って云うのはそうだな……」

 進は、腕を組んで天井を一瞬見上げた。

「リスクの発生をコントロールで抑える仕組みのことかな」

 横文字が僕の前で、華麗なダンスをしはじめた。

「例えば、君がなにか大きなものを買いたいとしよう。テレビゲーム機でいいや。君の家だとどうやって買うんだい?」

 僕は、我が家のテレビゲーム機の買い方を考えた。

 鈴木家では、まずテレビゲーム機が欲しい場合、お母さんに相談する。お母さんは、ほとんど買ってはくれないのだが、クリスマスとかに相談すると「仕方がないわねぇ」とか言って重い腰をあげてくれる。そして、その足でお父さんを呼んでお父さんの承認を得てくれる。お父さんが「いいよ」と渋い声で言ってくれると、晴れて僕はゲーム機を買ってもらえるようになる。

「まぁ、どこの家もそうだとは思うのだけれど、お母さんに相談して、お父さんが了承してくれるパターンが一般的ってところかな」

 進は、黒板のほうに歩き始めた。そして、今言った流れを黒板に白いチョークで描いた。

「さて、ここで問題。これはどうしてこんな流れを取って、ゲーム機は買われるのでしょう」



 気がつけば、僕は財布をなくしている事をすっかり忘れて、進が出す問題を解く事に集中していた。

 お母さんにお願いして、お父さんが了承する。この流れはさも当たり前のことだったから、特段なにも思わなかった。当たり前のことをどうして当たり前なのかと考えることがこれほどまでに難しく、しかし楽しいのだと僕は思わなかった。

 お母さんは、いつもいつもテレビを見ながら「お父さんはケチよねぇ」とブツブツと文句を言っている姿を思い出した。僕は、お母さんの愚痴をよく聞く。でもそれは、お父さんを酷くけなすものではなく、ケチだとかつまんないとかそんな類いだった。

「進、全然よくわかんないよ」

 僕は、首を左右に振って白旗を揚げた。

「さっきさ、俺が横文字を言ったじゃない。リスクとコントロール」

 進は、自慢げに答えた。そういえば、そんなことをも言っていた。人の話を聞いているつもりだったけれど、意外と聞いていないものだと答えた。

「じゃあさ、君が勝手にテレビゲーム機を家のお金で自由に買えるとしたら、何が問題になる」

「いっぱいゲーム機を好きなだけ買える。問題なんてない。僕としては幸せこの上ないじゃないか!」

 僕は、反論するかのように言った。進の言っていることは間違っている、僕にとっては良いことづくめずじゃないかとわかるようである、というような表情を進はしていた。

「イチローは面白いね。まったくそのとおりだ。反論の余地はないよ」

 進は、大きな声で笑い始めた。

「でもね、それは君の言い分だ。お父さんとしては多分違うはずじゃないかな。まぁ、愛する息子だから多少の出費は良いと思っていると思うけれど、いっぱいゲーム機を買われた何十万とお金が消費されてしまうから、必死に稼いでいるお父さんとしては怒ると思うんだよね」

 僕は、進の言っていることに頷いた。確かにそうだ。僕は嬉しいが、お父さんとしては嬉しいとは言えない状況である。

「ゲームを買うという一連の流れの中に、(ゲームを大量に買って、お金を大量消費する)という問題、つまりリスクが発生すると言えるんじゃないかな?」

 ここで、進の横文字が僕の頭の中でつながった。リスクは問題という意味だ。お父さんにとっては、進の言った無意味なお金の大量消費が発生がリスクと言えるだろう。

「ゲーム機以外でもたくさんあるよね。スマートフォンのゲームで、いっぱい課金して料金の請求が10万単位で届いたとか、ニュースでやってたよね」

 進は、本当に経済や時事ネタを知っている。そういうニュースもあったなと思った。ぼくなんて某掲示板のまとめサイトを見ているくらいで、情報の質としては最低なものばかりである。

「では、コントロールはなんだと思う?」


 

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